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いかに、建築は自然と一体になれるか?

バワの建築の特徴を一言で表すのであれば、それは「自然との一体感」と表現できる。彼の建築は、自分の作った建物を、あえて自然の背景に隠すことによって、建築を自然の一部とした。前回の記事で紹介した〈ヘリタンスカンダラマ 〉はまさにその代表的な作品と言える。

ヘリタンスカンダラマが森と一体化するように設計されている一方、スリランカには「海」と一体化するように設計されたバワのリゾートも数多くある。

特にスリランカの南西海岸には、バワが手がけた建築が多く点在している。この記事では、ヤシの木が特徴的な〈ザ・ブルーウォーター〉、広大な海を眺める〈ジェットウィング・ライトハウス〉、バワが初めてインフィニティプールを設計した〈ヘリタンス・アフンガッラ〉の3つのリゾートを紹介し、バワがいかに「自然との一体感」を作り上げたかについて考察する。

ココナッツのプランテーション跡地に建設された〈ザ・ブルーウォーター〉

ブルーウォーターは、ワドゥワという海岸沿いの小さな町に位置するバワのリゾートである。この土地は昔、ココナッツのプランテーションとして使われていた場所だった。そしてバワは、このヤシの木をそのままホテルの景観デザインの一部として使った。プールと海との間に30mほどの高さの巨大なヤシの木が立ち並び、夕焼け空に浮かび上がる無数のヤシの木のシルエットは、まさに圧巻だ。

現在、ブルーウォーターのほとんどの部屋はリノベーションされてしまい、バワが設計したオリジナルの内装はほぼ見られない。しかし実は、ホテルオーナーの意向によって、一部屋だけバワが設計した当時の内装を残している。今回は、その部屋に泊まることが出来た。

リノベーションのビフォーアフターを比較すると、興味深いことに気づく。ベッドの位置が、大きく異なるのだ。バワが設計した当初は、ベットが窓の正面に向かう形で配置されていた。これは「朝目覚めた時、目の前に海が見えるように」というバワの考えを反映したものだった。一方、リノベーション後は、ベッドの向きは窓に対して水平に配置されている。部屋を広く見せるためだ、とホテルのスタッフは説明した。バワは1日の中で「起床時」をとても重視していたのだ。たとえ、部屋が狭く見えようとも。

ブルーウォーターの最大の見せ場は「夕方」と「朝」に訪れる。海岸の上空が夕焼け色に染まると、無数のヤシの木のシルエットがより鮮明に浮かび上がり、その燃えるような夕焼けの鮮やかさと、ヤシの木のシルエットのコントラストが美しい。あたりが真っ暗になるまでそこに座り、眺めていたくなるほど、そのシルエットは美しい。

一方、朝を迎えると、ロビー前の中庭に植えられたヤシの木が、美しい朝日に包まれ、ホテルの回廊から眺めるその光景はなんとも言えない爽やかさを感じさせる。

荒波と夕焼けを同時に味わえる〈ジェットウィングライトハウス〉

港町ゴールからほど近い場所に位置する、ジェットウィングライトハウス。ホテルに到着すると、ゲストはまず暗い螺旋階段を登ることになる。螺旋階段の手すりには、無数の人間のオブジェが飾られ、それが螺旋階段の上まで続いている。これは、かつてのスリランカ人とポルトガル軍の戦いを表現したオブジェであり、バワと親交の深かったアーティストのラキ氏が作った作品だ。写真で見るよりも、実物ははるかに大きく、圧倒される。

過去の戦争を描いた恐ろしいオブジェたちを眺めながら、長く暗い螺旋階段を登りきると、一気に視界が開ける。眩しいほどの光に次第に目が慣れると、広大な大海原が目の前に広がる。

この暗闇から光へのダイナミックな展開、つまり〈過去、戦争、静、暗闇、螺旋〉という世界から〈現在、平和、動、光、水平線〉という世界への導線が、他のホテルにはない、ジェットウィングだけの体験だと言える。バワは建築家だが、建物を作っているのではない。体験を作っているのだ。

顔に吹きつける風、岩に砕けちる波の音、海の匂い。螺旋階段を登りきったゲストは、海という大自然を前に、しばらく呆然とする。ゲストはその海の感覚を味わいながら、スタッフに招かれ席へと案内されるが、目は海に釘付けだ。

また、ジェットウィングのバーもオススメだ。モダンなバーのデザインとは対照的に、天井に目を向けると、建設当時からのアートが残されている。「これはスリランカの、それぞれの州のロゴを描いたものです」とバーテンダーが説明してくれた。夕食を楽しんだ後は、ぜひバーも訪れてほしい。

インフィニティプールが生まれた場所〈ヘリタンス・アフンガッラ〉

バワと言えば「インフィニティプール」を発明した建築家として有名だ。そして、彼が初めてインフィニティプールを作ったのが、このヘリタンス・アフンガッラだ。

ホテルのエントランス前に広がる湖、そして、ロビーの横に広がる巨大なプール、そして大海原。この3つの水が一体化するように設計されているのが、このヘリタンスアフンガッラの特徴だ。

さらにヘリタンスアフンガッラには、メインのプールとは別に、グリーンプールと呼ばれるもう一つのプールがある。

このプールには、大きな木がプールを覆いかぶさるように植えられており、プールで泳ぎながら上を見上げると、まるでマングローブの川を泳いでいるような気分になる。やはり、バワは体験を作る天才だと思った。

旅行家としての、ジェフリー・バワ

〈ザ・ブルーウォーター〉〈ジェットウィングライトハウス〉〈ヘリタンス・アフンガッラ〉これらどのホテルを見ても、やはりバワは建物自体よりも、プールを含む庭を中心にしたデザインを徹底したことがよく分かる。さらに言えば、庭よりもホテルを囲む自然を中心としたデザインを作った。

そして、バワは体験を作る天才だった。今でこそ「モノより体験」とよく言われるが、バワは建築家として20年以上前からそこにしかない体験を作っていた。

いつの時代も、旅行家は「そこにしかない体験」を求めるものである。きっと、バワ自身がこれをよく理解していたのだ。何故ならば、バワ自身も世界中を旅していた旅行家だったのだ。

こんにちは。ベトナムのホーチミンに住んでます。Pizza 4P'sというレストランのサステナビリティ担当です。