ネオンの影の復讐劇


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『俺です。今から向かいます…いつものホテルですよね?』


事務所の時計は25時を回っていた。自分の受け持つ店の営業時間が過ぎ、各店舗の閉店作業が終わった事を電話で確認してから、俺はようやく自分の仕事に取りかかる。

ホストクラブ・シャティー

今、つい先ほどの話だが…ここの店の店長を決める話が終わり、1人の男がこの会社から去った。


俺は会社の為にどんな仕事も先頭に立ってやってきた。汚れることも傷つく事も厭わないで。


ススキノに出て早15年。


長いこと、この世界で働いてきた。出世もしたし、稼いだ額も大きいだろう。俺は自分の感情は表に出さないように意識してやってきた。そこはプロとしての矜持、曲げることは少しも無い、今までの人生でただ1度だけを除いて…。



ススキノでホストを始めて、今の会社に入った。オーナーは俺を可愛がってくれた。色んな人脈を紹介された、ヤクザもんから、風俗店の社長、酒屋の社長、おしぼり屋…


オーナーはパーティーだったり会合だったりを好まなかった。俺も好きではない。でも、仕方なく替わりに出席した。そして、人脈は更に深く強くなった。


まぁ…こういう世界だ。悪い連中の誘い、頼み、なんてモノも沢山あった。あそこの店の女をツブせ、この薬を捌け、借金の回収手伝え


個人的に協力した。そして会社の方もよろしくお願いしつつ、俺は力をつけていった。ドブ攫いを徹底してやったんだよ。コレがまずは会社の土台になった。



そしてホストとしてやったこと、俺がシャティー時代に決めたルールがある。それはグループ各店にも徹底された鉄の掟…

・枕は禁止

・薬は御法度

この2つ、コレを守らなければ破門、そして会社の為、お前たち自らの為に、お前たちはお客様を満足させろ!

そう、俺は会社の顔として、下の人間たちを徹底的に鍛え、育て、そしてこの一大グループを築いていった…。


そうして、オーナーから認められてホストクラブ・シャティーの店長になり、シャティーの業績が認められ、統括部長という肩書も付いた。



その途中、俺は両親を失っている。地元に残してきた最愛の両親。自分が唯一、弱音を吐ける場所。それを失った俺は絶望していた。

2人とも、自殺だった。小さな店を経営していた両親は、とある取引先の会社の倒産の煽りを受けてクビを吊った。遺書にはこう残されていた。



《私たちは殺された。あの会社に、あの女に騙された…憎い。》


そこに、何があったのかは分からない。ただ、取引きの際に騙されたのかもしれない。

その女を許すほど俺も人間出来てはいなかった。地元の後輩を使い、個人情報を調べ上げさせ、いつ復讐してやろうか、というところまで計画していた折…






さて、約束の時間も近づいてきた。

楽しくも何ともない大人の時間。自分の懐に金が入る、ただそれだけの為の時間。あのババアと初めて会って、10年近くなるのか…。



ホテルに着くなり、ババアは身体を求めてくる。


『松丘さん、シャワーくらい浴びさせてくださいよ…』

『早くしなさいよ?随分待ったわ…』

『それは失礼しました。ただ、今日であの男との決着、着きましたから…。』

『流ちゃん?殺しちゃったの?』

『いえ、死んでないハズですよ…美姫にも連絡付けました。コレで美姫の借金、完済ということで…良いんですよね?』

『あの女の借金、会社の金で遊んだ分を肩替わりする代りに、流ちゃんを地獄に落とす、って言ったのはナオちゃんでしょ?その辺は任せるわ…』

『松丘さん、2人の時だからって本名呼ばんでくださいよ…』

『アラ、ごめんね聖哉』


美姫が会社の金をピンハネした事を怒り狂った専務が、風俗に落とす、って話を聞いてから長い時間が経っているが…まさか、ヤツまで会社の金絡みで地獄を見ることになるとは、因果なモンだ。

カジノ絡みでヤクザに殺させるか、店の客との枕問題で借金背負わせるか、この2択に使おうと美姫を雇ったものの、そんな事もせずに自分で堕ちていくとは…人間何がどう転ぶか分かったもんじゃない。



ババアとの時間は長く、不快だった…。


『今度、ナオを指名しに店に行っても…?』

『それじゃあ枕になっちまいますから、それは勘弁してくださいよ…』

『枕にならない、と思ってるのかしら?こんなに私にワガママ放題言って、何から何までお願いしてるホストさんが…?

それと思い出したわよ?…あなた、初めて流ちゃんに会って売掛け云々の時、自己紹介もしてないのに、私の名前呼んだでしょ?アレ、バレるかと思ってドキドキしたんだから…。』


古い話を持ち出しやがる、ババアはこれだから嫌だ。

『それじゃあ言わせてもらいますよ、松丘さん…。

あなたから仕入れた、美姫に使わせたヤク、アレ効き過ぎだったみたいですよ…あれだけ酒強い流輝が即効潰れたらしいですから。最初のシナリオなら、アレで美姫に妊娠させて、松丘実業さんと揉める、って手筈が、あんだけ強いヤクだったから…』


『ナオちゃん、もうお終い。薬が強かったのは仕方ないでしょ?北雄會から仕入れたモノだもの、正規品なのよきっと。』



まぁ…確かにお終いだ。

ベットから出て、着替える俺。

アイツはこの先、俺の前には出てこない。なんなら、俺に感謝してるくらいかもしれない…。


ヤツは何も知らずに、ヤクザに囲われて。俺はコレからも、ススキノの闇とネオンの中で天下を取る。




久しぶりに自分の感情だけで仕事しちまった…。

久しぶりに長めの休みでも貰って…親父とお袋の墓参りでも行くか、結果報告だ…。


朝がやってくる。


ようやく終わらせる事が出来たよ…


俺たち親子の復讐劇も、朝のススキノのネオンのように…

静かに…静かに…。

消えてくれるよな…。






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