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山上が綴った全ツイートを解析② 語らなかった出来事

暗殺犯山上徹也は約86,000文字を費やしてツイッターで何を語ったのか、『速報/山上徹也が綴った全ツイートを解析』であきらかにした。
自然言語処理による解析と全文を読破することで、山上が安倍晋三氏の功績を認識していたり、反左翼的で、強い反フェミニズム思考の持ち主であるのがわかった。力説していたのは女性から選択されない非モテから見た社会の残酷さだった。
だが、饒舌な彼が頑なに語らないものがあった。

加藤文宏


(更新/2024.8.24 21:25 母親による資産売却の時期についての表記を改めた。)

はじめに

 資料に忠実に、資料を前にして謙虚に、分からないなら分からないことをはっきりさせて憶測を事実に混ぜ込まない──これが全ツイートから山上の人物像を解き明かす際の心構えだ。
 これまで山上徹也だけでなく統一教会(世界平和統一家庭連合)に対しても、相手が訂正や反論できないかメディアが取り上げないのをよいことに、事実とかけ離れた報道や論評や作品づくりが行われてきた。
 たとえば映画『REVOLUTION+1』は、何ひとつ事実がわかっていないにもかかわらず、制作者の妄想と願望を山上役の役者に演じさせた作品だった。
 実際の山上は、安倍晋三氏に対して「政治家なんて叩けば誰でも埃が出る」「安倍政権の功を認識できないのは致命的な歪み。永久泡沫野党宣言みたいなもの」と語る男だった。『REVOLUTION+1』の宣伝文にあるような、「自民党のみならず日本の政治家と統一教会の尋常ならざる癒着ぶり、保守を標榜する政党の爛熟の果ての退廃ぶり」を白日の下に晒すため彼は行動したのではなかった。

 筆者が前回の記事から行っている全ツイート解析では、主観を可能な限り排除するため、山上の投稿した文章を機械的に分解して単語が登場する頻度や、特異な単語の内容、単語の使われ方などを数値に置き換えて評価している。さらに山上の人物像を明確にするため、彼と家族について過去から現在までの出来事を可能な限り収集した年譜を使用している。
 なお年譜をつくるうえで、これまでに報道された内容だけでなく、関係者による証言や調査、有志によって整理された情報、独自に行った聞き取りで得た情報を用いた。
 すると山上にとって重要な出来事が、事実を隠すかのようにツイートされていないのがわかった。

年譜とツイッター上での自己紹介

 山上徹也は、建設会社創業者Aの娘Bを母として、京大卒で建設コンサルタント会社勤務だったCを父として、1980年に生まれた。Cは度々見合いをしたが良縁に恵まれず、Bとの見合いで一目惚れをして結婚に至ったという。結婚を機にCはAが経営する建設会社に入社し、トンネル工事の現場で仕事をするようになった。
 祖父A、母親B、父親Cが、山上が語る親族の基本形である。
 結婚の翌年、1979年に兄が生まれ、生後間もなく小児がんが見つかり手術をしている。山上誕生後に一家は東大阪市に転居するが、この頃からCは出勤しなくなり家庭は機能不全に陥る。以後、Bが家庭の一切合切を切り盛りしなくてはならなくなり、機能不全は回復することなくCのアルコール依存や自殺、兄の引きこもりや家庭内暴力と自殺など次々難問を抱えて家庭崩壊が止まらず現在に至っている。
 1981年にBは実践倫理宏正会の活動に救いを求め、10年後に統一教会(世界平和統一家庭連合)を信仰し、山上も同教団のセミナーに参加して真面目に講義を聞いていた。
 山上と一家の歴史を年譜に整理したので、目を通してもらいたい。

 山上がツイッターで語った過去のできごとは2つだ。
 1点目は、詳細は語っていないものの、彼が4歳のときアルコール中毒とうつ病を抱えて飛び降り自殺した父親(C)の存在。
 2点目は、伯父の証言で母親(B)が統一教会に入信したとされる1991年のできごとと、祖父(A)が激怒したとされる1994年のできごとだ。
 実際にはAの描写を起点に、以下のように語られている。

70を超えてバブル崩壊に苦しむ祖父は母に怒り狂った、いや絶望したと言う方が正しい。包丁を持ち出したのその時だ。

原文ママ

根本的に家族として崩壊したまま、現実は上滑りしていった。あの破綻以来、徐々に勉強は分からなくなって行ったが、それでも祖父が周囲に自慢できるほどの進学校には進んだ。入試後の気の抜けた雰囲気の校内で、沈み込むオレを見てクラスメイト達は入試に落ちたのだと噂した。

