おだまり  3

              mosoyaro

 春一番がふいて庭先には色とりどりの春の花が咲き始めた。
ヒバリが子育てしているのだろう、巣の近くに人間が近づくと高く飛んでうるさく鳴く。
この時期、春の暖かい日差しと冬の冷たい風が交互にやってくる。
毎年 希望と不安が交差するこの季節は心のバランスがうまくとれず朝起きるのが億劫になる。

春休みが間近に迫り小学校の卒業式の練習が始まった頃、源の母親が見知らぬ男と一緒に園にやってきた。

母親は今まで色々な男と付き合ってきたが、ここに連れてきたことは一度もなかった。
何事かと源は怪訝そうに2人を見つめている。
園長先生と話ている。そして源が呼ばれた。

先生がその日の夕食の時、皆に話しをした。

「皆んな聞いて。突然ですが、、、源のお母さんが結婚したので 源は明日ここを出て行く事になりました。
学校は転校しません。あたらしい家もこの近くです。
寂しくなりますが源の幸せを祈って笑顔で送り出しましょう」

それを聞いてからすぐ私は源を部屋の外に呼び出した。

「本当なの?お母さん結婚して源ちゃんと一緒に住むって。
いつも勝手だよね、何度も裏切られてきた。
その男ともいつまで続くかわからないよ。いかない方が良い。
期待しない方がいいよ、行かないで」

私は泣いて頼んだ。源は私の涙を優しく拭いて

「まり、聞いてくれ。お前の言いたいことはわかってる。
だけどここは、この施設は親の都合で子供を育てられなかったり、親がいなかったり、虐待されたりする子供を保護したりする所だ。
だから 母親が再婚して今度こそちゃんと育てるって言ってる限りは俺はここにはいられない。
本当は俺も行きたくない。
園長先生も本音では行かせたくないって言った。
だけど決まりだからそれ以上は先生にもどうにもできない。
ここは町の補助金で運営している。先生も自分の気持ちだけで俺を置いておく事はできないんだ」

それでも 納得がいかない私は食い下がった。

「だけどお母さんの再婚相手がどんな人かもわからないじゃない。
今日の明日では調べることも出来ないし。
源ちゃんを大事にしてくれる人かわからない。
変な人だったらどうする?
お母さんを信用して何か良い事が今までにあった?」

「俺だって100パー信じてるわけじゃない。今まで散々裏切られてきたからな。
だけど今の俺は小さかった頃の俺じゃない、何かあったら自分で何とかできる。
心配するなよ、引っ越す家はここからそう遠くないし学校も変わらない。
4月から まりも中学生になるから学校で毎日会える。
どうしても嫌だったら家出してまたここに戻ってくる。
まり あの約束忘れるなよ」

源は次の日の朝早く園を出て行った。皆んな早起きして笑顔で見送ったけど、私は泣いてちゃんと見送る事が出来なかった。

 2週間後
学校から帰ってきた私を見つけた園長先生が泣きながら駆け寄ってきた。
源が危篤だから急いで病院に行こうと。
すぐに2人で病院へ向かう。
案内された病室の前に行くと入り口には警官が2人立っていた。
中に入ると機械をいっぱいつけられてベッドに横たわる源が。

何がおきたの?あんなに元気だったのに。
ベッドの横には源の母親がいて泣いている。
震える気持ちを必死に堪えて、私は源の手を握り話しかけた。

「源ちゃん、源ちゃんどうしたの、何があった?どうしてこんな所にいるの。源ちゃん返事して」
涙が止まらない。

「源稀、まりちゃんきてくれたよ、ずっと名前呼んでたでしょ、目を開けて。ごめんね源稀、ごめん」

源はゆっくり目を開けた。私を見て笑ったような気がした。

「源ちゃん わかる、まりだよ。何でこんな所にいるの、返事して。約束したよね、一緒に夢を叶えようって。
ダメだよ 早く元気にならないと」

アラームが激しく鳴り出し危険を知らせている音がしている。
子供にもわかる。皆で頑張れと声をかけた。

その後  
何が起きたのかよく覚えていない。
医者が源につけていた機械の電源を止めて、死んだって言っている。
意味がわからない、何言ってるの。まだ生きてる、握っている手はまだ温かい。
なのに、死んだと。
ショックで床にへたり込んだ。

