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日本共産党の中でこれ以上続いてはいけないこと(下)

初出:仕事するマニアの日常 2023年11月5日

 共産党でなぜこんな問題が起こっているのだろう。そして何が要因となっているのだろう。

 私は共産党員の世代交代ができていないことから見えてくる、党員の任務の多さ、運動の古さ・アップデートのなさがあるのではと思う。

共産党員の高齢化と党員数の急激な減少

 日本共産党員は高齢者が多い。というのも最大のボリュームゾーンがいわゆる「団塊の世代」だから。「2025年問題」で知られるようにその世代はもう間もなく全員「後期高齢者」となる。それ以前の70年代の躍進を支えた世代は既に鬼籍に入られたか活動することが困難な人も多い。
 それらでは、新しい党員がやってくるのを手ぐすね引いて待っている場所も多くある。
 しんぶん赤旗の配布をお願いしたい、ビラ巻きの担当をしてほしい、選挙での電話がけをしてほしい。
 新しい人が来ることで、現状を打開したい。その具体的な内容については、よくわからないけれど。
 こんなところではないか。

 これらを見て、新たに共産党に入って活躍したいという人がいるだろうか。いるとは思う。しかし後期高齢を迎える党員らの活動を補填できるほどの数には決してならない。

 そして高齢者ばかりになった組織の世代間ギャップは、組織の拡大には大いに障害になる。それはどこでも同じではあるが。

 世代が違うので、そもそも現在の勤労現役世代との意識が違う。雇用や賃金への認識。いわゆる「団塊世代」は倍々で給与が増えた時代を体験している。しかしそれは遠い昔。30年間賃金が上がらないとはそういうことなのだ。
 仕事への意識やその強化集中度も世代ごとに大きな差が出ている。現在の社会状況はここ十数年で第2次、3次「産業革命」などと言われるほど違う。10年前の常識すら通じないこともあるのだ。
 これらの様々を、仕事を離れて10数年の人たちに認識できるだろうか。共産党員の、会議参加や各種の活動、特に共産党は現在新規党員の獲得と機関紙の拡大を最優先課題として何と3割も増やすことを目標にしている。機関紙の拡大は基本戸別訪問だ。そして選挙活動で必ず発生する「支持拡大」と称する「テレアポ」、「ハンドマイク宣伝」と称する突然の街頭宣伝。これらは1970年代からスタイルがほぼ変わっていないのだ。
 これらすっかり古臭くなってしまった行動様式に、新しく共産党に入った人々は、素直に応えられるだろうか。そして党費だ募金だと金がかかることに耐えられるのか…。

共産党の活動にはそれなりの金がかかる

 意義は理解できるが活動がなんかちょっと違うなあと思いつつ、しかも事前に聞いていた党費はともかく、○○議員支援募金、○○委員会維持募金、○○事務所募金、春、夏、冬に加えて一時金募金…。
 加えて機関紙の購読。赤旗は日刊紙と日曜版。購読しなくてもいいんだけれど、活動内容の最重要な任務は機関紙の拡大だ。拡大する側が「読んでいません」なんて言えないだろう。すると日刊・日曜版で4500円/月。このほかにちょいちょい増刊やパンフレットの金がかかる。
 そして傘下団体への加入が要請される。そこは一つ一つの会費は月数百円とかだけれど、その団体が数十もある。全部に入らないにせよその会費も馬鹿にならない。

 これら合計すると、一か月あたり下手すると万単位の金がかかる。年間だと10万円以上。年額10万円の収入増が、どれほど困難な道のりかを現役世代は知っている。そんな意識を高齢共産党員たちは、共有できるのだろうか。
 党へある意味身も心も捧げなくてはならない、そんな政党に若い人たちは入るのだろうか。

 今時は月額数百円のサブスクへの加入を躊躇する時代。岸田現政権が生活援助策として4万とか8万とかを配布する、それへの批判として「月額数千円では何の足しにもならないよ」との意見がある。子育て世代への支援として東京都がようやく来年から始める制度も月5000円。我々はそうして暮らしている。

 若い人たちはどう思うかな。必ず払う必要はない、免除制度もあると党は言う。だけれどね。真面目な人ほどそれらの制度を利用すると後ろめたいだろう。ましてや給与所得のある「現役世代」なら、年金生活者の期待の目を気にすることもあろうに。

