ジャッカロープを探して 1
mosoyaro
休日の昼前私はカフェでコーヒーを飲んでいた。
待ち合わせの時間までまだ30分以上ある。
一人でゆっくりコーヒーを飲む時間が好きでわざわざ早く来ている。
場所は大名、お洒落なカフェやショップが立ち並ぶスポットで若い人に人気だ。近くには広くて綺麗な公園もある。
待ち合わせに選んだ店はメインの通りから一本中に入った細い路地沿いにある。
その店はタピオカブームの時には行列ができていた。
ブームが終わった今もパンケーキやドリンクメニューが人気だ。今日は日曜日という事もあって店には沢山の人がいた。
外のデッキ席に座れただけでも運がよかった。
天気の良い日には外の方が気持ちいい、5月の爽やかな風を感じる。
丸くて銀色のテーブル席、椅子は座り心地が良く長居しても苦じゃない。
ゆっくり腰を落ち着かせ、音楽を聴くフリをしてイヤホンをつけ、道ゆく人を観察するのが私の癖だった。
隣の席に20歳位の女の子が3人座った。
3人はあきらかに似た雰囲気をもっている。メイクが似ているからかな。
服装が似ているせいかな?
ボトムはパンツ、ロングフレアースカート、タイトスカートでバラバラだけど、ショート丈のライダージャケットは同じデザインの色違い。
靴はスニーカー。
そして頭には色違いのベレー帽をかぶっている。
3人ともベレー帽のデザインが同じでそのデザインがやけに印象に残った。
ウサギの体からツノが生えている。
ウサギの体からツノが生えている生き物なんていない。
どこのブランドだろうと気になった。
3人はケーキセットを注文して運ばれてくるのを待っている。
さっき見てきた映画の話で盛り上がっている。どうやらアニメを見てきたらしい。
戦いのシーンの音楽がやばくて感動したと興奮している。
聞くつもりはなかったが3人とも声が大きく会話が全部筒抜けだった。
同じ大学に通っているらしく、その後も授業の話や先生の話、ゼミの話で盛り上がっていた。
楽しそうだ、自分にもこんな時があったなと微笑ましく見てしまう。
そんなに歳が離れているわけではないのに懐かしいなんてと一人で苦笑い。
ケーキセットが運ばれてきた時、1人の子が泣き出した。
彼氏とはどうなのと言う質問の後だったと思う。
突然の涙に二人が慌てて訳を聞いている。
その子は華と呼ばれていた。
ハンカチで涙を拭きながら話し始めたので私もイヤホン越しに聞き耳をたてた。
「昨日の夜、急に哲哉に会いたくなって部屋に行ったの、脅かそうと思って。
合鍵を使って中に入ったら玄関に女物の靴があった。
えっと思って奥に行こうとした時
彼が上半身裸で出てきて、私の顔を何も言わずにいきなり平手打ちしたの」
右手で自分の頬を押さえた。
「嘘でしょ」
「ちょっと待って、えー何で華がたたかれるの?
最悪、彼女を叩くなんて最低」
「そうだよね、今までも色々あったけど叩かれたのは初めてで、一瞬ボーゼンとしたけど、気を取り直して
「何で叩くの 女がいるんでしょそっちに。出てきなさいよ」
って言いながら踏み込もうとした時、哲哉が立ち塞がって
「連絡もしないでいきなり来るお前が悪い。誰もいない、いてもお前から言われる筋合いはない、ここは俺の部屋だ」
って。
もう頭がパニックになって部屋を飛び出して、そのまま外で泣いていたら哲哉が出てきた。そして
「合鍵を返せ、急に来るお前のことは信用ならない」
って
「それでどうしたの」
「頭に来て鍵を投げつけてそのまま帰った。悲しくて自分が情けない」
何も関係ない私も頭に来た。最低な男だ。
その話には続きがあった。
「次の日、哲哉から連絡がきたけど、「あんたとはもう終わったでしょもう電話してこないで」
っていったら
「昨日は急にお前が来たから俺も動揺したんだ。
別れるなんて言ってないし、思ってない。
だけど叩いたことは謝る、機嫌をなおしてくれないか」
って言ってきた。
そして、一緒に旅行に行こうって、何日に予約したから行くぞって言うの
頭おかしいんじゃない。行かないに決まってる。って言ったら
「華 お前俺と別れられるのかって
俺のこと好きなお前は俺から離れられないだろだって」
話しながらまた泣き出した。
「はあ?何言ってんの華、いい今度こそはっきりさせよう。
別れた方が良いって、今度で何回目?
目を覚まして。そんな最低な男。
毎回そうやって流されて、別れるって決めてもいつの間にかまたより戻して。
それに、旅行って言ってるけど、お金は華が出すんでしょ。
私知ってるんだからね。デートの時も旅行の時も全部華がお金出してるでしょ。仕送りのお金やアルバイトのお金を工面して」
「知ってたの」
「知ってるよ、じゃないとあんなバイトするわけないよね。
パパ活。
仕送りのお金だけじゃ足りないから割のいいバイト見つけたって言ってだけど、それってパパ活も入ってるよね。
萌音が教えてくれた。華が年配のおじさんと会ってお金もらってるって。
いい加減にして、このままじゃ華の人生ダメになる。
あいつと付き合う前はそんなじゃなかった。
可愛くて頭が良くてお洒落で、ちゃんと先の事考えて行動する人だった。
英語勉強してアメリカに行ってジャッカロープを見つけて幸せな人生を歩いて行くって言ってたのに。
どうしちゃったのかな。
もうこれ以上黙ってないからね
今度こそちゃんと別れよう。いまならまだ引き返せる、協力するから。
別れないんならおじさんとおばさんにこの事話す」
コーヒーはもう冷めてしまっている
3人はずっと話しながら泣いている。
10分位前からは想像もつかないドロドロとした話。
隣で聞いていた私も泣きそうになった。
そうだ別れた方が良いよ、そんな男とは。
腐れ縁なんて自分が思っているほど、強い絆じゃないって。
自分を大切にして。一言言ってあげたい。
でも私はそんな事言えるような立場ではなかった。
つづく
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?