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リリー  後編

           mosoyaro

2週間後
パートの仕事が終わり子供達を迎えに車で小学校に向かった。小学校近くの路地は道が狭くカーブになっていので見通しが悪い。いつも気をつけて運転していた。
正門近くに来た時、赤い服をきた小さな女の子が急に飛び出してきた。
ボール遊びをしていたのだろう、咄嗟に急ブレーキをかけてハンドルを横に切ったが道路脇の電柱にぶつかってしまい車が前半分潰れてしまった。
幸い女の子に怪我はなかったが車と電柱の破損がひどい。車の保険には加入してはいるが来年からの保険料の事を考えると修理代は現金で払いたい。
電柱の補償は保険料から出すしかない。せめて車の修理代は現金でと思うがまとまったお金は準備できない。多分修理代は50万以上になると思う。
車がないと仕事にも子供達の送迎にも影響が大きい。准一に電話しても今の彼には何も出来ないだろう。
両親に相談したい、だけどこれまでの事を考えるとお金を貸してもらえるかわからない。何よりまた頭を下げに行きたくない。
警察に連絡して座りこみ頭をかかえていると、目の前に青山が立っていた。グランドにいても聞こえるくらい凄い音がしたので様子を見にきたらしい。半分潰れた私の車を見ながらこう言った。
「この前の3000万の話だけど条件をのむ、いやむしろそれ以上だす。5000万でどうだ。契約を交わそう今夜会おう連絡する」

子供達が寝た後連絡があった場所へ向かう。指定された場所は中洲繁華街の近くにあるホテルの一室。
川沿いに建つそのホテルは、ビジネスホテルでも一流ホテルでもない。
だけどインテリアセンスが良いと評判でSNSではよく取り上げられている若い女子に人気のホテル。こんな場所を誰に聞いたのか知らないが、見た目が野獣の男とのギャップが激しい。
ここに来るまで葛藤があった。正直5000万に心が揺れたのだが、いくら青山が裕福でも5000万を妻に内緒で動かせるのだろうか?それにあんなに毛嫌いしている男と愛人契約など結べるはずがない、正気になれと。
とにかくホテルまで行って断ろう、そう思ってここまで来た。指定された部屋に入る。
先に青山は椅子に座って待っていた。テーブルには赤ワインとチーズが用意されていた。
長居するつもりはない。部屋はSNSの写真よりずっと可愛かった。白い家具に白いベッド。小物はベージュとピンクとグリーンで統一していた。
その中に座って私を待っていた青山はまるで異空間に迷い込んだ動物の様に見えた。
「座ってくれ、よく来てくれた」
「すぐに帰るから構わないで。ここに来たのはこの話はなかった事にしようと言いにきただけだから。
いくら私がお金に困っていてもアンタと愛人契約なんて結べない。人の足元見てはずかしくないの。アンタは私の夫を痛ぶって精神的に追い詰めて会社を辞めさせた。それだけじゃ足りない?私が高校生の時アンタを振ったからずっと恨んでたの」
「お前には悪い事をしたと思っている。だけどお前の旦那には桜木には悪いとは思ってはいない。俺だけが悪いのか?桜木は要領が悪くてトロかった。技術者は口下手でかまわないというわけではないぞ、トラブルが起きた時どうしてこうなったのか説明してくれって言っても説明出来ない。言い訳ばかりする。大事な会議の下準備が出来てなくてイラついて大勢の前で叱責したのは俺も悪かったがそれで精神的に追いやられて辞めることになったから責任を取れと言われても。
俺の言うことなんてどうせ信じられないだろうけど、お前にも本当はわかっているんだろ、桜木の弱い所。
とにかく一度ここに座ってくれ。条件を提示するから、見てくれ」
促され私は何故か椅子に座ってしまっていた。
「書類を契約書を作ってきた。俺もお前も馬鹿じゃない、どちらかが約束を守らなかったらお互いに痛手を負う。だから目を通して確認してくれ」
差し出された書類には契約書と書かれ細かく条件が提示されてあった。
ビジネスか
そこには半年の愛人契約は5000万、手付金として本日1000万支払い4000万は毎月500万ずつ支払って最終日に残りを全額支払う。
毎週木曜日にこのホテルで会う、避妊をする、誰にも口外しない、バレないように細心の注意をはらう事などの内容だった。
そして青山は黒い革製のトートバックから紙袋に入った1000万の札束を取り出しテーブルに置いた。まだ帯がついているのでピン札とわかる。不用心だろ、流石に現金をそのままバックにインするのはと思ったが生まれた時からの金持ちはお金に執着しないのだろう1000万を普通に持ち歩いても平気なんだと納得した。
「どうする?嫌ならこのまま帰ればいい。OKなら今日今から契約を実行する」
嫌だった本音は嫌に決まってる。こんなお金で自分を売るのが嫌だった。惨めだし准一や子供達への裏切りだ。だけど目の前には1000万。このお金があれば誰にも頼らず当分生活できる。
5000万あれば准一が修行から帰ってきて店を出す時の資金になる。金策に追われる事もなくなる。
准一にこの金はどうしたと聞かれたら宝くじに当たったと答えれば怪しまれない、などの考えが頭を巡る。そして
悪魔が囁いた、
「半年間アンタが馬鹿になればまた幸せな生活が戻ってくるよ」と

