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なんとなく反権力でイベルメクチン

──整理前の情報を手短に報告する【短信】 / 反権力と反ワクチン、親イベルメクチンについて。

取りまとめ:ケイヒロ、ハラオカヒサ


はじめに

イベルメクチンが新型コロナ肺炎に効く、飲み続けていれば予防にもなると言われはじめて1年半になろうとしている。

2020年4月にベルメクチンの使用で致死率が減少すると発表があり翌月から南米で使用開始されたが2ヶ月後の6月にデータ捏造で論文は撤回されている。10月に再び致死率低下の論文が発表されたが、これも2021年7月にデータ捏造で撤回。この間に様々な発表があったが内容が疑問視されるものが多く、効果や安全性を否定する報告が相次いだ。製造元のメルク社も意義のあるエビデンスは存在しないとし使用をやめるようリリースを出している。

また独自に入手したイベルメクチンを飲用して体調を崩し救急搬送されるなど健康被害が諸外国で報道されている。

これが前提となる事実だ。

今回、家族から証言を得た男性は「興和も治験しているから効く」と言っている。「治験の結果が出た」ではなく「治験」しているから効果があるともとれる主張だが、彼がなぜイベルメクチンに傾倒したかを家族の言葉から読み解いていきたい。


技術系、男性、40代

彼は家族から考えを改めるように言われていたイベルメクチンを自宅とは別の場所で受け取った。しかし後に見つかり、一箱144錠が25,000円程度で販売されているのを購入先の通販サイトで家族が確認した。

144錠ものイベルメクチンをどうするつもりなのか。感染していなくとも危ないと感じたときは予防のために服用するのだそうだ。知人や家族が感染するようなことがあれば飲ませたいと彼は言っている。

なぜイベルメクチンだったのだろうか。

「興和も治験しているから効く」といった説明に彼の発言は終始している。そこで家族が、メルク社が使用しないようにリリースを出したことや興和の治験が終了していない点を指摘すると「世界で効果を出している」と答える。

ワクチン接種の対象年齢になっても彼が予約を入れず、職域接種など他の接種機会も利用しない理由を奥さんが問うと「自分は反ワクチンではない」と言うだけだ。家族は反ワクチンの立場でないならイベルメクチンと関係なく接種してもよいのではないかと説得したが、話が噛み合わない。

要領を得ず、奥さんはワクチンについて話し合うたび苛立ちを覚える。

彼は口癖のように「いまの政府は嫌いだ」と言っている。ここにイベルメクチン推しの理由が集約されているのではないだろうか。この言葉に限らず彼は政治への嫌気を日常的に吐露し、最近は「アベのワクチン」「スガのワクチン」と言うこともある。

ワクチンの確保から接種は国が推進する事業だ。いっぽうイベルメクチンの新型コロナ肺炎治療への利用はそうではない。さらに各国で実績が積み上がっている(と彼は解釈している)のに対して菅政権の動きが悪いと感じるのも、イベルメクチン推しに拍車をかける。

このような彼だがデモに参加して気勢をあげることもなく、支持政党は選挙のたびに考えながら野党支持といったところ。この程度の反権力的な気分がワクチンを遠ざけイベルメクチンに接近させている。また「打つタイミングを探っているだけで、ワクチンを打たないというわけではない」のだそうだ。


親イベルメクチンや反●●●の多様なグラデーション

私たちは反ワクチンとひとつにまとめて表現しがちであるし、筆者も最近まで同様に扱ってきた。しかしワクチン忌避は程度でありグラデーションを描いていて、忌避する背景もまた様々だ。そして今回紹介した「なんとなく反権力でイベルメクチン、さらになんとなく反ワクチン」の例は珍しくないように思われる。

筆者2名は以下のようなツイッターアカウントを継続的に観察していた。

反原発を標榜するアカウントを2017年段階でおよそ1000件を抽出。2018年に追跡を中断。2020年10月に抽出済み1000件を確認し、消滅したり凍結されたアカウントを除くと872件。ここから3ヶ月以上新規ツイートがないものを除くと805件になった。

これらのアカウントは反原発と被曝デマ(鼻血など)から反差別運動、SEALDs支持を兼ねた者が多く、2017年森友学園問題、2019年桜を見る会問題を追及する立場へほぼ漏れなく移行している。そして、コロナ禍に突入すると政権批判の延長線上にある感染症対策批判を行っている。また被曝デマに傾倒していた者のほとんどが反ワクチン派へ移行した。

整理すると以下のようになる。

反権力志向の人々が、ワクチン政策批判と反ワクチン陰謀論に分かれた。

反権力と政府への批判は結びついてとうぜんであるし、反権力とワクチン政策批判も結びつく。いっぽう反権力と反ワクチンは直接結びつけられるものではなく、陰謀論を根拠にして政府を批判している。

双方でイベルメクチンへ傾倒する人が現れている。

そして各段階ともに程度の差がグラデーションを描いている。

グラデーションの中に位置する程度の差は、あんがい簡単に変わる。なんとなく反権力でなんとなくイベルメクチン推しから人格が変貌して会話さえ成立しない人になるのは、きっかけさえわからない程あっという間だ。どれほど穏やかで家族思いであっても、理知的な発言をする人でも垂直降下するような事態を迎える。

その人が陰謀論者とはとうてい思えなくても、諸外国で健康被害が出ている事実から目を背けるなど偏った情報しか受け入れない姿勢は既に陰謀論者と何ら変わりないのだ。

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急激な人格変化

どこにでもいそうな人から急激に人格が変化する例は以下の記事を参照してもらいたい。

ある女性が陰謀論を説く動画に触れてから言動が一変するまで一晩とかかっていないのだ。

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