おとしどころ 3

mosoyaro

  琴の告白。
 その内容に腹立たしさと、いやらしさで鳥肌がたった。高校生の時、第一印象で胡散臭いと思った私の勘は正しかった。
顔が笑っている時も冷たい表情をする瞬間があった。自分の父親みたいに別な顔があるような感じをうけた。だけどここまで酷いとは。
きっと琴だけじゃない、被害者は他にもいる。
リンダも同じ事を思ったらしい。
全部聴き終わって、背中をさすりながら静かに話をきりだした。

「琴、全部話してくれてありがとう。辛かったね。これは紛れもなく犯罪だよ、琴が一人で悩む話じゃない。
警察には言ってないんだね、とどけを出す気ある?
誰にも言えなくて苦しかったと思う。
こんな卑劣な事するなんて。
何とか罰をうけさせたい。
ごめんこんな事しか言えなくて」

それからしばらく私達は3人で泣いた。
泣いてどうなるわけではないことはわかっている。だけど琴の気持ちを考えたら同じ女として泣かずにはいられない。
許してはいけない。
私はある事を決心した。そして聞いた。
「琴、今から聞く事に正直に答えて。残酷な質問する、許して。     レイプされたの?」

琴は泣きながら首を横にふりながら
「レイプはされてない、本当に。
裸の写真撮られて体を触られた」
「ごめん、辛い事聞いちゃって」
琴をぎゅっと抱きしめた。

レイプしてないって事は体液とか証拠が残る事を避けた?それとも琴は後輩だからやらなかったのか。
どちらにしても万が一警察に通報された時の事を考えて未遂で終わらせているんだろう。
そもそもの目的は車を売る事だから。
車は売った、だけど連絡してくるのは何の為に?
女には不自由してなさそうだし。
別な目的があるはず、相当タチが悪い、クズだから。
私は頭に血が上っていくのがわかったが、まずは琴の精神状態を落ち着かせる事の方が大事だ。
落ち着つけ。
洗面所に行って顔を洗ってリビングに戻った。

「今から言う事は私からのお願いなんだけど、琴は少しの間姿を隠して。
どこか親戚の家とか。琴もお母さんも落ち着ける場所で、2ヶ月くらいゆっくりできる所、ない?」
「大分の叔母さんの所なら、事情話せば受け入れてくれると思う」
「じゃあそこにしばらく置いてもらおう。
とにかくどんなに電話が鳴っても先輩からの電話には出ないで。
そう簡単には写真ばら撒いたりしないと思う。
こっちが毅然としておけば大丈夫。車を買わせたのに連絡してきたって事は今度はお金が目的かもしれない。警察に届けてないのをいいことに、ゆすってくるかも。琴の家が裕福なの知ってるから。身を隠してた方がいい。
琴だけの為じゃない、他にもきっと泣いてる人がいるはず。
私とリンダを信じて待ってて。琴が納得するかはわからないけど、琴の代わりに復讐する。最低でも二度と近づかないように対策をたてるから。少し時間をちょうだい。
全部終わったら連絡する。
だから死ぬとか言わないで。皆んな悲しむよ。
琴がこの先安心して幸せに暮らせるように、やってみる」

琴の手をにぎった。白い小さい手が震えていた。

 次の日の朝私達は琴を家まで送った。大和が心配そうに出迎えた。
きっと昨日は眠れなかったんだろう。本当に優しい男だ。こんないい男が近くにいる。

お母さんには琴がストーカー被害をうけているから、これから2か月位、大分の叔母さんの家に避難してくださいとお願いした。
絶対に誰にも居場所を教えないでください。殺される危険がありますと脅しておいた。
警察に行っても解決しないので私とリンダで何とかしますとだけ話をした。
お母さんは娘を本当に心配していた。お母さんも寝ていないのがわかって痛々しかった。私は少しだけそれが羨ましかった。

琴を送ってリンダと部屋に戻った。
今日は土曜日で私は休みだったが、リンダは半日仕事があった。
シャワーを浴びて出て行った。
私もシャワーを浴びて髪を乾かし遅い朝食をとった。