私は1000万を受け取り契約書にサインした。そしてテーブルの上のワインを飲み覚悟を決めた。アルコールには強くないので、一気飲みして少しぐらついたが酔いに任せないと正気ではいられない。
「シャワーを浴びてくる」
浴室にむかいながら、今ならまだ引き返せると思ったがシャワーを浴びながら覚悟を決めた。
浴室から出るとギラギラとした目の青山が抱きついてきた。キスをされガウンを脱がされ、抱き寄せられ身体中を舐めまわされた。青山は興奮して
「綺麗だ、想像していたよりずっと綺麗だ。この日を夢みていた、やっと手に入った」と言った。
そして私は長い愛撫の後青山を受け入れてしまった。
その夜は翌日の朝まで一晩中何度も求められた。
朝になりようやく行為から解放してもらい急いでホテルを出る。
家に戻り子供達に気づかれないように注意しながら部屋に入った。
1時間程横になり子供達を起こし学校と保育園に送った。バックにはお金と書類が入っている、誰にも見つかってはいけない。
その日車を修理に出し子供達に靴や洋服、食材を買いに行った。久しぶりに冷蔵庫が満杯になった。

それから週1で青山と会った。
青山は奥さんにはもう勃たないらしいが私とは何度もいけると驚いていた。
一晩に何度も求められ、妻には求めた事などない行為も私には要求してきた。応えるしかない。

青山の奥さん杏奈は准一の2つ年上の幼馴染で私も高校が同じだったので顔は知っていた。あまり話をしたことがなく挨拶程度の仲。
子供のサッカーの話を数回したくらいなので性格はよく知らないが准一とタイプが少し似てると感じた事があった。
小柄で色白だけど全体的に地味な顔立ち。美人とか可愛い感じではない。あまり表情がないので何を考えているのかわからないし、サッカーの試合の応援も声を出して応援をしている所を見た事がない。
私とは正反対なので杏奈を見た時、青山は好みが変わったんだと思った記憶がある。
青山は学生時代ラグビーをしていたせいもあり体力があった。行為の最中はどんな要求をされようがお金の為だと我慢した。正直一度も気持ち良さを感じた事はなかった。むしろ青山が頑張れば頑張るほど私の心は冷めて行く。心と体は繋がっているんだと改めて実感した。
ただ体から発せられる強烈な体臭はシャワーの後なら何とか我慢ができた。
約束の半年が過ぎようとしていた。
最後日、今日残りのお金全額を受け取れば契約は終了する。
最後だからと青山はいつにも増して激しく求めてきた。
一度目が終わってビールを飲んでいる時青山が言った。
「俺は汚い手を使ったけど、お前の事が好きだったからこの半年は本当に幸せだった。昔からお前はずっと綺麗で、再会した時も変わってなくて嬉しかった。俺は桜木がいつも羨ましかった。いい思い出になったありがとう。お前が俺に対して愛情なんて微塵も感じてないってわかっていたけど、それでも俺にとっては宝物になった」
私は黙っていた。なんと答えていいか、青山に対して愛情なんて感じたことはなかったしビジネスだと割り切り毎回早く解放される事だけを願っていたから。
だけどまさかこの後あんな事が起こるなんて想像もしなかった。