「源稀ごめん ごめんね、こんな事になるとは思わなかったのよ。あの男を信じた母さんが悪かった。
戻ってきて」
大声で泣き叫んでいた。私はそこから動けない。私の時間も止まってしまった。

葬儀が終わり源ちゃんは小さな箱に入れられた。
源の母親は小さくなった我が子を抱きしめて泣いている。
源は母親の再婚相手から殺された。

源と3人で暮らすようになった次の日から男は源に躾と言いながら何かと声を荒げ始めた。
その男は源の死んだお父さんの残してくれた遺産が目当てだった。
それがわかった時には
「お前の躾が悪いからこんなことも出来ない」
と母親に暴力を振るうようになった。
1人で逃げることが出来たのに源は母親を守る為にそこに残ってしまった。
そしてとうとう男は包丁を振り回し暴れ出した。
母親を守るために自分が刺されてしまった。
それでもすぐに病院へ運べば助かった命だった。
男はそれを許さなかった。

警察から話を聞いて ただ悔しかった。
私は自分がもっと強く行かないでと止めていればこんな事にはならなかったんじゃないかと、自分を責めた。

源が死んでから泣き続けた。
食事もろくに食べず学校にも行かずに泣いていた。
周りは心配したがどうしようにもなかった。

イタズラをして先生に怒られながらこっちを見て笑っている源ちゃん、 学校の、帰りにアイスを買って食べる直前に地面に落として半泣きになった源ちゃん、 ワンオクが好きで歌うけど、英語の発音が下手すぎて自分でずっこけた源ちゃん、 雪の日冷たくなった私の手を温めてくれた源ちゃん、 一緒に夢をみて笑ったり泣いたりした優しい源ちゃんはもういない。

私は嬉しいも楽しいも何も感じられなくなっていた。
目に見える景色はいつもグレーで未来の事などどうでも良くなっていた。

そんな日が続いていたある日、庭の隅に座って一人でいる時 光る何かが私の前を横切った。
何だろう?
大きな犬、猫、違うライオン?まさか。

光っていて姿がよく見えない。だけど、自分に近寄ってくるのはわかる。
動きを止めて私をジッと見ている。
立ち上がって逃げようとした、だけど何故かその視線から怖さを感じなくい。むしろ心地良い、優しい視線。
眩しさを我慢し今度は自分が近くに行ってみた。
その姿をゆっくりと確認する。
どこかで見たような、、、、

思い出した。源といつも一緒に遊んでいた近くの神社。この地域の神様を祀っている、その神社の狛犬にそっくりだった。
源はいつも狛犬の横に立って

「ここの狛犬は他の神社のより顔が小さくてかっこいいんだよな。俺みたいな今時のイケメン。
ほらまり、見てみろ」
と言っておどけていた事を思い出した。

しばらく何も言わずに見ていた
「私はロデム」
声が聞こえた。まさか喋った?違う頭の中に響いた。
テレパシーかな。
「ロデム あなたの名前はロデムって言うのね。あなたは何者」
ロデムは答えずそばに寄ってきて私を包み込むようにそこに横たわった。

怖くない

その日からそれまでの悲しい気持ちが少し落ち着き、私は学校へ通えるようになった。
寂しくなるとロデムが側に居てくれる。
まるで源といるみたいだった。
もしかしたら私は寂しさから幻想を作り出したのかもしれない、何故ならロデムは私以外の人には見えていなかった。

だけどある日ロデムは若い綺麗な女の人を連れてきた。

                  つづく

#私小説
#福岡すき
#ロデム
#戻らない幸せ


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?