三人兄妹の内、兄は生後間もなく頭を開く手術を受けた。10歳ごろには手術で片目を失明した。障碍者かと言えば違うが、常に母の心は兄にあった。妹は父親を知らない。オレは努力した。母の為に。

死んだ父は京大出だった。父の兄は弁護士、母は大阪市大卒の栄養士、母方の叔母は医者だった。そんな環境でオレは優等生として育った。オレの努力もあったが、そういう環境でもあったのだろう

祖父にとってオレは何だったのか。出来損ないの父の息子か。オレは祖父に見捨てられない為に演じた。いや、母を殴る父の機嫌を損ねない事が始まりだったのか。

オレは作り物だった。父に愛されるため、母に愛されるため、祖父に愛されるため。病院のベッドでオレに助けを求める父を母の期待に応えて拒んだのはオレが4歳の時だったか。それから間もなく父は病院の屋上からから飛び降りた。オレは父を殺したのだ。

 山上は、父をめぐる祖父と母の関係性や、母と統一教会の関係性で彼自身の過去を語っている。これが山上のツイッター上での自己紹介だった。

山上が語らなかった膨大な背景情報

 山上がツイートで語らなかったのは、[時代性][父の実像][家業・事業][兄妹の実態][信仰体験][学業・受験][職歴・仕事]だった。なかでも、高校卒業後の自分自身についてはまったくと言って良いほど語っていない。
 ここに列記した要素を除外して山上はツイッターで被害体験を語り、学歴と財産を奪われた者、女性から選択されないインセル、反フェミニズムの男性、反左翼の人として振る舞った。
 そして山上は、母親(B)について[曖昧な父親像][祖父][信仰][献金][曖昧な兄についての記述]をもとに語り、強い愛着を示したり、現在の自分が背負っている不幸の原因のように糾弾した。
 この状態を図示すると以下のようになる。

 山上の人生の背景にあった[時代性][父の実像][家業・事業][兄妹の実態][信仰体験][学業・受験][職歴・仕事]を除外したため、彼が負うべき責任や、受け入れて許すべき程度が消え去ってしまい、Bと祖父(A)への責任追及ばかりが目立つ結果となっている。

 BとAは無辜ではないとしても、父親(C)との関係で苦しみ、Cの死亡後も家族は平坦な道を歩めなかった。ここには[父の実像]だけでなく、バブル景気前の不景気、バブル景気、バブル崩壊という[時代性]と[家業・事業]の実情が関係していた。
 Bは事業とともにバブル景気崩壊後の負債も相続せざるを得なかったと考えられ、自己破産に至る経緯は献金だけで説明できるほど単純ではないだろう。なお事業を継承した建設会社でBは代表取締役、山上の兄と開業医でBの妹も取締役だったことが登記簿に記載されている。
 加えて、[兄妹の実態]なかでも小児がんを患った兄の存在は、Bの心理に大きな影響を与えていたはずだが、両者の関係性は大雑把にしか説明されず、さらに山上は兄の自殺にはまったく触れなかっただけでなく一周忌にも参列していない。

 山上は[学業・受験]について曖昧な表現しかしていない。しばしば彼は貧困が原因で大学に進学できなかったとされるが、受験したものの学力が足りず進学できなかった(しなかった)と親族が証言している。しかもBがAから相続した不動産1999年の3月以降に2回に分けて売却されているので、受験前から資産がなかったとするのは無理があり、もし困窮しきっていたなら大学受験の願書すら提出しなかったはずだ。なお妹は後に私立高校に進学している。

 山上は[職歴・仕事]についても語っていない。彼が高校を卒業した1999年は就職氷河期だった。彼の職歴を見る限り思い通りの仕事に就けなかったのは間違いない。「死んだ父は京大出だった。父の兄は弁護士、母は大阪市大卒の栄養士、母方の叔母は医者だった。」と語るところに、彼の職業に対する意識と願望が見て取れる。スムースに就職できなかった山上が、Bが事業を継いだ建設会社で働かなかったのは、事業の先行きや親族間の複雑な感情など何がしかの事情があったとしか考えられない。