それは休憩後いつものように行為を再開しているときに起きた。

青山が私の股の間で何度も腰を動かしていた時突然
「ウッ」と声をあげ私の体の上にうつ伏せになり動かなくなってしまった。ピクリともしない。何が起きたのかわからない。
急いで体を上向きにして名前を呼んだが返事がない。息を確認する、息をしていない。こんな時どうしたらいい?頭がまわらない。
心臓マッサージをしてみた、反応がない。ホテルのフロントに連絡して救急車をよんでもらう。私はその間に服を着て青山のバックから1500万を取り出し部屋をでた。
ここにいてはマズイ。タクシーを拾い急いで家に戻る。
大丈夫、誰にも見られてはいない、私が一緒だって誰にも見られてない、自分に言い聞かせる。体の震えが止まらない。ただただ死んでいない事を祈った。
昼頃
青山が死んだとチームラインがきた。やっぱりダメだったんだ、死因を調べたらわかるよね。腹上死、聞いたことはある。原因は心臓発作かな、脳梗塞かな。
そんな事を考えていた時インターホンが鳴った。画面で確認すると警察手帳を開いた男と女が2人立っていた。「はい」
「桜木百合子さんいますか警察です。確認したい事があるのでここ開けてもらえますか」
青山の事に間違いない。
「はい」
手帳を確認した、本物の警察だった。
「何の用ですか」ととぼけた。
「昨日の夜から朝にかけて中洲のホテルで青山さんと一緒にいましたね。救急車を手配したのもあなたですね。ホテルにあるカメラにあなたが部屋から出てくるところが写ってました。青山さんの奥様にも確認済みです。死因に不審な所はないのですが、心筋梗塞だった事はわかってますので、状況だけ聞かせてください。そんなに時間はとらせません。事情あるとは思いますが聞かせてもらいます」
そのまま警察署に連れて行かれ事情を聞かれた。正直に答えるしかなかった。
そこには遺体を引き取りに来ていた杏奈がいて会うなりビンタされた。警察は止めてくれたけど間に合わない。
「この女よくも、一生許さない」
取り乱して大声で私をなじった。大人しい女が豹変していた。
そこには夫准一も駆けつけていた。
3ヶ月くらい家には帰ってこず、連絡もなかったのに、、、誰が連絡したのだろう。殴られている私を見ているだけで何も言わず私を睨んでいる。
久しぶりの再会がこの警察署。
事件ではないのですぐに解放された。
警察署の前で待っていた夫、建物から出てきた私をいきなりビンタし髪を掴んで振り回した。倒れると足で体を蹴り上げた。
「俺の居ない間によくも裏切ってくれたな。信じてたのにお前の事、出ていけ子供達は俺が育てる、2度と俺たちの前に現れるな」
優しい准一が初めて豹変した時だった。警察が止めてくれなかったら殺されていたかもしれない。

あれから、准一は実家に戻り両親と一緒に子供達を育てている。
准一は結局親戚の建設会社に再就職してそば職人にはならなかった。子供達は転校し新しい環境で生きていた。
あの時青山からお金を受け取らず貧乏な生活を我慢していたらどうなっていただろう。今は幸せだったろうか。准一に職人とか辞めて就職してほしいと言えてたら。
毒を飲んだのは私だ、毒だとわかって飲んだ。だけどまさか青山が死ぬなど思いもしなかったし皆にバレる事も想像していなかたかった。上手くやれると本当に思っていた。
人生は選択だ、いつもどちらかを選んでいる。あの時も自分で選んだ、それが最悪な方だっにすぎない。
お金は全額自分名義の口座に入金していた。その金は部屋を借り職が決まるまでの生活費に充てた。まだ4000万以上は残っている。いつか時がたって自分が死ぬ時、思い出にかわるまで1人で生きていこうと決めた。
准一からは慰謝料を求められなかった。サレ男なりのプライドがあったのだろう。子供達に合わせないという条件だけだった。

