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Mastodonを本当に知るために必要な3つのこと

2022年、イーロン・マスクのTwitter買収を機に、Mastodon界隈は大きな盛り上がりを見せています。そうです、2017年頃にPost-Twitterと持ち上げられ、一斉に盛り上がったあと、気がつけば誰も話題にする者がいなくなっていたあのMastodonです。2020年5月には日本サーバであるmstdn.jpの閉鎖が決定し、日本界隈では「Mastodonというサービスは終わったのだ」という認識がそれなりに広がったように思います。ですが、現実は異なります
mstdn.jpはすんでのところで閉鎖を免れ、現在は別の企業(Sujitech)が運営を続けています。先日はEUが公式Mastodonサーバを設置し、Mastodon内ではその話題で大いに盛り上がりました。まずシンプルな事実として、Mastodonは終わっていない、ということだけでも認識いただけると幸いです。

それに、もっと本質的な話をすれば、仮にmstdn.jpが閉鎖したとしても、Mastodonというサービスが「閉鎖」したことにはなりません。どういうことでしょうか?Mastodonを使うのは決して難しいことではありませんし、Twitterと基本的には何も変わりません。ですが、Mastodonの"本質"をつかむことができれば、さまざまな機能への理解が深まります。

気がつけばMastodonサーバを構築して5年になる私が、Mastodon初心者がつまづきやすい3つの疑問について答えます。

Mastodonは「閉鎖」しない

Mastodonは「分散SNSである」、「非中央集権であるから、個別のサーバは閉鎖しても、Mastodon全体は閉鎖しない」といった話は、Mastodonにやってきたビギナーに説明しなければならない単語No.1です。「分散」「非中央集権」…パッと見てカロリーの高そうなゴツい単語ですが、中身はそんなに難しくありません。順番を追って理解していきましょう。

 以下はMastodonのことを説明する公式動画です。(字幕に日本語があります)(この動画を見ればこの記事は要らない説がありますが、見て全てが分かる人は一部に限られると思います)

普通のSNS(TwitterやInstagram、Tiktok…)は、通常は1つの企業が全てを管理・運営しています。Twitterに雇われた技術者がプログラムを書いたり、サーバ(強いコンピューターのことです)を管理するわけです。社外の人間はプログラムを見ることはできないし、サーバがどこにあるのかすら知ることはできません。

Mastodonがその他たくさんのSNSと決定的に違うのはこの点です。Mastodonはみんなでプログラムを書き(オープンソース)、誰でも自由に自分だけのサーバを作ることができます。

オープンソース、誰でも自由に自分だけのサーバを…という概念は、ざっくり簡単に言ってしまえば「Cookpad」です。え?あのお料理レシピサイトの?つくレポとか書く?そうです。あれです。

Cookpadのような投稿型のレシピサイトでは①自分の思いついた料理のレシピを公開すると、みんながそれを見ることができますし、②真似をして自分で同じ料理を作ることができますよね?ついでに、もうちょっとこういうアレンジをした方が美味しいのに…と思えば、③それを新しいレシピとして公開してもよいですし、作者さんとお話をして④大元のレシピをアップグレードしてもらうことも可能です。

上記のような流れをプログラムでもやっちゃおう!という考え方のことをオープンソースといいます。ソース(=レシピ)は公開されているので、自由にみんな作ってよいし、改善したかったら好きにしてよいよ!ということです。(プログラム版のCookpadのようなサイトで一番有名なのがGithubです)

(狭義の)Mastodonとは、とあるドイツ人が思いついた、レシピの名前です。日本のPixivさんがそれをみて作った完成品が「Pawoo」ですし、私個人がそれを見て作った完成品が「mastodon.motcha.tech」なわけですね。
※前者はかなり独自のアレンジが入ってますが、後者はほぼレシピ通りになっています。

