おとしどころ  2

            mosoyaro

 私とリンダと琴は3人仲良しだった。
琴は小柄で長い黒髪が印象的、目が大きく、色白で可愛らしく明るく、近くにいるだけでその場がパッと明るくなる女の子だった。
家が裕福で丘の上の大きな家のお嬢様なのに全然鼻にかけたところがないので仲良しになれた。
陸上部に入部した時、私達は琴の白い肌が日焼けする事を心配したほどだ。だけど本人は日焼けなんてへっちゃらだと笑っていた。日焼け止めは欠かさず塗りたくっていたけど。

大和は陸上部の長距離ランナーだった。黙々と走るその姿を私は図書室からよく見ていたものだ。

琴と大和は家が隣同士だった。
私は大和の事が好きだった。だけど、どんなに大和の事を想っても大和は琴の方しか関心がなかった。
それが高校の3年間でわかったから、私は大学に行ってからは2人から距離をとった。
資格をとるのに勉強していて心の余裕がないって、遊びの誘いも断っていたから、ちゃんと話すのは7年ぶりだった。

「とにかく、今からそっち行く、ちょうどリンダもいるから、2人でいくね」
電話を切って身支度をした。
「リンダは心当たりがないの?あんたは時々琴と会ってたでしょ」
「うん、だけど差し障りのない話しかしてないよ。だって大和がいたから、一緒に出かけたりしてないし。あんたと遊ぶ事が多かったじゃん。
大和にも言えないってどうしたんだろうね、心配」
話しながら走って琴の家の前に到着した。ベルを鳴らす。
大和が出てきた。

大和だ。相変わらずかっこいい。長身で細身、顔が少し大人になっていたが相変わらず目がきれい。
前に見た時は成人式の時だった。
他の友達もいたからあまり話が出来なくて悲しかった時の事を思い出した。
私は顔は平静を装っていたけど胸は高鳴った。
その一瞬をリンダは見逃さなかった。
私の顔をぎゅっとつねってきたので手を払いのけた。
大和に視線を向けて聞いた。
「どう、戻ってきた」
「いや、戻ってこない。電話も繋がらない」
「その辺にいるかもしれない、私たち2人で探してみる。服装はどんなだったか教えて」
「上下とも白いジャージで黒いスニーカー履いてる。荷物は携帯しか持ってない」
「じゃあ私達はあっちの方を探すね、大和は向こうを探して。1時間探して見つけられなかったら一旦ここに戻ってくるから、じゃ、リンダ行くよ」

2人で探し始めた。夜道は暗い、探しながら高校の友人達にも連絡する。電車沿いに明るめの場所や駅、ネットカフェ、コンビニなど探したけどみつからない。
1時間経った。大和からも連絡がない。
一回家に戻ろうと今来た道を引き返していた時、後ろから声がした。
振り向いたらそこには琴が立っていた。
「2人ともどうしたの」
「どうしたって、あんたを探してたんだよ。お母さんも大和も心配している。どこに行ってたの、何で電話に出ないの」
琴の肩を掴んで前後にゆすりながら私は怒っていた。
「顔が怖い」と琴が言った。
「真空、落ち着いて琴の話を聞こう。それより大和に連絡して、見つかった事。心配してるから」
「家には帰りたくない」
座り込んで泣き出した。仕方ない
「じゃあ今日はうちに泊まって。久しぶりに3人で。どう?」
大和とお母さんには無事だと連絡して今日はうちで預かりますと言った。

3人で私の家に戻った。

久しぶりに3人で飲んだ。初めは差し障りのない話をした。仕事の話、近所のおばさんの話や、最近できた通りの向こうのコンビニの店員の話など
他愛のない話。
昔に戻ったような楽しい時間だった。

ふと、それぞれの結婚観の話になった。
当然琴は大和と結婚すると思っていた私達は、琴から驚くべき内容の話を聞いた。
内容は大和とは結婚できない。とても好きだけど大和に申し訳ない事をしてしまって、その事でとても苦しんでいる。死にたいと言った。
「何があったの?死にたいなんて、私は看護師だよ、病気で苦しんでいる人を何人も見ている。でも諦めないで戦っているよ」
リンダが琴に怒る口調で話した。

それから琴は泣きながらゆっくり話を始めた。
その話を聞いて私もリンダも凍りついた。とても恐ろしい内容だった。

「高校の陸上部の先輩、山本岳っておぼえてる?」
「うん覚えてるよ、琴先輩の事好きだったよね。身長高くて、足が早くて優しいって言ってたの覚えてる。体育祭の時はヒーローで女子に人気あった」

リンダが答えた。そうなんだ、リンダの中では好印象だったんだ。
でも私はなんだか胡散臭い先輩にしか見えなかったけど。

「そう、先輩は人気者で皆んなの憧れだった。だから大学も同じ所に入って。大学ではより一層モテていて彼女が次々にかわっていた。
長続きしないの。理由は私にはわからなかった。
好きだったけど告白したり疎遠になるより妹みたいな距離感でそれでいいかと思っていて先輩には踏み込まなかった。
私にも教職をとって先生になるって夢あったから、勉強も忙しかったし、やっぱり大和がいたから。

社会人になって会うこともなかったんだけど、2か月前先輩から急に連絡があって。
先輩は外車の営業マンになっていて、
「外車買わないか」って言われたの。
久しぶりに会うのに車を買えって、最初はびっくりしたけど、自分で買った外車に乗ってみたいなと思っていたから、軽い気持ちで何回かショールームに行って説明聞いたりして。
最初は優しく説明してくれてたんだけど、そのうち、早く買え買え言い出して。
ノルマがあったからだと思うけど。
それで嫌になって、まだ買えないって電話切ったら、次の日もう一回だけショールームに来てくれって。しつこいからちゃんと断るつもりで仕事帰りにいったの。

その日は展示場にはお客さん誰もいなくて、先輩がお茶を出してくれて、話をしているうちに意識がなくなって、気がついたら裸で手足縛られて、写真撮られてた。
もう1人男がいてニヤニヤしながら私を見て身体を触ってきた。先輩は
「こんな手は使いたくなかったけどしょうがない。裸の写真ばら撒かれたりしたくなければ、一番高い車を買え。お前の家裕福だろ」
って
「ショックと怖さで死にたくなった。早くその場を離れたくて、一番高い車を買う手続きをして解放された。警察に通報しようと思ったけど、怖かった。何て言われるか。大和にも知られたくない。顔見知りにこんな事されて、誰も信じられなくなった」

誰にも話せなくて辛かったのだろう。話しながらずっと震えている。

#福岡好き
#私小説

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