梅雨空の中、博多の祭り山笠の追い山が近いので街にはふんどし姿の男衆がうろついている。
そんな日の夕方、早番の私はそろそろ帰る時間を気にしていた。
今日は6時にあがって帰りに1人で博多座にミュージカルを見にいこうと決めていた。
公開から1ヶ月公演の作品、もうすぐ終演する。先日ようやくチケットを手にいれた。
博多座は仕事場から歩いて行ける距離。夏の時期の福岡は日が長い。
ビールを片手にゆっくり川沿いを歩くと風が心地いい。
そんな事を考えている時後ろからお客さまが話かけてきた。
「いらっしゃいませ」
商品の問い合わせかと思い返事をする。
「あの、桜木百合子さんですよね、私は青山若菜といいます突然すみません。お仕事終わった後少し話せませんか」
すぐにわかった。青山の娘。桜木と言った、今私は旧姓の華を名乗っている。父親とは違い可愛い顔立ちだったが目の当たりに青山の面影があった。
体が震えたが平静を装い承諾して場所を指定した。近くのカフェ。コーヒーが美味しくて有名なので、昼間は満席だが夜は比較的空いている。
仕事を終わらせて急いでその場所にむかい先に席に座って待っていた若菜の前に座った。
飲み物を注文してお互い黙ったままだったが先に彼女から口を開いた。

「いきなりでビックリしましたよね。改めまして私は青山若菜です。お会いするのは5年ぶりになりますね」
若菜は真っ直ぐに私を見て話始めた。
「百合子さんは相変わらず綺麗、あなたは5年前とちっとも変わらない。
父があなたに夢中になった気持ちがわかります。
今日は父の事でどうしても話がしたくてきました。一言謝りたくて、、、あの時はすみませんでした。」
頭を下げられて面食らう。てっきり文句を言われる事を覚悟していた。
「あの時はあなただけを悪者にしてしまいました。突然な事で母もどうかしていたし、私も気が動転していて、父が、亡くなったショックと驚きで色々考える余裕がありませんでした。時間が経った今、私も少し大人になりあの時起きた出来事を振り返って考えられるようになり、世の中一方的にどちらかだけが悪いって事はないんじゃないかと思うようになりました。
それであの時自分達に起きた事をじっくり考えてみようと思い、母に思い切って聞いてみたんです。
実は母は父が亡くなった2年後に乳がんが見つかって今現在も闘病中です。見つかった時は癌のステージ4で治療もあまり出来ませんでした。あと半年の命とお医者様に言われてます。
あの日父が死んだ日私も母に付き添って警察署にいきました。
母は亡くなった父を見て取り乱し、あなたを叩いたり酷い言葉でなじったりしてましたが実は母はあなたと父のことを知っていたと白状しました。父の部屋の掃除をしていた時偶然パソコンのゴミ箱の中に契約書の下書きと現金を見つけたらしいです。
あなたと母は高校が一緒で、あなたの元夫は母の幼馴染。母は自分が父から愛されていない事はわかっていた、自分は地味で大人しく見た目にも異性から好かれるタイプではない。綺麗で人気者のあなたがずっと嫌いだったと。
父が高校生の時にあなたに振られた事も知っていました。
母が子供の頃から心の拠り所にしていた人は桜木さん。だけど桜木さんとあなたが結ばれてしまった。
ショックで母は親から勧められて好きでもない父と結婚した。
それでも私達が産まれて幸せだと思っていた頃もあったらしいです。
だけどサッカーの父兄同士で再会した。また嫌いなあなたに合った時思い出した。大事な幼馴染と自分の夫はあなたが好き。夫はあなたがいたからサッカーの監督を引き受けた。子供達の練習や試合を見にくるあなたを父はいつも目で追っていた。
そんな時父が会社でパワハラをしていて、その相手が桜木さんだと知る。桜木さんには幼馴染として申し訳ないと言って近づき会って相談を受けていた。カフェの経営がうまく行かなくなった時にそば職人を勧めたのは母だった。
それであなた達家族の生活はより一層厳しいものになった。
同じ時期父はその時たまたま購入した宝くじで6000万当たった。
日々の生活には困っていないし、どうせ泡銭だから思い切り使い切ろうと思ったと思います。父はあまりお金に執着しない性格だったから。
だからあなたに愛人契約を結ぶ話を持ちかけようと思った。だけど母には何となく後ろめたい気持ちになった。だから宝くじがいくら当たったかは教えないでお金はそれぞれ好きに使おうと言って母に1000万渡した。父は残りの5000万を使って昔自分を振った女を助けるため、自分の欲求を満たすために全力でどんな手段でも使おうと決心したんだと思います。
偶然その計画を知った時母は何も知らない事にしようと決めた。
あなたの5分の1しかない自分の価値を笑いながら。
冷静に考えたらこの計画あなたが受け入れたらお金に困り大嫌いな男に、しかも自分の夫が会社を辞める原因になった男に買われる事になる。それがどれだけ惨めで屈辱的か。想像したら急に楽しい気分になったと言ってました。
そして計画は本当に進み始めた。
あなたは父の提案を受け入れて週1でホテルで会う事になった。
嬉しそうに出かけて行く自分の夫。誰にも気づかれていないと思っているさぞかし幸せだろうと思った。
反面、あなたは不幸のどん底にいると想像できた。
だけど夫が突然死する。こんな事は予想外、頭がパニックになった。あなたを見てあんなに取り乱すとは思わなかったと言ってました」