ここが分かっていただけたら、「分散」「非中央集権」はもう怖くありません。

「分散」とはTwitter社やFacebook社のような一つの企業がサービス全体を管理していない、という意味です。Mastodonとは単なるレシピに過ぎないので、それを料理した結果…実際にレシピから作られた完成品は世の中に数百数千個あるのです。それらがお互いに同じルールで通信をするので、全体を俯瞰した時には一つのMastodonというサービスのように見えますが、実態はそうではないのです。

「非中央集権」とはTwitter社やFacebook社のような一つの企業が、サービス全体の全ての権限(アカウント凍結、サービス内容変更…)を握っていない、ということです。もう少し具体的に考えてみましょう。

レシピの完成品であるサーバは、それを作った人のものです。
例えは、Pixivの作ったサーバ(Pawoo)内で起きたゴタゴタを解決するのは…Pixivの責任ですよね。それにPixivは独自判断で、サービスの中身を書き換えることが可能です。
でも、Pawooがどんなに大きなサーバでも、私個人のサーバ内部にあるアカウントのことに口出しはできません。同じように、私個人のサーバの仕組みについて何か強要することはできません。
私個人のサーバについて権利を持っているのは私だけですし、Pawooについて権利を持っているのはPixivだけです
これが「中央集権」でない、ということです。

このように、Mastodonとはレシピを指す単語だということが分かっていただけたでしょうか?ここまでくれば「Mastodonって閉鎖したんだよね?サービス終了したんだよね?」という問いが間違っていることがわかりますか?

Mastodonはレシピの名前なのです。上記の問いは言い換えると「ケチャップって、カゴメが倒産したからもうこの世には存在しないんだよね?」みたいな感じです。ええ。カゴメは実際には倒産していませんが、そうなったとしても「ケチャップ」という概念とレシピは生きていて、作る意志さえあれば他の誰かが作り続けます。トヨタが明日忽然と世界から消えたとしても、自動車という概念がなくなりそうにないのと同じです。mstdn.jpという日本最大のサーバが仮に消えたとしても、Mastodonは閉鎖しないし、サービス終了もしないんです。

Mastodonでも「凍結」はされる

Mastodonにやってきた多くの人がこう質問します。「Mastodonって凍結されないって、ほんと?何言ってもいいの?ヒャッホウ!」
断言しておきますが、それは自分の首を自分で絞める行為です。

TwitterやFacebookと違い、それぞれのサーバ内にいるアカウントをどうやって処置するかは、サーバの権利を持っている管理者に委ねられています。
誤解を恐れずに一言で言えば、「サーバ内の全てについて、管理者は神」なのです。ですが、そんな神にも抗えないものがあります。法律です

どんな投稿を許すか、あるいは許さないか…その基準はサーバによってまちまちです。実際、かなり際どい内容まで許すサーバ(Gabなど)もありますし、Pawoo(Pixiv運営)は二次エロについてかなり寛容です。ですが、全てのサーバ管理者は自身が法律によって罰されるリスクを負っています
ユーザーが法律へ抵触する内容も気にしないような投稿を続けるなら…サーバは存続不能になるかもしれません。実際、mstdn.jpの閉鎖理由は「法的リスクに対応できない」というものでした。自分の投稿が、自分の居場所を破壊するのです。そんな愚かなことは、起こすべきではありません。

「Mastodon」はMastodonだけじゃない

はい。意味不明ですね。MastodonはMastodonだけだろ!バカ!と思ったあなた、すみませんでした。よく誤解されているので敢えてこういう書き方をさせてもらいましたが、私が話したいのはもう少し別のことです。

みなさんはメールを使いますか?学生さんだとあまり馴染みがないかもしれませんね。でも、ここにやってきてnoteを読むことができる人なら、メールというものをちっとも知らない、ということはないでしょうし、一通も受け取ったことがない…なんてことはないはずです。

