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ツマミ 具依 「三軒茶屋のインド」と呼ばれる場所があるらしい

 *このnoteは、モテアマス三軒茶屋最後の年末を心待ちにする有志達により執筆される『アドベントカレンダー記事』になります。
クリスマスに引き続き、大晦日の12月31日まで毎日1記事ずつ住民たちによる独自のエピソードが公開される新企画です。

本日のライターはマジ恋を特集した記事を書いた本物のライターであるツマミ具依さんです。第一回マジ婚の運営リコがDMを送ったことをきっかけに、モテアマスと接点を持つ

潜入

三軒茶屋から徒歩10分「三軒茶屋のインド」と呼ばれる場所があるのをご存じだろうか。

いったいどんな場所なのか。

その場所に到着すると、黄金に輝く仏像がお出迎えしていた。

思ったより早くインドの意味が回収されてしまった。

扉を開けると、棚に収まらないほどの靴がぐちゃっと出現。

リビングは、とにかく情報量が多い。壁には無数の貼り紙が貼られ、天井からは謎のオブジェがぶら下がり、あちこちを見渡してしまう。そんな空間の中心には人が集まり、飲み食いしながら、自由な時間を過ごしている。

ここは、「モテアマス」と呼ばれる大規模シェアハウス。元社員寮の3階建て15LDKマンションで、年齢性別問わず共同生活を送っている。毎日のように多種多様な人が集まる混沌空間ゆえに、「三軒茶屋のインド」などと呼ばれている。

14部屋ある各個室は、木材を使って2人部屋に改造されている。DIYが得意な住民によるものだとか。物件の家賃は非公開だが、住民の家賃は月1万円ちょい~7万円ちょい前後。(月5住民から個室フル住民まで)

何人住んでいるのか聞くと「30人くらい」と曖昧な答えが返ってきた。

ここは“ファッション住民”と呼ばれる住民未満の人も多く出入りしているため、住民も何人住んでいるのかわからなくなってしまうようだ。

駐車場もある。が、聞くとこれも立派な居住スペース。

噂のモバイルハウス

車の中を改造して、住めるようにしている。家賃は駐車場代のみだから安上がりなんだとか。

環境がそうさせるのか、ここで語られるエピソードも濃い。

・冷蔵庫にあるものは基本食べていい
・中学生が入居したことがある
・2畳の部屋で新婚生活を送る夫婦がいた
・帰宅したらAV女優がいた

などなど、フツーのシェアハウスじゃないことがわかる。

15LDKの家に住むなんて、嫌だな

このシェアハウスはどうやってうまれたのだろうか。話を聞いてみると、カオスなのは見た目だけじゃないことがわかった。

2016年11月にスタートしたモテアマス。

当初住民がたった一人で、部屋を“持て余して”いたため、そう名付けられた。そのたった一人の住民だったのが、管理人であるカズキタさん(37歳・デザイナー)だ。

カズキタさん

「いままで合計120人と住みました。100パターンの人を近い距離で知れたことは、すごく大きい経験値になっています」

カズキタさんは、モテアマスを始める前に、7年間ほどいくつかのシェアハウスに住んでいた。横浜、高円寺、週末は長野など、いろんな場所に住んで楽しんでいたが、一方で、気になる点もあった。

「普通のシェアハウスは、不動産の仲介が入っている。ちゃんと稼いでいて家賃が払えそうな人であれば審査は通るので、別に住民側が人を選べるわけではない。そうすると、面白い人もいれば、全然価値観が合わない人も入ってくる。それがシェアハウスの一つ魅力でもあると思うんですけど、ぶっちゃけ嫌な人いたら家に帰りたくなくなるじゃないすか」

 そこで、カギキタさんは、「仕事して帰宅して寝るまでも、ずっと楽しい」という人生を目指し、自分でシェアハウスを立ち上げることにした。

「1年くらいかけて物件を探しました。当時、シェアハウスとして貸りるのが、めちゃくちゃ難しかったんですよね。シェアハウスやりたいというとダメだったり、友達同士で借りるのはダメって言われるんです。でもカップルだったらいいって。なんで?男2人でカップルっていえばいけるのかな?とか考えたり(笑)」

 物件探しに苦戦する中、旅先の出会いで状況は一転。不動産業の人と友達になり、物件を紹介してくれることに。半年ほど借り手がつかなかったという物件を、コネクションもあり、初期費用15万円の破格で契約できた。

 だが、ネックとなったのが、部屋のサイズだ。

「15LDKなんて、嫌だなと思ったんすよ。一緒に住むほど仲のいい友達って、15人もいなくないか?って。いろんな人をいれなきゃいけないのはちょっと面倒くさいなと思ってたんですよね。コミュニティなんか保てる自信ない、無理だわって話していました」

一人で入居

一緒に住む人が見つからないまま、カズキタさんは一人で入居をスタートさせた。

「1人しかいないんで、電気もあんまりつけないから家全体が暗いし、そのくせやたら広い。めちゃくちゃ寂しかったですよ。だけど、こんな大豪邸で部屋を持て余してるなら、もっと遊びにきたらいいよって人を呼び込むことにしようと。なんなら、そのまま泊まっていってもいい。何日も泊まるならそのまま住めばいいじゃんって。2ヶ月が経ってから毎月1人2人と入居するようになり、半年後には15部屋が埋まりました」

