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『かつしか、夜のゆめ』創作ノート 後編

こちらは24日にかつしか演劇祭にて上演される新作『かつしか、夜のゆめ』の創作過程の覚え書きです。上演の前後に、作品とあわせて楽しんで頂けたら幸いです。
前編はこちらから。

②脚本のかきはじめ -かつしか、神社めぐり―


マップで検索してまず向かったのは、「身栄稲荷神社」。見ての通り、住宅街のなかにある小さな神社です。

身栄稲荷神社。鳥居が可愛い。

思いきり個人のお宅の敷地内にあるのですが、立ち入り禁止の札などはないので、なるべく足音を忍ばせてお参り。赤い小さな鳥居が可愛くて、なんだかお洒落に見える神社です。
強面の稲荷さんもいますが、この神社では、私はこの赤い鳥居が気になりました。この鳥居がもし人間だったら、お洒落で流行りに敏感な若い女の子なんじゃないか。住宅街のなかにあるから、人間の生活のことなんかもよく見てるんじゃないか。
神社というと、言葉だけだと古めかしいとか由緒正しいとかのイメージが先行しそうですが、そうした一般的なイメージはいったんわきにどけて、今自分の目の前にある小さな神社からうけとるイメージを自由にさせます。

次に向かったのは、砂原稲荷神社。

砂原稲荷神社。

すぐお隣に広い公園がある稲荷神社で、きりっとした稲荷が本殿を守っています。お稲荷さんは日本ではとてもポピュラーですが、葛飾区には稲荷神社がたくさんあるようです。
(通りのすごく近い場所にコンビニが3件もある、みたいな場所が時々あるけれど、稲荷神社も参拝者の数を気にしたりとかあるのかな? 他の店との差別化をはかるために割引とかフェアをする店があるけれど、神社でそれをするとしたら? 稲荷は商売の神様だし、自分のいる神社の経営を考えてたりしたら面白いかも)

そのすぐ近くにある、これまた小さな神社。

とても小さな神社です

小さく「三峰神社」と名前が書かれていて、総本社は秩父にある、オオカミを祀っている三峰神社らしいとわかります。この神社も住宅地のなかにあって、とても小さくて可愛い。総本社である三峰神社は有名なパワースポットで、私も昔行ったことがある大きな神社なのですが、この神社は葛飾区の他の神社の弟分か妹分、といった感じです。
小さくて情報の少ない神社ですが、だからこそ空想の余地があるともいえます。きりっと生真面目そうな稲荷のいる砂原稲荷神社と場所が近いのも、想像力が刺激されます。

高木神社の鳥居前。

最後に向かったのは高木神社。
葛飾区指定文化財になっているイチョウの木が有名な神社にお参りします。
文化財になっているイチョウの木はさすがに堂々とした枝ぶり。指定文化財としてのプライドを感じさせる、がっしりとした背の高い幹に、まだ色づくには早い葉っぱもわさわさしています。なんと樹齢は400年だとか。つまり400年間、同じ場所にたって人間を見続けているわけです。

イチョウ様。

自分がいま触れるこの木の下を、江戸時代よりもっと昔の人間も行き来していて、同じ木の下で腰をおろして休んでいたりもしていたかもしれないと思うと、このイチョウの木が生きるとほうもないスケールに呆然とします。このイチョウから見れば、人間なんて小さくて儚い存在なんだろうな…。

余談ですが、私は古い建物などに行くのが好きで、その理由が「自分がいま立っているこの場所に数百年前にも人が立っていた」という事実に、今風に言えば「エモ」を感じるからです。
自分がこの目で見ることもできず、手の届かない時間と場所にも確かに誰かがいたという事実に触れると、悠久の時の流れとか、普段触れられないものに肌で触れたような気がします。