メールアドレスは2つのパートからできています。 username@example.com といった具合です。@の左側はユーザーの名前を、@の右側はそれを管理しているサーバ名を指します。つまり、example@gmail.comはgoogleが管理しているサーバのexampleさん宛にメールが飛んでいきますし、example@outlook.comならMicrosoftが管理しているサーバのexampleさん宛に飛んでいきますし、me@motcha.techなら…そう、私個人が管理しているメールサーバのmeという名前のユーザ宛にメールが飛んでいきます。(ええ、実はメールも自分でサーバを建てることができるんですよ)

サーバが別々にあって、ユーザーがそれぞれの場所にいる…これって、Mastodonとそっくりだと思いませんか?それでもメールはサーバを意識することなく、自然にやりとりができるはずです。TwitterのDMはどう頑張ってもFacebookには届かないのに。なぜなんでしょうか?

答えは既にこの記事内で一度だけ言及しました。

Mastodonとは単なるレシピに過ぎないので、それを料理した結果…実際にレシピから作られた完成品は世の中に数百数千個あるのです。それらがお互いに同じルールで通信をするので、全体を俯瞰した時には一つのMastodonというサービスのように見えますが、実態はそうではないのです。

本記事

それぞれのMastodonサーバが個別にレシピにアレンジを加えていても、全く遜色なく他のサーバのユーザをフォローしたり、リプライを送ったりお気に入りがつけられる理由はここです。それぞれのメールサーバが他の会社が管理するサーバにメールを送っても問題なく読んでもらえる理由はここです。同じルールで通信をしているのです。

メールの場合、このルールはSMTP(Simple Mail Transfer Protocol)という名前ですが…MastodonはAP(Activity Pub)というルールを採用しています。

つまり、Mastodonサーバ同士はAPというルールに則って通信…おしゃべりをしているわけですね。では、ここに「Mastodonではないが、APに則って通信する他のナニカ」がいるとしましょう。Mastodonと問題なく通信ができるでしょうか?ええ。できます。そういうものが既にたくさんあります。

APをお喋りできる他のサービスとして、MisskeyやPleromaといった類似のマイクロブログサービスがあります。APにはユーザのフォローやリプライという機能も含まれているので、たとえばMastodon上のユーザーがMisskey上のユーザーをフォローすることができます。APというルールをお互い守っているので、こういったことはこちらの世界では日常的に行われているのです。FacebookアカウントからTwitterの誰かをフォローした、ような感じで変な気分ですが…。

あなたはMastodonにアカウントを作り、自然な流れでMisskeyやPleromaのアカウントを既にフォローしているかもしれません。あなたはMastodonしか使ったことがないのに、です。これは他のSNSでは決して起こらないことなので、すぐに理解できないのは無理はないのですが…

APというルールを守っている同士なら、見分けがつかない程度にやりとりができる、のです。つまり、あなたの思っている「Mastodon」は、実はMisskeyやPleromaやPeerTubeやPixelfedなど、他のサービスを含んでいるかもしれない…ということです。

こういった点から、APによって相互接続可能なサービス群全体を指す概念として「fediverse」(Federation - 連携する, Universe - 宇宙)という単語があります。フェディバース、あるいはfediと呼ばれることが多いですね。

これを意識する機会は滅多にありませんが、MastodonはFediverseの中で一番今勢いがあり、人口の多いサービスです。であるが故に、Fediverseの全てがMastodonと同義であるかのように錯覚して、結果的に無遠慮な発言をしてしまう人が散見されます。これはちょっとばかし、恥ずかしいことなので…

あとこれは小ネタですが、Misskeyのリアクション機能(投稿に絵文字で反応をつけられる、DiscordやSlackの絵文字スタンプみたいなもの)は、実はAPにはない独自拡張機能です。なので、Mastodonの私がした投稿に対して、Misskey側で🍮などのリアクションをつけても、Mastodonの私に届くのは「お気に入りに追加されました」という通知だけです。ええ。APのルールにそんなことは載っていないのです…

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