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新感覚!解決しないミステリー小説 ロンドの旅Part1ロンドの旅 Chap2プサンの事件

9.光明

次の事件を数日間選定していたが、星3つどころか最大で星1.5と、難航していた。

彼女を探し出すためだけに親会社が開発したこのシステムには、彼女のあらゆるパーソナルデータやこれまでの言動がインプットされている。そして、各国で発生した著名人が被害者の事件情報は発生都度、自動でアップデートされる仕組みである。彼女に関するデータと事件のデータを掛け合わせ、彼女が関わっている可能性をAIが計算して"星の数"という形で見える化しているのだ。

しかし、星1〜2の事件がほとんどで、今のところそれらに彼女が関わっているケースはない。ある意味、精度が高いと言えるかも知れないが、このシステムに頼った捜査方法ではどうしても受動的にならざるを得ない。星2.5以上の事件発生を待つほかなく、それ以外の手がかりを追えないことが、この仕組みの最大のデメリットと言える。

3人は滞在場所近くのカフェにいた。

 プサンの事件、捜査が進んでいるようね。

 珍しいじゃないか。メライが手を離れた事件に興味をもつなんて。そう言えば、ニューヨークでもそうだっかな。

 それだけ暇ってことよ。"星の数"とか"上"の指示を待つだけなんて退屈だわ。

 僕も同感だよ。早くソナタを見つけ出したいのにね。しかし、16日の夕刊が別荘に置きっぱなしになっていて、あまりにも杜撰だったね。

 その時点で、"あの人"の事件ではないと確信したわ。まあそこまで辿り着けたのも使用人のおかげ。主人は使用人に対して、全幅の信頼を置いていたったことね。彼女と2人で別荘で話したけど、あの良い噂がない主人のことを、彼女もまた信頼しているように感じたわ。

 そうだね。警察だけでもいずれ事件は解決していたと思うけど、ここまで早く核心に近づけたのは彼女がいたから…2人の厚い信頼関係の賜物ってとこかな。

そんな会話をしながら、3人は簡単に食事を済ませて店をあとにした。

 このままだと頭も体も鈍っていくばかりだなぁ。

彼らの能力であれば、自分たちだけで事件を追うほうが捜査が進みやすいと思っているのだろう。しかし、親会社からの指示が彼らを縛り、勝手な行動を取らないよう監視されていた。この状況も含め、いよいよストレスが溜まってきたのか、愚痴が多くなってきたようだ。

3人の前方から、大きめのショルダーバッグを下げた人物が歩いてきた。目深に被ったキャップとマスクで人相はまるで分からないが、背が高く逞しい体格をしていることが分かる。

 こんにちは。突然すみません。ソウル駅へ行きたいのですが、迷ってしまいました。どうやって行けば良いか知っていますか?

 流暢で、澱みない日本語で話かけられた。声の雰囲気から、年配の男性であると推測される。

 この道を真っ直ぐ15分ほど歩けば駅がありますので、電車一本でソウル駅まで行けますよ。

いつものようにほがらかな笑みを浮かべながら、親切に道案内した。

 ありがとうございます。大変助かりました。それでは。

 いえいえ。それでは。

3人は歩き出した彼の後ろ姿をじっと見つめていた。

 にほんご
 罠?
 追うよ!

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