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報道災害を考える 反カルトとイエロージャーナリズム

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加藤文宏

──10月4日、旧統一教会/現家庭連合の関連NGOである天宙平和連合(UPF-Japan)が鈴木エイト氏を東京地方裁判所に提訴した。国連NGOであるUPFから、故安倍晋三元首相側にビデオメッセージへの報酬が支払われたとするのは事実無根として、同氏がメディアや公共の場で流布したことに対し、名誉毀損(慰謝料1100万円)で訴えたものだ。この報酬をめぐる鈴木氏の発言を疑問視する声はあったが、メディアで取り上げられることはなく教団追及は加熱した。


崩壊しかねないズブズブ論

 鈴木エイト氏は安倍晋三元首相暗殺事件後、旧統一教会と安倍氏の関係について執拗に発言を繰り返し、昨夏から現在に至る統一教会追及報道を牽引してきた。
 暗殺事件から4日後の2022年7月12日に「裏取引疑惑」「ズブズブの関係」と始め、8月8日には文春電子版で[《写真入手》安部元首相と勝共連合会長「12年前の接点」暗殺事件につながるビデオ出演依頼者との隠されていた関係]が公開され、本年5月31日に刊行された『自民党の統一教会汚染2』では「UPF大会で安倍を教団との関係性における“表舞台”に引っ張り出したネゴシエーターであり、銃撃の原因を作った張本人とも言える梶栗正義UPFジャパン議長」と具体的に語っている。
 「裏取引」について鈴木氏は、「安倍晋三さんとトランプさんのビデオメッセージ、トランプには1億、安倍晋三に5000万支払われたという情報が、確たる情報があります(原文ママ)」とし、これを「内部情報」によって知り得たという。
 「ズブズブの関係」とは旧統一教会と安倍氏や、同教団と自民党の関係を表現すると同時に、両者の悪辣さを示す言葉であったが、この関係を象徴するものとされてきたできごとが事実ではないと提訴されたのだ。
 ビデオ出演の事情を調べてきた自らも信者である人物は、「いくらなんでも、これだけの額を経理や会計で粉飾するのは無理がある。潔白でなかったら提訴できない。安倍氏側の経理や納税にも関係する。ズブズブが事実とされてきたが、ぜんぶ思い込みだった、嘘だったとなったら、伝えてきた報道機関はどうするつもりか」と語った。

疑惑ではなく事実とされた報道

 鈴木氏は地方アイドルグループが旧統一教会の二世信者であると暴露し、これをマネージメント事務所によって否定されるできごとが昨年8月末にあった。仮に事実だとしても、本人の了解を得ることなく、本人が公表していない個人情報を暴露する重大なアウティング行為だ。
 だが鈴木氏は何ら対応することなく、スポーツ紙のWEB記事がながらく公開されたままであったことから、この例でも疑惑は事実として放置された。
 鈴木氏はジャニーズ事務所が10月2日に開いた会見について、質問者の指名で揉め事があったとき「『司会がちゃんと回せよ!」と発言した男性を、「私の直感だが、この男性はメディア関係者ではない」とし、「この男性の人物特定が“謎”解明のポイントになるのではないか」と、会見の本質から飛躍した奇妙な憶測を開陳している。
 ジャニーズ事務所問題での発言は特に取り上げられることなく無視されているが、旧統一教会追及では冒頭で紹介した5000万円支払いにはじまりアイドルの信仰暴露など、提訴された憶測や最低限の配慮さえない発言が事実として吹聴された。
 鈴木氏や彼を登場させる報道に懐疑的な言論は、筆者に限らずメディアから歓迎されず世に問う機会を与えられなかった。また旧統一教会信者を拉致監禁して棄教を迫る行為が組織的に行われているのを問題視したタレントの太田光氏は、テレビ番組で吊し上げをくらったほか、他の媒体でも「教団の代弁者」などとされた。
 このため鈴木氏が語る言葉が、検証や議論を呼ぶことなく事実とされ、旧統一教会が自民党のみならず日本を支配しているかのような陰謀論を生むことになった。鈴木氏は教団から提訴されたが、この事案では彼を重用して「事実を報告するジャーナリスト」と位置付け異論を排してきたメディアにも責任がある。

反カルトのイエロージャーナリズム体質

 旧統一教会の部外者である筆者は、現役信者や二世ら当事者を取材して実態や心理をあきらかにしてきた。
 鈴木氏が提訴された1週間後、かつて筆者が取材した旧統一教会/現家庭連合の二世にあたる公務員A氏から「話をしたい」とショートメッセージが届いた。A氏は信仰を継承していないが、鈴木氏の地方アイドルグループ暴露によって自分もいつか職場で立場を問われかねないと恐怖が高まり、心療内科に通院したこともあった。