若菜の言葉を聞いていた私は頭が混乱していた。どう言う事?杏奈が仕組んでたって事?じゃあ准一もグルって事なの。私は3人に踊らされていただけの馬鹿な女だったって事よね。
狼狽える私を見て若菜が続けた。
「何度もお詫びをしたいと思いましたが勇気がありませんでした。母はもう直ぐ死にます。死ぬ前にあなたに謝りたいと言ってました。でもどうやら直接謝るのは間に合わないようです。うわごとで何度も謝っています」
涙が溢れてきた。
「お金目当てに申し入れを受け入れたのは私だから当然罰は私自身で受け入れないといけないと思っていたけど、今の話だと私は3人にはめられたって事よね。だけどいったい誰が幸せになる?誰が得をする計画なの?」
「誰も得はしません。皆んなが不幸です。あなたは父の事は好きではなかった。生活の為に父の馬鹿な提案を受け入れた。父はたまたま宝くじが当たって自分を見失った。ご存知とは思いますが、両親の実家は資産家でお金には困ってなかったけれど、5000万というお金を現金ではそう易々と動かせません。
宝くじが当たって正気でなくなったとしか考えられない。
父はバレない自信があったんでしょうね、でもあんな形で終わってしまった。自分の親が情けない。
私も女です。同じ女の立場から言わせれば、本当にあなたを馬鹿にしすぎ。
死んだ人を悪く言いたくないけど最低の親です。母も最低。私はそんな2人の子供である事が恥ずかしい。
あなたに申し訳ないです。
お子さん達にも。自分達はお母さんに捨てられたと恨んでいるはずです。
うちは弟がそんな状態だからよくわかります。父に捨てられたと恨んでる。
一方的にあなたが皆んなの悪者になっている。父が死んだから。
こんな事私が言っていいのかわかりませんが、子供さん達に会えると良いですね。何と言われようとあなたには会う権利があると思います。私は誰も幸せになれない選択をした父と母を許しません。今日は会えて良かった。もう来ません」
「ちょっと待って、衝撃的な内容で頭が回らないけどこれだけは聞かせて。私の元夫准一はどこまで知っていたかお母さんから聞いてる?」
「私もそこはしつこく聞きやっと答えてくれました。あなたと父との関係が始まって2ヶ月位して母が教えたらしいです。でも半年の契約が終わるまで何にも言わなかったんでしょ。自分の奥さんがそんな目にあっているのに何も言わないって理解できません、大人って汚い」
若菜はそう言って帰って行った。

子供達に会いたかった。でも会えないと思っていた。自分が死んだら会いに来てくれるかなと思っていた。
罵声でも良いから浴びせに来てくれたら会えるのにとか。
あの時は他にどんな選択があったかなとか考えても仕方ない事を考える日々だった。だけどあの時の事が仕組まれていたとなると話は違う。
子供達にはあれから何も関われているない、入学も卒業もあった。受験もあった。大事な時を一緒に過ごせなかったこの5年間。子供達を深く深く傷つけてしまった。