 であれば共産党は何を考えるべきか…は共産党の幹部諸君に任せよう。私は問題提起するだけだ。


大本営体質、というか共産党は昔ながらの、極めて日本的な組織

 共産党を批判する人はその「無謬体質」を指摘する。これは特に党中央が持つ「過ちを認めない姿勢」に表れている。過ちをそれとして認めないから、様々な理由をつける。もちろんそれらの理由は組織内では一定の理屈は立つだろうが、党外ではそうはいかない。

 これを「続・希望の共産党」で醍醐聡氏が「大本営体質」と評していた。
 つまり共産党は誤りを認めず、現実を自らに都合よく変えて自分が正しかったことを喧伝するが、それは各地で敗北する軍に対し「転進」「玉砕」と宣伝したかつての大日本帝国と同じである。これが彼が指摘する「大本営体質」というものだ。

続・希望の共産党 再生を願って

 大本営体質というか、私は共産党というのは、いかにもな日本的組織と思う。

 共産党、というか共産党の中央委員会はかつて「客観的情勢は熟しているが主体的力量が足りない」としていた。これは「党中央は正しく情勢を認識し正しい方針を出しているのに下部組織に問題がある」ということだ。
 さすがにこれでは党組織が弱ると思ったからか、最近では例えば敗北した選挙で「わが党が論戦をリードした」とか「(比較対象にならない選挙を並列して)〇〇選挙と比較してこれだけ前進した」などとやる。
 これらはおよそ科学的視点からは遠い内容も多いのが特徴だ。

共産党の候補者にもなっていた大野たかし氏のnote
*現在は離党している。

 そして最後には「やり切れば勝てる」という精神論に逃げ込む。精神論は組織のトップが最もとってはいけない戦術だ。

 これによく似た組織がある。五ノ井さんらが告発したハラスメント問題で、対応が右往左往している「自衛隊」だ。計画して予算もついたからと止められなくなっている各種の事業。そして予算を大幅に超過し破綻間近の「大阪万博」や、問題噴出の「マイナンバーカード」に象徴される大型公共事業。これらすべて言を左右に誤りを認めずにいる。
 会社組織にもそのような傾向があるところも多かろう。そしてそれはオリンパスなどのように時折組織外に問題が立ち現れる。そこに私は昔からの日本の組織風土を見る。「神風特攻」と同じ臭いを感じる。

「日本的」な組織だからハラスメントも起こりうる

 実は現在の共産党もこれと構造がよく似ている。つまりは旧来の自民党政府をもっとも批判しているはずの日本共産党は、実に「日本的」な組織なのだ。その行動様式を非常によく「保存」している。
 その要因も党員が高齢化し組織的新陳代謝が行われなくなっているために発生している。そうは考えられないだろうか。組織の行動様式とは、その組織構造と密着しているものだ。

 そのような組織風土では、セクハラやパワハラといった問題も放置されがちだ。なぜならかつてそれらは問題にならなかったから。
 ましてや共産党という組織の中では、問題を外に持ち出さないという風潮がある。それは正に今回松竹氏、鈴木氏が除名されたことに典型的に表れている。ハラスメントが起こる組織は例外なく組織内での浄化作用がない。しかし問題を組織外に持ち出せないということは、被害者に「黙れ」と言っているに等しいのだ。

 この間噴出している各種の問題は、旧来の共産党員が持つ保守性や暴力性が、新規に入ってきた、特に若い共産党員へのハラスメントとして現れる事案が多いように私は感じる。これらは今始まったものではなくかつては問題として見えにくかったが、SNS全盛の時代となり拡散されやすくなった。かつ声を上げる被害者が多くなってもいることが影響しているのだろう。
 党員の老齢化と保守化がそれに拍車をかけていると考えるのは、私の邪推には止まらないだろう。

 加えていうならば、旧日本軍はダメージコントロールがものすごく下手だった。撤退戦もダメだった。共産党の「除名問題」に関わる党中央の対応と支持者らのTwitterでの発言は、それを思い起こさせるに十分なひどさだった。そこにも私は共産党と大日本帝国との共通性を見るのである。

 そして共産党員の高齢化と軌を一にして発生しているのが共産党系組織の「保守化」である。

共産党員の「保守化」と「共産党エコシステム」


 共産党は党員数十万を抱え、代々木に立派な党本部ビルを持つ巨大組織だ。それだけではなく周辺の「民主団体」-民医連、民商、土建など-を多く抱えている。民主団体はそのまま共産党組織と同一視はできない(構成員は非党員が圧倒的に多い)が、共産党人脈の中でそこに職を得ている人も数多くいることは事実だ。

