安価&コンパクトに作る自作塗装ブース考察2: ファン性能を精査する
3Dプリンタを使ってると出てくるニーズのひとつが「プリント品を塗装してみたい」だと思います。もちろんそういう人は元々プラモデル制作に精通してて、すでに塗装用の機材を色々お持ちかと思いますが、塗装環境を持たない(私みたいな)人向けに考察した内容をまとめます。
今回は「塗装ブース」編Part2としてファンの選定に必要な情報をまとめます。「塗装ブース」編のゴールは「コンパクトでしっかりした換気ができる塗装ブースを安価に自作する」です。
とりあえず何買えばいいか知りたい!というかたは前回記事をご覧ください。
ファンを選ぶための要素
塗装ブースを自作しようと思うと、最も悩むのが「ファンはどうやって選べばいいのか?」という問題です。選定の基準としては大きく分けて次の3つじゃないでしょうか。
ファンの排気性能
ファンの騒音
ファンのサイズ
騒音、サイズについてはdBA(デシベル)やcmなど比較的身近な単位で性能指標が示されているので、自分で基準を決めやすいですね。一方、ファンの排気性能は知識がないと理解し辛く感じます。まずはここから考察してみましょう。
ファンの性能は最大風量・最大静圧で示されることが多い
ここからは流体力学なぞ一度も習ったことない素人がひたすら調べて得た知識を纏めたものです。間違いは是非コメントでご指摘ください。
まず、比較的スペックがしっかり示されてそうなOwltech(三洋電機製)のファン SF12-S5のスペックを見てみましょう。
商品仕様欄には様々なデータが載っていますが、直接的にファンの送風性能を示しているのは「最大風量」と「最大静圧」のデータです。最大風量・最大静圧の意味は三洋電機のウェブサイトにわかりやすい説明があります。
実際の風量・静圧はどうなるのか?
最大風量・最大静圧に同時になることはないなら、実際はどうなるの?となるわけですが、こちらも同ページにあるように風量-静圧特性のグラフからわかります。SF12-S5(のファンと同等品っぽい9S1212M401)の特性を調べると実際はこんなグラフです。図中赤矢印で示すように、ファンに12Vの電圧をかけ、$${10\, \mathrm{Pa}}$$の静圧の状況で使うと約$${1.1\, \mathrm{m^3/min}}$$の風量が得られる事がわかります。
塗装ブースに付けたファンで考えると、静圧が大きい状況というのは、塗装ブースに長いダクトやフィルタを付けるなど、風の流れを妨げるような構造になってる状況です。例えばとても長いダクトを付けてしまって静圧が20Pa必要な状況になると、風量は$${10\, \mathrm{Pa}}$$時の約20%($${0.2\, \mathrm{m^3/min}}$$)まで落ちてしまう事もわかります。
SF12-S5の例ではたまたま風量-静圧特性がわかりましたが、多くのケースファンでは調べても出てこず、最大風量や最大静圧のみ記載されてます。そこで、やや乱暴ですが「風量-静圧特性は最大風量と最大静圧を結ぶ直線になる」と仮定しちゃいましょう。先程のSF12-S5の風量-静圧特性でも大体直線になってるのでそれほど的外れにはならないはずです。
このように考えると、風量-静圧特性の直線は次式で表せます:
$$
実際の静圧 = 最大静圧 - \frac{実際の風量}{最大風量} × 最大静圧
$$
このあとの計算の都合で実際の風量をもとに整理したほうが考えやすいので式を変形すると次式になります:
$$
実際の風量 = 最大風量 × (1 - \frac{実際の静圧}{最大静圧})
$$
こうやって見ると、最大静圧に対して実際の静圧が何%くらいか分かれば、その分最大風量から引いて考えればいいということがわかりますね。例えば最大風量$${100\, \mathrm{m^3 / h}}$$, 最大静圧$${20 \, \mathrm{Pa}}$$のファンで実際の静圧が$${5 \, \mathrm{Pa}}$$になりそうなとき、$${5/20 = 0.25 (=25\%) }$$なので、最大風量から25%減の$${75\, \mathrm{m^3/h}}$$になります。
塗装ブースのサイズから必要なファン性能を見積もる
今回は小型なもの、ということで幅30x高さ20x奥行20cm程度のもので試算してみました。
ケースファンは12cmのものがメジャーなので、「換気装置吸入口サイズ」は120mmとし、それに合わせて排気ダクトを125mmに設定しています。結果は「静圧$${13.99\, \mathrm{Pa}}$$時に風量$${87\, \mathrm{m^3/h}}$$」くらいが必要です。
自分で好きなサイズ決めてもらっていいですが、あまり大きくすると、その分排気能力も高いファンが必要になるので、程々にしましょう。前記事で紹介したファンだと幅40x高さ30x奥行40cmくらいが限界です。
前述の通り、風量-静圧特性をざっくり直線で近似したとして、必要な必要な静圧が仮定どおり$${14\, \mathrm{Pa}}$$だとすると:
$$
\begin{array}{} 実際の風量 &=& 最大風量 × (1 - \frac{実際の静圧}{最大静圧}) \\\ &=& 最大風量 × (1 - \frac{14\, \mathrm{Pa}}{最大静圧})\end{array}
$$
のようになり、実際の風量 ≧ 87m^3/h であってほしいので:
$$
最大風量 × (1 - \frac{14\, \mathrm{Pa}}{最大静圧}) ≧ 87\, \mathrm{m^3/h}
$$
という関係が求められます。この式に検討候補のファンの最大風量・最大静圧を代入して成り立つなら、ファンは所望の性能を満たしそうだと考えられます。違うサイズの塗装ブースを検討する場合や、より性能に余裕を見たい場合などでも、この考え方を使えば的外れなファンを買ってしまうことは減るんじゃないでしょうか。
ファン性能を表す単位を換算する
ここまでで殆ど書きたいことは書いてしまったんですが、実際にファン選定をしようとすると静圧・風量の単位がバラバラすぎて困るという自体に直面しました。記事の締めとして、とりあえず見かけた単位については備忘録的に換算表を作っておきます。
風量の単位換算
1 CFM = 1.7 m^3/h
1 m^3/min = 60 m^3/h
静圧の単位換算
1 inch H2O = 248.84 Pa
1 mm H2O = 9.8 Pa
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