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ミステリー小説 ロンドの旅 Chap3.東京の事件 5.訃報

右手を差し出すと、老人もそれに応じた。お互い力強く握りしめ、軽くハグを交わしたあと、3人で外の通りまで見送った。
 
 先生、何か弱気になったな。少し心配だ。

いつになく真剣な面持ちで小さく呟いた。

 それにしても、何なの?あのメッセージは。

 "上"に気づかれずに自分の居場所を伝えるための暗号だろう。これを解き明かしたとき、彼女に会いに行くことができるんだと思う。

 そんなの分かってるわ!"blot llA"が何を示しているのか、分からないってことよ。

 うん…僕にもまだ分からないが、彼女のことだ。きっと僕らにだけ分かるヒントをくれているはずだ。

店主へ挨拶をして彼らもバーを後にした。そして翌日の昼ごろ、耳を疑うニュースが飛び込んできた。

 ねえ、この人って…。

 せ、先生。

3人は沈黙し、その報道を聞き入った。

 …一昨日には授賞式で久しぶりに公に姿を現した矢先の出来事でした。警察は殺人事件と見て捜査を進め、さらに詳しく状況などを調べています。
 それでは次のニュースです。…

 もしや、僕らに関わったから先生は…。

そう呟いたとき、事件コンサルタントの名刺に書かれている電話番号への着信が入った。スピーカーに切り替え、応答した。

 はい。エピソードの幸引です。

 ロンドくん、久しぶりね。

 その声は…先生の奥様!

 お見事。さすが、相変わらずね。

 奥様、報道を拝見したのですが、内容は本当なのでしょうか?

 ええ…ついさっきのことで私もまだ整理がつかないのだけれど、今朝警察の方がいらして、分かっている範囲で経緯を聞いたわ。

 お悔やみ…申し上げます。

 帰宅した後、あなたと久しぶりに会ったことやこの連絡先のことを聞いたわ。そして、もし自分がいなくなったら、代わりにあなたへ伝えてほしいことがあると言われたの。主人は…死期を悟っていたのかしら。

 昨日お会いした時はそんなことは何も…。ただ、以前の先生とはどこか違う雰囲気を感じていました。どことなく、不安げな様子を。

 少し前から、何かに追われているような気がするって言っててね。警察にも相談してたし、ボディガードも付けていたのよ。それなのに…。

娘へ目配せし、タブレットを確認するよう促した。画面を見た彼女は、珍しく驚きの表情を隠せなかった。父親はそれに気付いたが、平然を装い会話を続けた。

 そうでしたか…。

 それでね、こんな時なんだけど必ず伝えるように言われてたから、すぐにあなたへ電話したの。…そのまま伝えるわね。

 はい。お願いします。

 「情報は君の手元に揃っている」と「私の事件は決して君たちのせいじゃない。君のやるべきことに集中してほしい」これが、主人が残したメッセージよ。
 
 揃っている…?!奥様、ありがとうございました。何かが掴めそうです。先生は最後まで僕のことを思い、自分に危険が迫っているにも関わらずメッセージを残してくださいました。本来なら私のこの手で犯人を探し出し、事件解決をしたいのですが、先生の厚意を無駄にはできません。必ず、彼女を探し出します。

 そう、それは良かった。きっとあなたたちは再会できるって主人も言っていたし、私も今日この電話で確信したわ。捜査は警察に任せて、あなたはあなたのやるべきことをやってちょうだい。頑張ってね。

 はい。

終話ボタンを押した数秒後、答えに辿り着いた。

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