③物語を書く時は

さて、神社巡りを終えて。
実際に歩いた時間や、それぞれの神社で受けた印象、そこからの想像などを、つらつらとノートに書き出します。私はアイデアだしの時はいつも手書きでノートやそのへんの紙に書くのですが、この時も手を動かしながら、なるべく頭の中を固まらせないようにして探ります。

「ここにどんな物語があるか」
「自分は何を書かせてもらえるんだろう」

脚本の書き初めには色んな方法がありますが、物語のしっぽがチラチラ見えるような時は、自分の頭で考えるより、そのしっぽにまかせてみます。

狛犬ならぬ狛亀からの、連想と空想。人ならざるもの。神様の御使い、付喪神、稲荷、妖怪、樹木の精霊。
葛飾区を歩いた時のイメージ、神社からうけた印象、地域に馴染んだ漫画のキャラクター達、これまでに読んだり見たりしてきた物語や日々の記憶から、ぼんやり何かが見えてきます。

リクエストと、物語のしっぽと、自分が書きたいと思えるものがつながれる場所を探して、それはここだ、という地点が見えてからが、執筆のスタートです。

今回の脚本では、演劇祭でたくさんの老若男女が観にくる公演なので、ハッピーでエンターテイメントな作品であること。人と、街に生きる様々な存在との関わりを書くということをラインにしました。

街は様々なものが集まる場所です。
神社も、稲荷も、妖怪や付喪神といった存在も、400年生きている樹木も、街では皆人との関わりの中にあるし、人も同じように彼らと関わっている。
月並みな言い方ですが、この世にあるものは全て何かしらとつながって生きていて、そしてそれは人間同士とは限らないとも思います。

人生のなかで、人との関係に喜びを見いだせない時期があっても、たとえば漫画や小説の物語だったり、飼っている犬や猫だったり、空が青いことや風が気持ちいいことなんかからも、人は生きる力をもらうことができる。

何事もスピードが早く忙しくて、SNSが発達したわりには、そうした関わりが見えなくなりがちな今ですが、漫画やアニメ、本などの物語が愛されるのも、住んでる街に公園があるのも、古い神社を残そうとつないできた人達がいるのも、人が昔からそうした存在に生きることを助けられてきたからだと思うのです。

そうして人と街に在る様々な存在との関わりについて書くうちに、物語は、色んな存在がそれぞれのままで在ることを寿ぎ、よくあろうとすることを応援するという色彩をおびました。

どの役にも、私がよいなと思うもの、それは優しさや強さだったり、明るさや可愛さだったり、弱さから前へ足をすすめることだったり、劇場に響かせたい言葉だったりと、色々なものを渡せたんじゃないかと思います。

脚本をあげたあと、それぞれの神社に御礼参りもかねて、公演の成功を祈ってきました。
きっと上演を応援してくれている気がします。

24日の本番は、演劇祭のトリを飾る公演になります。
私が街から受けとって脚本にして、皆様にお渡ししたものが、どんなかたちで舞台の上にあらわれるか、とても楽しみにしております。

出演者の皆様や、お客様にも楽しんでいただければ幸いです。

Stage Project IRISe
『かつしか、夜のゆめ』
作:モスクワカヌ
演出:西原純
制作:伴あさみ(未来教育劇団ここたね)

◼️日時と場所
11/24(日)
17:50~18:35

かめありリリオホール
https://www.k-mil.gr.jp/institution/lirio/?hl=ja
※入場無料

◼️出演者
中野結梨
佐々木もも
金澤杏佳
川島史子
佐々木さくら
林陽菜
伊藤虹花
笹村心鈴
奥村心
渡辺優空

◼️あらすじ
葛飾区に住む高校生あきらは、亀有香取神社でのお祭りの夜、あるお願いごとをしたことをきっかけに、神社の付喪神や稲荷達と出会い、かつての親友や大切な思い出とも出会いなおしていく。葛飾を舞台にした、一夜の夢のような物語。

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モスクワカヌ/mosukuwakanu
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