鈴木氏について語るA氏(本人の同意をもとに取材写真を加工して掲載)

 A氏は「アイドルグループの暴露は鈴木氏のブログがもとになったもの。いまになってはじまったことではない。アウティングして晒し者にするのが、彼らにとって日常になっている。これが『やや日刊カルト新聞』や反カルトエンターテイメントの体質だ」と語る。
 「やや日刊カルト新聞」は藤倉善郎氏が主催し、鈴木氏が主筆を務めているブログだ。A氏が指摘する「反カルトエンターテイメントの体質」を、下掲の民族差別がオチとして使用された「やや日刊カルト新聞」の漫画が象徴している。

やや日刊カルト新聞より

 X上でも鈴木氏は取材拒否者を「チキン」となじっている。まず憶測ありき、結論ありきで臨み、取材対象を揶揄したり差別することが前提の、報道とは言い難い姿勢と言わざるを得ない。
 A氏はアイドルグループへの暴露で心身の不調を抱えるまで、反カルト系や反陰謀論系のイベントに聴衆として参加してきた。
 「いまから思うと、出演者が被り物をしていたり、変な格好をしているのが特徴だった。ほかにはない傾向だ。見世物小屋みたいだった」
 そして語られる内容は当事者を取材したものではなく、既に報道されていたり仲間内で知られた事実をもとに、団体の集会を遠巻きに見たり施設に接近した体験が元になっていたという。
 「統一教会について語られている内容は、信者や信者の家族だったらあり得ないと否定できる話も多かったが、当時の自分は親への反抗心からお笑いを見ている気分で見たり聞いたりしていた。取材しないのだから憶測になるのは決まっている」
 反カルトの立場を取った時点で、報告者と聴衆は正義の立場で正しい認識の持ち主と規定される。カルト信者や陰謀論者は愚かであったり狂っていると馬鹿にする。世の中の暗部を、いかに広く数多く知っているか得意になる。これらによって、反カルトの需要と供給が成り立ってきたというのだ。
 「統一教会報道といえば鈴木氏が出演していた。鈴木氏が出ていた統一教会報道は、正義の刺激に満ちていた。事実よりも刺激が優先されて、刺激にストップをかける内容を無視していた。叩いたり、晒し者にしたり、化け物のように表現して煽っていた」
 反カルトのイエロージャーナリズム体質が、報道全般まで染め上げていたことになる。

扇情的過熱の行方

 事実よりも扇情的であることを売り物にする報道姿勢を指して、イエロージャーナリズムという。他より速いこと、事実検証が後回しにされること、事実より思惑に沿ったストーリーが重視されることで、人々の興味を惹きつけて感情を煽り立てる。これらすべてが常に当てはまるわけではないが、統一教会追及報道と影響の関係はかなりの部分で該当している。
 前述のように発端は鈴木氏だが、彼がすべての原因ではない。
 他にも関係者から内容に疑いが出ているものがある。たとえば被害を受けて人権が抑圧されたと語る二世について、背景や逸話が実態と異なるという証言があり、証拠として生育歴や過去の言動が取り沙汰されている。これもまた大々的に取り上げられたり検証されることなく現在に至った。
 影響は政治にも及んでいる。
 与党である自民党への野党の攻撃材料にされただけでなく、自民党の安倍派と岸田派の駆け引きにも利用されてきた。さらに旧統一教会への解散請求を世論が求めているとされ、宗教法人審議会で妥当との見解が示されるまでになった。ビデオメッセージの報酬について疑いの声を封じただけでなく、コンプライアンス順守を徹底してきた教団の実績さえ報道から無視されたうえで、約1年間で様々な影響がここまで進行したのだ。
 数ヶ月前に旧統一教会/現家庭連合の職員から話を聞いたとき、「鈴木氏は天然だ(天然/常識や社会経験が反映されていないだけで作為的な意図はないという意味)。訴えるのはどうか」と提訴について消極的な態度だった。この判断には、鈴木氏の姉が旧統一教会の信者であるのも影響していたかもしれない。いずれにしろ、法的措置は遅きに失した感がある。
 前出のA氏は、「日本中の報道が敵にまわっているなら、なぜ訴えないのかとずっと思っていた。親の信仰を守ってやりたいというより、他の宗教だけでなくいろいろなことに悪影響を与えてしまう」と現状に懸念を示した。何者かが宗教に限らず団体や集団を名指しして、事実ではなく思惑に沿ったストーリーが過熱したとき、同じように解散請求や弾圧が行われかねないというのだ。
 報道災害は既に始まっている。あとは、どれだけ拡大するか、どこへ飛び火するかだけである。


これまでの旧統一教会/家庭連合追及の経緯と論考。14記事。

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