 [信仰体験]はまったくなかったことにされている。
 統一教会を頼っていたのはBだけではなく、山上と兄も教団と関係があり、兄は錯乱状態となって「1人で死ぬのが嫌やから、自分の気持ちを分かってくれる人と死にたかった」と奈良教会元教会長のもとへ刃渡り30センチの刺身包丁を携えて行くほどで、山上は2005年に海上自衛隊を除隊すると元教会長へ「就職しないといけないんです。どうしましょう?」とメールを送っている。
 Bが高額の献金をしたのは間違いない。だがBが教会で篤志家と見られていたことから、統一教会は山上家の経済を把握できていなかったと思われる。2005年に実情が知られると、奈良教会元教会長がBを心配して山上家に毎月出向いて30万円くらいずつ返金している。その後Cの兄で山上の伯父が交渉して、5000万円を返金する約束を取り付け、2014年に返金が終了している。

山上が饒舌に語った内容

 前章までで、山上がツイッター上に描き出した自画像がどのようなものだったかを説明した。では、この自画像が語ったツイートを整理しよう。

全期間

 山上は全期間で86,000文字相当、49,000単語相当を使いツイートした。
 以下に示したのは全期間のツイートにおける頻出名詞をまとめたものだ。これは単語が使われた回数だけでなく、一般的ではない単語を重視して整理した結果だ。文字が大きいものほど度々登場したか、一般的ではない単語として目立った名詞である。一般的ではない単語を重視するのは、どのような文章でも頻繁に使われがちな「子供」「世の中」などより、「集団的自衛権」「統一教会」「インセル」などめったに使われない単語が文章の内容を特徴付けるからだ。
 このように処理しても、ありふれた名詞「女性」「祖父」が頻出名詞の上位に食い込んでいることと、一般的で頻繁に使われるとは言い難い「安倍政権」がさほど目立っていないのは注目に値する。

全期間 頻出単語

 なお全期間における頻出単語の上位は以下のようになり、

問題/90回、日本/79、オレ/72、氏/53、世界/46、全て/43、中国/41、否定/40、日本人/40、統一教会/39、為/39、意味/39、集団的自衛権/38、理由/38、必要/38、上/38、社会/37、場合/35、差別/34、国民/34……インセル/20

ここにtf-idf(term frequency–inverse document frequency)法と呼ばれる特定の単語の重要性を反映させる手法を適用すると上位から、

統一教会、集団的自衛権、インセル、オレ、検察、憲法、左翼、米国、差別、韓国人、コロナ、北朝鮮、中国、否定、問題、国家、権利、自民、党、彼ら

の順になった。

 全文をAIに要約の下処理をさせて、誤りなどを修正すると、山上は次に上げる内容を語っていたのがわかった。
1.インセルの自認と現状
2. 死者への配慮と生者の責任
3. フェミニズムと男女の本能
4. 経済的貧困と愛
5. 歴史と人間の本質

 これが全期間通して、山上が重点的にツイートした内容だ。
 5項目に統一教会と家族問題が含まれていないのは、この2点は山上にとってのプロフィールや自画像に等しいものだからだ。書籍で言えば2点は巻末にある著者紹介や近影で、これらは書籍の内容を要約するとき大きな影響を与えない。

 続いて各年ごとの、山上が重点的にツイートした内容を列挙する。

2019年から2022年

2019年

 山上が語ったのは、
1.日本人に対する韓国人の理解不足
2.天皇制とその象徴性
3.統一教会への批判
4.女性の権利とDNAの観点
5.韓国人に対する強い否定的感情
だった。

やりゃいいよ。どうせ「日本死ね」「民度ガー」「民主主義は死んだ」しか言う事はないのだから。詰まるところ日本人ヘイトに向かうしかな無いのは言わなくても分かり切っている。

原文ママ

がツイッターに残された山上の第一声だった。統一教会は1364文字以降に、はじめて言及されている。しかも天皇制、国民性の観点から韓国人に対する強い否定的感情を吐露するなかで取り上げられている。
 そして3,065文字目以降、映画『ジョーカー』への感想から長々とインセルについての持論を述べ、以後2回にわたってインセルを話題にした。
 当初から統一教会と家族問題は、プロフィールや自画像に等しい扱いだったのだ。

2020年

 山上が語ったのは、
1.インセルと社会の冷淡さ
2.家族の崩壊と個人の苦悩
3.フェミニズムと男女の関係
4.経済的貧困と教育の関係
5.社会の冷酷さと個人の責任
だった。

