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『もしも徳川家康が総理大臣になったら』/コロナ禍の日本を再構築する痛快ミステリー小説

これは2020年の話である。
未曽有の感染症の世界的拡大に、日本は、世界は、混迷を極めた。
そしてそれは今もなお、収束していない。
「先手先手の迅速かつ大胆な政策を躊躇なく行っていく所存であります。」
「極めて遺憾である。遺憾の意を表明する。」
あらゆる副詞と形容詞がためらいなく軽んじて使われ、ただ言葉をはぐらかして不透明にするためだけの道具に成り下がっている。

後手後手の対応と、それに伴う「お願いベース」での自粛に疲れ、もはや宣言など意味を失い、度重なる不祥事や、汚い言葉を撒き散らすマスメディアに辟易している日本人は多かろう。

「美しい国、ニッポン」
かつて声高にスローガンされたその言葉も今となってはうすら寒い。
「日本人」としてのプライドはもうボロボロだ。それはTOKYOオリンピックでさらに白日のものとなるだろう。
こう思ったことはないだろうか
「指導者さえ違えば、こんな惨状ではなかったのではないか」

そんなある種願いとも言える感情を、満たしてくれるのがこの一冊だ。
そしてこれはファンタジーではない。私たちが直面する現実そのものだ。


「もしも徳川家康が総理大臣になったら」

なんと内閣総理大臣がコロナに感染、死亡する。
AIとホログラムによって結成された”最強内閣”の組織図はコチラだ。

総理大臣:徳川家康
官房長官:坂本龍馬
経済産業大臣:織田信長
経済産業副大臣:大久保利通
財務大臣:豊臣秀吉
財務副大臣:石田三成
外務大臣:足利義満
総務大臣:北条政子
などなど

時代を超えたオールスターここにあり。
日本史を一度は学んだ者なら、聞かないことはないであろう豪華キャストの面々だ。
彼らの特徴は
とにかく意思決定が迅速なこと。
有言実行なこと。
そして、悉く発する言葉が”重い”ということだ。

混乱を極める日本政府を、それこそ躊躇なく大胆な政策で迅速に変革し、熱狂的な支持を国民から受ける。

本書は、コロナ対策への痛快なアンチテーゼ、だけでは済まされない。
足を引っ張るだけの野党を無能と批判し、腐敗した縦割り官僚制度を再構築していく。
さらに日本の食料自給率の低さへの対抗策、クールジャパン(笑)の有効活用、「正義」を振りかざす昨今のSNS誹謗中傷への回答など、あらゆる日本を取り巻くネガティブな諸問題を痛快に処理していく。

そしてそれを無視できない、大国との軍事を絡めた外交問題すら取り扱う。

最後に明かされる、徳川家康の資本主義に対する考え。
徳川家康は「唯一、国の成長を意図的に止めた人物」と紹介される。
激甚災害、気候変動が毎年のように起こり、地球がおかしくなっている、SDGSだ、グリーンエコノミーだと叫ばれる昨今、資本主義そのものに限界が訪れていると宣言する「人新世の資本論」を読中であったため、これには驚かされた。

本書の前半は、日本に住む以上無視のできないあらゆるモヤモヤがスルスルと解決されていく気持ちよさから、読む手が止まらない。
買ったその日に読み終えた本は久しぶりだ。

内容とは少しズレるが、本書には面白い試みがある。文字の大きさと行間と書体がたびたび変わるのだ。書体が変わるたびに作中の雰囲気がガラッと変わる。
また、難解な熟語や歴史上の出来事は※で脚注として補足説明されるが、通常であれば章の最後に纏まっている。しかしながら本書においては※のあるページにすぐ脚注があるので大変読みやすい。
ビジネス書、歴史書として尻込みするなかれ。

後半ミステリー色が強まり、映画化されてもおかしくないエンタメ色もある。
前半のシンゴジラ的圧倒的情報量から、いつのまにか暗殺や陰謀と言った一般的なミステリー場面に切り替わるためやや拍子抜け感はあるが、間違いなく面白い。

日本に漂う、不満はあれどもどうせ変わらない、といった絶望。
トップさえ変われば何かが変わるかもしれない、という希望。
では私たちはどうしたらいいのか。
本書における日本で、明確に変わったことが一つだけあります。
かつそれは現実の私たちでも実現可能なことでした。
それは投票率でした。

私たちはどうしたらいいのか。
それを問う名作だと感じました。






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