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太陽光発電所をめぐる二つの立場からの証言/儲けは二の次という地主たち

加藤文宏


はじめに

 上掲のグラフは太陽光発電の発電実績が季節ごと、さらに日々刻々と変動する様子を表している。わかりきったことだが夜間は発電できず、本領を発揮するのは概ね10時から15時くらいの間であり、季節ごと発電量が大きく変動している。したがって電力供給の根幹を担う「ベースロード電源」として使えず、重要が急増したとき臨機応変に対応できない。
 こうした実態が広く知られるようになっただけでなく、景観に配慮しないばかりか、環境や地域住民の意思を無視した乱開発が多発したことで、太陽光発電は環境団体からも批判されるようになった。
 しかも売電価格は下落し続け、太陽光発電導入のセールストークは以前の「つくれば儲かる」から「売電価格は下がったが、設置コストも安くなったから儲けが出る」へ様変わりしている。
 今回は、建設や管理方法を批判する人と、土地を貸したり売ったりする人の声を紹介して、太陽光発電所の実態をあきらかにする。

手出しできない場所

 太陽光発電を設置できる地目は雑種地、原野、山林、宅地で、隙間さえあれば虫食い状に建設されると言っても、都会暮らしの人には事情が飲み込めないかもしれない。
 都心から30kmほど離れると、そこはまだ十分に通勤圏だが、発電容量1メガワット以上の数ヘクタールにおよぶ大規模な太陽光発電所がある。このような地域がドーナッツ状に23区を取り囲み、さらに遠方となれば大小合わせて言わずもがなの状態になる。
 太陽光発電所が立地する地域で話を聞くと、2017年あたりから発電所建設をめぐって事業主と住民のトラブルが増え始めたようだ。当時は発電所を設置する際に、近隣の地域住民に対しての説明会が義務付けられていなかったため、工事がはじまってから抗議活動が行われがちだった。
 30km圏内に多い整地済みの場所や、工場などが撤退した場所に建設される例は別として、樹木を伐採したり傾斜地が開発されることで景観の変化による不安や、泥水が流れはじめたといった苦情の声があがりはじめたのだ。しかし、既に工事が着工しているうえに、説明会に法的義務がないのだから容易にトラブルは解決しなかった。
 その後、太陽光発電所の管理が問題視されるようになり、2021年に発生した熱海市伊豆山土石流災害で人々の危機感は最高潮に達した。
 「誰が運営しているのかわからないのが不安です」
 「もし事故が発生したら相手も困るはずなのに、あとは野となれ山となれと思っているみたい」
 「事業主がいつの間にか変わって、ますます管理が悪くなって荒れ果てている」
 台風直撃で被害を被った千葉県では、破損した発電パネルに雑草がからみついたまま放置されている例が多く、近隣の住民が「太陽光発電所は、私たちには手出しできない場所。私たちの常識が、ぜんぜん通用しません」と諦め切っていた。

発電所で肩の荷をおろしたい人たち

 ただし、太陽光発電所がつくられている土地の貸主と顔見知りで文句をつけにくいと言う人もいた。
 貸主が山林など使い道のない土地を持て余していたり、収益の悪化などで農業をやめたりしたのを知っているほか、同じような事情を自らも抱えているため強く抗議や批判ができないというのだ。
 「山や畑はほっておけばいいと言う人もいますが、使い道がないのに管理しなくてはいけないのは負担が大きすぎます」
 「ここで生まれ育った人は、自分の土地もどうにかしたいと考えています」
 などと複雑な事情があった。
 「金儲けしたいわけではない」と言ったのは、太陽光発電の事業者に土地を貸そうと考えている人だった。
 太陽光発電所から得られる報酬は、アパートなどを建てて賃料を得る場合より圧倒的に少ない。太陽光発電所の賃料は、発電規模によってのみ決まる。発電規模は土地の面積にのみ左右される。100坪(330㎡)の土地で年間33kW発電できるとして、電力の売上からみて賃料は月6000円を上回ることがない。
 しかし山林にアパートなどを建てるには整地、道路の確保、電気ガスなどインフラの整備に途方もない投資が必要になる。農地では、地目変更の申請をして受理されることが前提になる。申請が却下されるケースが珍しくないうえに、山林同様にインフラの整備が必要だったり、もともと宅地化しにくかったため農地のままだった土地では入居需要が期待しにくい。
 「太陽光発電所の契約は長期のものばかりで、20年以上が普通らしいです。もともと使い道がない土地を、売りたくても売れないからしかたなく貸すのではありません。20年間も自分が手入れしなくて済むことで、肩の荷がおろせるから貸すのです」
 こうしてルーラルエリアや山中に、太陽光発電所が増えていった。
 「私の土地の場合、発電から撤退したあとのことを考えるのか買い取る気はないと言われました。まあ、それでいいやと。肩代わりしてくれるのは、太陽光発電の業者しかいないのだし」

コインパーキング地帯に太陽光発電所は進出しない

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