 集団的自衛権は32回、バイデンは13回、ホリエモンは11回、安倍政権は11回、統一教会は16回使用された。前年にあった「統一教会への批判」が主要な論点から消えたのは、この年のツイート数が多かったため他の話題に埋没したからだ。使用回数が少ないインセルが要約の重要項目に含まれるのは、まったく一般的ではない単語をわざわざ使用するこだわりが注目に値するからだ。

2021年

 山上が語ったのは、
1.コロナと医療の現状
2.政治への不満
3.生活保護と社会の構造
4.統一教会への批判
5.社会の未来への懸念
だった。

 この年は前年の半分ほどまで投稿文字数が減った。このため山上が折々のニュースやネット上の出来事を追いながら持論を語るアカウントだったのがはっきりした。また投稿文字数が減ったため、要約の重要項目に「統一教会への批判」が浮上した。

2022年

 山上が語ったのは、
1.下世話な人物評と人間関係
2.政治と市場の関係
3.ワクチンに関する議論
4.人間の本質と社会の未来
だった。

これが流れてちょっとウルっと来てる時に隣のオッサンが「グボェァ!!」なんてえづきだした時はストッパーが1つ飛んだな

で、この年のツイートが始まった。2019年は2カ月半で1500文字相当をツイートしていたが、2022年は6カ月で5,000文字相当をツイートした。内容は散漫で、統一教会や母親をはじめとする家族について言及していない。

山上が語った核心

 山上がもっともツイートしたのは2020年で、45,000文字相当、26,000単語相当を費やしている。
 同年のテーマ──
1.インセルと社会の冷淡さ
2.家族の崩壊と個人の苦悩
3.フェミニズムと男女の関係
4.経済的貧困と教育の関係
5.社会の冷酷さと個人の責任
が、彼の主張と人となりを端的に表している。

 インセルと社会の冷淡さでは、インセルに対する社会の冷淡さや、彼らが抱える承認欲求と孤独感について述べられ、「君らは子孫を残させない事で彼らを殺してるんだよ」と指摘することで、女性と社会がどのようにインセルを排除しているかを示している。

 家族の崩壊と個人の苦悩では、家族の破綻、祖父との関係、祖父の死に関する個人的な経験が語られ、家族の絆が崩れたことが強調されている。「根本的に家族として崩壊したまま、現実は上滑りしていった」と独自の表現が為され、この時期の学力の低下やアイデンティティの喪失が語られている。母と祖父への責任追及の核心部分が語られたのだ。

 フェミニズムと男女の関係では、フェミニズムの女権主義を強調する一方で、男性の苦悩や社会的な役割の変化についても触れられている。「女尊男卑とでも言うべきものになって行く」との指摘は、男女平等の進展が男性を苦しめる側面を示唆している。フェミニズムを「女の意思の絶対化と子孫を残す事にかけての権力性」と表現している。インセルと社会の冷淡さが密接に結びついた内容だ。

 経済的貧困と教育の関係では、経済的貧困が教育に与える影響や、社会福祉制度の必要性について考察している。「経済的貧困が教育と密接に関わる」として、教育の機会均等とアファーマティブアクション(積極的格差是正措置)について語っている。「家族の崩壊と個人の苦悩」との関連性を感じる内容だ。

 社会の冷酷さと個人の責任では、社会が最も愛される必要のある人々を愛さない構造についての批判があり、「金が金を産む資本主義社会において最も金が必要な脱落者には最低限の金が与えられるが、何故かこの社会は最も愛される必要のある脱落者は最も愛されないようにできている」との表現が、社会の矛盾を浮き彫りにしている。
 最も愛される必要のある脱落者とは、山上自身のことだろう。そして、「インセルと社会の冷淡さ」「家族の崩壊と個人の苦悩」「フェミニズムと男女の関係」「経済的貧困と教育の関係」に対しての結論とも言えそうな内容だ。

 「最も愛される必要のある脱落者」つまり「誰からも愛されない山上」の在りようが、背景にある[時代性][父の実像][家業・事業][兄妹の実態][信仰体験][学業・受験][職歴・仕事]を除外して、自己責任が消滅した彼自身から語られたのだった。
 加えて、2020年は手製銃の製作に着手した年とされている。