紙とボールペンを準備してこれからの計画を考えようとした時、携帯が鳴った。知らない番号。5コールめで出てみた。
「もしもし」
「あ、出てくれたね。誰だかわかるかな。覚えてないかもしれないけど、東山高校で陸上部だった一個上の山本岳といいます。久しぶり」

わかるよ、今まで話をしていたよ、あんたがクズだって。

「あーお久しぶりです。はいわかりますけど、私の番号どこで知りました?何か御用ですか」
「ごめん、番号は前に琴から聞いて、突然で失礼だったね。実は聞きたい事があって電話しました。今大丈夫かな」
「そうだったんですね、少しなら大丈夫ですけど、どんな事ですか」
「実は琴と僕は今付き合っているんだけど、昨日から連絡がとれなくて、探しているんだ。君は知らないかな、今どこに居るか」
気に入らない、この話し方。

「連絡が取れないって心配ですね、私は成人式から会っていないので知りません。でも先輩と付き合っているんですか?てっきり琴は大和と結婚すると思っていたから、意外です」
「そう、大和じゃなくて俺と付き合っているんだよ。ちょっとした行き違いで喧嘩してしまって。ごめん急に連絡して」
「知らなかった。先輩お元気そうですね、今はどちらで働いているんですか」
「俺は3号線沿いのショールームで外車の営業しているんだ。
BMとかベンツとか。気になるものがあったら見に来て。サービスするから、じゃ、ほかにも連絡する所があるから切るね。もし琴と連絡とれたら俺に教えて」
「はい、そうします」
そう言って電話はきれた。
最低な男と話をさしたいか、昨日飲みすぎかで、胃がムカムカしてきた。
トイレで吐いたら少しスッキリした。

それから私は考えた。どうやって地獄に落としていこうか。

法に訴えても少しの罪と被害者が二次被害にあうケースが多い。
今の時代男女差はなくなりつつあると言う人も多いがこの国ではそうではない。
今回の場合、写真を撮られている。
女の人を守ると言うより男性の警察官や裁判官に好奇な目に晒されていく方が多い。
泣き寝入りするパターンを狙った悪質な犯罪だ。レイプ被害を訴えても警察の事情聴取の際のセカンドレイプでまた苦しめられる。 
最近は有名人もmetoo運動で被害を口に出す事も増えてきたけど、そんなのは氷山の一角で、未だ圧倒的に黙って泣いている女の人が多い。
女は日常に差別を感じながら生きている。日本は男社会だから。

よくスポーツ選手が優勝した時、この喜びを誰に伝えたいですか、とインタビューされたら、9割が、お母さんに伝えたいと答える。
女子に優しいものが流行します。ランチも女の人だけ割り引きです。そんな現象だけ目にしたり聞いたりすれば、女の人が優遇されて大事にされる世の中になったと勘違いしそうだけど、そうじゃない。まだまだだ。
議員は9割が男で法律も男に有利、特に女性や子供が被害者の事件はひどい。
凶悪なレイプ犯でも何年か刑務所に入ってまた世の中に放たれる。
幼児に性的な悪戯をする、暴力を振るう男も、何年か刑務所に入ってまた出所してくる。再犯率が高い割には、追跡のマイクロチップを埋められる事も、去勢される事もなく出てくる。
圧倒的に女性や子供が不利な世の中なだ。
牢屋に入れられてもまた出てくるとなれば被害届を出しにくい。報復もあり得るから。

私はそんな法律に守られる男には法の目が届かない方法で、痛い目に合わせた方がが良いと思っている。
日本には昔、敵討ちという習慣があったと聞く。だけど今はない。そのかわり法律で犯罪を裁く。
残念ながら法律には抜け穴がある。

誤解してほしくはないが個人的には法律は遵守するタイプだ。
今回の事でいうなら、琴は被害者だ。だけど警察に届けても犯人は起訴されるかどうかわからない。未遂だから。起訴されても初犯だと情状酌量されるだろう。
刑事でも民事でも大したダメージにならないかもしれない。
訴えても金額が少額だと裁判費用の方が高くなり金銭的な負担も大きくなる。時間もかかる。
解決にはほど遠い現実がある。

#福岡好き
#私小説
#法律の壁

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