 7年目の今では、入居者待ちが出るほど、安定して住民を確保できている。ビジネスとしても成功したと思いきや、カズキタさんは「別に儲かってないです(笑)」と笑った。管理人という立場ではあるが、他の住民と同じく家賃を払っていて、新居者から仲介手数料をもらうこともしていないというのだ。金銭的なメリットはないが、責任はある。そのうえ、経済的な審査は設けないとなればリスクは大きい。

「確かに、大変なんですよ。いろんな人を入れるので、実際トラブルがよく起きるんですけど、そこはもういいかなって(笑)トラブルは金銭的なこともやっぱりありますけど、例えば、中学生が住んだときは揉めました。

その子の父親とは別で話して了承は得てたんですが、住民からは『なんでこんなところに中学生が』『一緒に住んでいて責任を持ちたくない』って反対の声が出ていた。でも僕は、そんなことよりも大事なことがあると思っていて。その子がやっぱり困っている環境にいて、僕たちが助けられるんだったら助けようよって思うんで。リスクはいっぱいありますけど、リスクばっかり考えていたら人生楽しくなくなるんで」

人を助けたい、人の役に立ちたい。そんな思いが根底にあるのかと聞くと、意外な答えが返ってきた。

「うーん、僕は、社会のレールに乗れない人たちが結構好きなんです。例えば、アーティストとか、レールに乗れない反面、面白いことやってたりするじゃないですか。そんなふうに、個人の能力が発揮できて活かしていけたら、もっと楽しくなるなと思っていて。僕自身は、何かギリギリのところでうまく生きていけてるんです。だけど、そっちへの憧れはあるんですよ。本人からすれば、レールに乗りたくても乗れないと思うんですけど。レールに乗らなきゃいけないと思い込んで、頑張って乗っているよりは『もう乗れないしいいや』って生きてる人たちって、いいなと思います」

シェアハウスが次に提供できるもの

シェアハウスを、“ただ住む場所”にさせない。モテアマスは、次の高みを目指している。

「シェアハウスって、もともと住む場所じゃないですか。つまり、提供するものって家なんですよね。ひいては寝る場所、働く場所とかだと思うんですけど、ウチはもうそういうのはとっくに提供済みなんですよ。次に提供できるものなんだろうと日々考えています」

その一つとして取り組んでいるのが「グッドニート養成所」という企画。これは何か?

「まだ試行錯誤の段階ですが『愛されること』を目標にした講座です。参考にしているのは、キャリアの育成講座です。例えば会社員を辞めて、フリーランスになるためのスキルを教える講座とか、いっぱいあるじゃないですか。でも、会社員じゃない道を探してフリーランスを選んだところで、逆にしんどいなって思うんですよ。自分のスキルを磨いて自分で営業して稼ぐわけで、会社員以上に競争社会に晒されることになるから。

いっそのこと競争しないで生きていく方法ってなんだろうなと考えたときに、人に愛されてればいいんじゃないかって思ったんです。僕もデザイナーの仕事をもらってますけど、それは広い意味で僕が愛されてたり、仕事先を愛してたりという関係があるから。その関係性が仕事になっているだけであって、仕事のスキルが本質ではないと思ったんです。だから、より本質に迫るために、グッドニート養成講座は、いかに仕事をしないで生きていけるか、つまり愛されるということを主題にしてやってます」

競争社会で競争する力をつけるのではなく、競争しない世界で生きていくために愛される力をつける。それが本質的な生存戦略になるという逆転的発想は、このモテアマスというシェアハウスだから生まれた価値観といえよう。

この日、グットニート養成講座が行われていた。カズキタさん曰く、グッドニート養成講座は始まったばかりで、ビジネス展開も考えていたが、どちらかというと、みんなで1人の人を育てるというイベントのようになってきたとか。

受講生のかずひろさんはこう話す。

「僕は長らくガチニートで、最初から人に愛されないと諦めていた。グットニート養成講座で、いろんな愛されている人の話を聞いたり、自分がもてなす場を設けてもらうことで、だんだん違う属性の人とも話せるようになった。モテアマスは不思議なダンジョンみたいで、来るたびに人が変わるんで、刺激をもらってます」

何かとスマートに物事を進めようとする今の時代。手探りで何かを生み出すエネルギーがある場はとても貴重だ。

管理人のカズキタさんのインタビューを横で聞いていたある住民は「俺もよくわかってなかった(笑)」と感想を口にした。住んでいる人でも理解は容易ではないらしい。見た目だけでなく、コンセプトも複雑に入り混じっている。このぐにゃぐにゃしているところに、人間の営みを感じた。モテアマスが今後どのように生き延びていくのか注目だ。

【クレジット】
ツマミ 具依

潜入取材が多めのライター。『週刊SPA!』『PRESIDENT』他で執筆
Twitter:@tsumami_gui_
Facebook:tsumami.gui.100

最後に大事なお知らせです

我々モテアマス三軒茶屋は2024年10月末をもちまして、爆破(終了)となります。8周年を待たずモテアマス三軒茶屋は消滅してしまいますが、現在このモテアマス三軒茶屋を映像化して永久保存しようというプロジェクトが進行しています。

モテアマスは無くなってほしくない、モテアマスを応援したい、あわよくば映画に出たい(10月まで撮影しているのでタイミング合えば映り込めます)、等々どんな想いでも結構ですので、ぜひモテアマス三軒茶屋のドキュメンタリー映画制作のご支援をお願いいたします!

きっと胸熱の映画になること間違いなしです!

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歌舞伎町ONE CUT

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