共産党の専従職員
 かつて50万人に近い党員を抱え、中央委員会はもちろん、すべての都道府県に現在も都道府県委員会があり、そのもとに地区委員会がある。そこには専従職員がいて、党から給与も得ている。その給与は遅れたり足りなかったりが常態化しているらしいが、それでもその組織で働いていることで、生活の糧としている党員が多くいる。

共産党「傘下」の企業群
 加えてそこに、多くの企業がある。新日本出版や大月書店、かもがわ出版など。そして種々の印刷を請け負う光陽印刷などの企業群。そしてさらにそのすそ野に、民主団体で働く多くの人々がいる。それぞれ温度差があるけれど、共産党員であることとその職で働くことを同一視している人々も多くいる。
 そこには多くの二世三世党員がいる。党員でなくともその子どもたちが職員として働いている事例も多い。

 与党である自民党は70年の歴史を持つ。この政党が多くの二世どころか三世四世議員を多く輩出し、それが首相やその経験者であることすら当たりまえになってしまった。
 一方共産党は100年を超える歴史ある政党となった。権力機構を牛耳っていない共産党では政治家二世は少ないけれども、共産党が築き上げたエコシステムでは党員の子どもが多く働いているのが現状だ。そして地方議員には二世も多くいる。

 これは実はすごいことなのだ。共産党が日本社会で根を張るにあたって、自立したエコシステムを構築できているというのは、実は世界の革命組織ではなかなかないことでもある。

 しかしだ。すると当然予想できることだが、「大企業病」「官僚主義」のようなものがそれらの組織にも存在する。懸命に情熱的に何かしなくとも、適当に働いていればそれでいい、上が言うことに付き従っていればそれでよい、という思考停止した人々が生まれる。
 それらの組織は激しい競争に巻き込まれることもないまま、内部で完結しているところもある。競争的企業環境はおろか、思想的な部分においてすら、論争や葛藤のないまま過ごしている共産党員など山ほどいる。

 そこに何が生まれるか。自分では何も考えない、検証すらしない、党中央の覚えめでたくその「文書」を拡散するだけの人々。批判されても何も答えられない答えない。

 この間のTwitterにはそんな人がわんさか現れた。そして共産党を守ろうとしているのだろうが、全くの逆効果になっている。
 現実社会での共産党員は、どうだろうか。

歴史ある政党は常にアップデートを繰り返さなければならない

 党内でのハラスメントに悩まされ、加害者が離党した後も周りの党員らにハラスメントを受け続け、共産党中央に意見しても被害の回復が未だになされない富田林市の元議員である田平さんはTwitterでこう語っている。

「ハラスメントの本質は人権意識の欠如です。ハラスメントは「認識の有無」「悪意の有無」に関わらずハラスメントです。今日、企業の管理職の方々とハラスメント防止策,解決策をお話していて、政党はじめ政治の世界が一番、こうした認識において遅れをとっていると感じたところです」

田平まゆみ氏Twitterより

 残念ながら日本共産党は、自らを善人と規定するあまり、もっともハラスメントに対する認識が遅れた政党になってしまっているようである。過ちを認めない組織は反省もしないものだ。
 これがハラスメントだけにとどまらないとすれば…。他にも多くの問題を抱えていると考えるのが妥当だろう。

 日本共産党は100年続いた政党であり、日本の政界になくてはならない成果をもたらした政党である。これは間違いのない点だ。
 だからこそ、これ以上続いてはいけないことをあぶりださないといけない。共産党は直ちにそれらを認識し、党の改革・改善を進めなければならないだろう。

さて。

「老舗」であるために必要なもの

 「老舗」と呼ばれる店がある。例えば築地の聖路加国際病院近くに本店のある「塩瀬総本家」は室町時代からの歴史ある和菓子店だが、新しい和菓子もキャラクター製品も作っている。本当の老舗は、時代に合わせてアップデートを繰り返し、そうして生き残っているのだ。
 同じく現存する日本最古の老舗政党、日本共産党もそうしなければならないのではないか。政策のアップデートはきちんとできていると私は思う。しかしそれにとどまらず、組織や活動のアップデートも必要だろう。

 そうしなければ次の100年はおろか、10年とたたずに党は崩壊してしまうだろう。今こそそこに目を向けるべきだ。

 苦言を呈する仲間を除名などしている場合では、ない。

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