自分を棚に上げる螺旋階段を上り続けた山上

 「家族の崩壊と個人の苦悩」を語るとき、常に話題の中心は「母親(B)について」だった。山上はBについて、次のように語っている。

常に母の心は兄にあった。

母を殴る父の機嫌を損ねない事が始まりだったのか。

父に愛されるため、母に愛されるため、祖父に愛されるため。

最も救いがないのは、母を殺そうとした祖父が正しい事だ。オレは母を信じたかった。

何故に母は兄のため、オレを生贄にしようとするか

 また次のように強く批判もしている。

これまで祖父の目を盗んで金を統一教会に流していた母を咎める者はもういない。全てを手にした母は、韓国人が選民と信じる者にしか存在しない対価と引き換えに全てを引き渡し、そして言った。「祖父の会社に負債があった」と。

ウチのお袋は子供に自立の芽でも出ようものなら即座に統一教会ハマって一族もろとも巻き添えにして自爆したね。恐ろしきは女人なり。

原文ママ

この感覚はウチの母親に似てるから分かる。言葉では心配している、涙も見せる、だが現実にはどこまでも無関心。無意識レベルの無関心と他人事感を前提にした情しかない。こんな人間に愛情を期待しても惨めになるだけ。

オレが母の嘘(およそ5000万か)に気付くのはそれから10年後、登記簿を眺めた時だ。

 このように39歳から41歳にかけての山上が、学歴と財産を奪われた忌まわしいできごとを語った。いずれも背景にある[時代性][父の実像][家業・事業][兄妹の実態][信仰体験][学業・受験][職歴・仕事}の実態が抜け落ち、自分を棚に上げたまま語られた。
 人生のつまずきや失敗を忘れられなかったとしても、いわゆるアラフォーともなれば親が自分を育ててくれた年齢であり、親の人生とは別の自分自身の人生を築かなくてはならない年齢ではないだろうか。このため前回の記事『速報/山上徹也が綴った全ツイートを解析』では、母親への期待や依存が大きすぎるのではないかと類推した。
 期待や依存が大きすぎるのは、アラフォーになっても山上の人生が両親を中心に据えたものだったからではないか。父親(C)と祖父(A)とBの関係にこだわり続け、自分の人生がうまく行かない責任を、CをBと結婚させたA、兄ばかり愛して統一教会を信仰するBなどと解釈して祖父と母親に押し付けようとしてはいないか。
 山上家の子供のままアラフォーになった山上は、社会の中でも大人としての意識を抱けず、非モテ(インセル)、反フェミニズム、政治性を他罰的にこじらせていたとすると、安倍元首相は父性を象徴する存在だったのかもしれない。
 自己責任を消し去っているのだから、恨み、嫉み、怨嗟、憎悪、自棄を押しとどめるものがなく感情はたかぶるいっぽうだったはずだ。山上は自分を棚に上げて負の感情渦巻く螺旋階段を上り続けたのである。
 山上の人間像が、エディプスコンプレックスにきれいにまとまりすぎた気がする。
 また「何故に母は兄のため、オレを生贄にしようとするか」という問いは、アルコール依存症の親を持つ子(アダルトチルドレン)の類型「スケープゴート・タイプ」に似ている。アダルトチルドレンのスケープゴートタイプは、家庭の負の部分を背負い込まされ、他の家族が「この子さえいなければ、すべては丸く収まるのではないか」と幻想を抱くことで、家族の崩壊を防ぐ役割を担う存在とされる。山上はアダルトチルドレンについて知識を得ていたのかもしれない。
 あくまでも推論のまま、当記事を終えることにする。
 山上のツイートだけでなく解析結果も、一家にまつわるできごとについても、まだ一部しか公開できていない。次回記事の目処がたったところで、当記事冒頭の更新か、筆者のツイッターアカウントでお知らせしたいと考えている。

 さて、筆者は山上の姿勢に厳し過ぎるだろうか。
 1980年代前半、筆者の父は経営していた会社のトラブルで資産のほとんどを失い、出稼ぎに出て墨田区にある風呂なし共同トイレの木造アパートで一人暮らしを始め、自宅に戻るのは正月だけだった。母が守る自宅へは暴力団員がしばしば脅しをかけにやってきた。何人もの暴力団員が、家に上がり込んで居座って喚いたりするのだ。このように筆者の大学入学までの数年間は混乱の中にあり、健康に問題を抱えたこともあって思い通りにならないことばかりだった。両親は何年間もかけて我が家を元通りにしたが、先が見えない状況でも筆者は父と母を咎める気になどなれなかった。
 程度の差こそあれ少年時代から青年時代にかけて大きな屈託を抱えたり困窮した者は山上だけではないが、元首相に向けて手製銃の引き金を引いたのは彼だけなのである。


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加藤文宏
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