どうやって家に帰ってきたかわからない。若菜が店を後にしてから私はその場からしばらく動けないでいた。店の中から外を歩く人達を見つめながらただ涙が溢れた。
それから会社を休みずっと泣き続けた。
3日たった時涼子が家に訪ねてきた。私のただならぬ姿を見て何も言わずに抱きしめられた。
「良かった生きてた。心配したよ何かあったの、どうした?」
私は泣きながら涼子にこの話をした。涼子は黙って一緒に泣きながら聞いてくた。
そして
「女の敵は女だったかあ、しんどいね。話を聞いてて思ったけど、百合子は自分1人毒が毒を飲んだと思っていたんだよね。だけど結局4人共色が違う毒を飲んでいた。そしてそれぞれの形で毒が蝕んでる。
百合子は自分自身の心も身体も深く傷つけた。青山は自滅して死んでしまい、杏奈も後悔しながらもうすぐ絶命する。
じゃ元旦那准一は?こいつが1番悪くないかな。奥さんや子供達を犠牲にして自分は被害者ヅラしてる。
親に頼り幼馴染みに頼り、奥さんに頼り。
会社辞めたんなら再就職先探して1からやり直せば良かったのに言い訳して逃げた。最終的に百合子に責任全部押し付けた1番のクズ野郎」
「准一に会う、問い詰めて子供の親権取り戻す」
取り乱している私に涼子は背中をポンポンと軽く叩きこう言った。
「落ち着いて聞いて、問い詰めても百合子の不倫の事実は変わらないわかってる?警察沙汰にもなってるし相手が有利。正攻法では負ける。
相手に非を認めさせるつもりなら相当な覚悟が必要だし今よりずっと強くならないと負ける。
お前が悪いとまくしたてられたら泣いて帰ってくるのがおち」
「性格は変われないよ」
「そうね、性格はそう簡単に変わらない。じゃとうする?事実を知っても何もしないでただ泣いてるの?これからも、違うよね強くなろ。考え方を変えるのよ、自分を責め続けても、子供達に執着しても何も変わらない。で、私からの提案、元の優しい性格は変わらなくて良い、変えるんじなくて百合子の中に1人強い人格の人間を作るってのはどうかな。
その人は物事を冷静に考えて受け答えが出来る強い人。自分の考えをはっきりイエスかノーかで表現する外人みたいに。名前はそうねリリー」
「リリー?」
「気高く美しいユリの花からリリー。この5年間ずっと自分を責め続けていたんでしょ。心から笑った事ないでしょ、気づいてたよ。私は百合子は人には言えない理由があるじゃないかと思ってた。まあ誰にでもあるけどね人に言えない事は、私にもある。
だけどもうそろそろ自分を許してあげたら。自分を大切にしても良いと思うよ。やった事は認めて反省した。この5年苦しんだ。自分の心に決着をつけて人生をもっと楽しもうよ。
それに今は無理かもしれないけど子供はきっと戻ってくる。愛情を沢山注がれた記憶をきっと覚えてる。
前から言えなかったんだけど、実は私にも17歳になる娘がいるの。ずっと離れて暮らしていたんだけど、3ヶ月前に会いに来てくれた。
離婚した時まだ6歳だった。
和菓子屋の跡取りと若くして結婚して、子育てとお店の仕事で余裕がなく、姑と小姑の嫌がらせに我慢が出来なくなり娘を置いて出てきてしまった。
私もずっと後悔してたもっと自分が我慢しておけばと。
でも、娘は会いにきてくれた。
私の愛情は伝わっていた嬉しかった。だから百合子も焦っちゃだめ。時を待つの、今は無理しないでやれる事やろう。
自分を取り戻すため元旦那を痛い目に合わせよう。復讐するなら全力で協力する」
「復讐する、協力して」
それから私達は准一を懲らしめる計画を練った。練っている間に生きる希望がでてきた。今まで考えた事もなかった、復讐という言葉がこんなに自分の中にストンと落とし込まれるなんて。
考えたら私はまだ39歳。人生が80年なら半分しか過ぎていない。やり直せる。止まっていた時計が動き出した。

その後涼子と一緒にイメージトレーニングをした。受け答えシュミレーションは専門家の力を借りた。そして私は強くて負けないリリーになった。
自身を取り戻し、自信をつけた時准一に連絡した。

「久しぶり元気だった?子供達は元気かな。話がある時間作って」

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