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やってみたいことを全部やる~中村慎森めざして坂道母になったとしても~

 タイトルだけ見ると、ずいぶん気合が入った発言のように受け取られるかもしれない。実際のところは、そんな前向きな意識で宣言しているわけではない。先が見えてきたため、切羽詰まって崖っぷちからダイブするしかなくなった、というのが正直な感覚だ。何の話かというと、髪型の話である。

 私は、ヘアスタイルに関しては、長いことかなり保守的な方だったと思う。高校生から大人になるまで、だいたいがセミロングのストレートボブ、長さが多少変われどもスタイルはずっと同じで、前髪も眉が隠れる程度をキープしていた。それが自分には一番似合うと思っていたし、逆にそれ以外は似合わないと思っていたのだ。時々、色で遊ぶことはあっても、大きく変わることは少なかった。

 ところが、ここ一年ほどの私は、金髪で、後頭部は見事に刈り上がり、頭頂部は大泉洋のごとく、くりんくりんしている。たいていは若いころに卒業するような、やんちゃな髪の遊び方だ。

 長年のセミロングヘアをショートにしたきっかけは、夏の暑さに耐えられなくなってきたのと、海に行くのに長い髪が邪魔だったからだった。けれど、手入れが楽だと思っていたショートカットヘアには、思わぬ誤算があった。ロングの時よりも髪の成長が目立つため、カットの回数が増えるのだ。節約のためにと、低価格帯の美容室に通うようになると、自分の未来が見えるようになり、髪型の変化に拍車がかかった。

 「未来が見える? そんな馬鹿な」と思われた方もいるだろう。別に不思議な力を手に入れたわけではない。価格の抑えられた美容室には、現役を退いて、収入が年金だけになったお姉さま方が、たくさん来られるのだ。その姿は、未来の私に他ならない。聞く気が無くても、隣の席に座った未来の私が美容師さんと交わす会話が、耳に入ってくる。

オーダー例①
「とにかく、てっぺんにボリュームを出してもらえへん? もう、髪が薄なってしまって、ほっとくとすぐにぺっちゃんこになるのよ」

オーダー例②
「あんまり黒くせんといて。白髪が目立つから」

オーダー例③
「そんなに来られへんと思うから、パーマはきつめにあてといてな」

 どうして、ご高齢女性には、似たような髪型の人が多いのかとずっと疑問だったのだが、なるほど、こうしてオーダー①②③をトリプルコンボで決めれば、小野田坂道の母ちゃんみたいなお姉さまが量産できるのか。

小野田坂道の母 ©「弱虫ペダル」

 彼女らは数年後の私だ。もう数年経つと、この多すぎて困る太くて硬い髪も、どんどんやせ細って、髪で遊ぶなんてことができなくなるのだろう。そして、私も小野田坂道の母一直線……。そう思ったら「いつかやってみたい」の「いつか」って、いつ来るんだろう、とドキッとした。そういえば、大学一年の夏、痩せたら着ようと思って買ったビキニも、一度も着ないままどこかに行ってしまったし。

 「いつか」は、こない。「いつか」は、自分で「ここ」と決めて旗を立てない限り、ずっとあやふやな未来に揺れる蜃気楼のような存在だ。思い立ったときにやるしかないのだ。

 そんなわけで、今週、私は「大豆田とわ子と三人の元夫」の中村慎森を目指して、美容室に出向いた。

中村慎森 ©「大豆田とわ子と三人の元夫」

 いつ見てもかわいい慎森。髪型が慎森になったら、眼鏡も合わせて変えようと思っていたのだが、仕上がりはどう見ても坂道の母ちゃんの方が近かった。眼鏡、いらない。

 私と岡田将生は違う人間だ。性別も違うし。全く同じにはならないのは当然だ。だから、別にいいのだ。トライしてみなければ、こんなにかけ離れていたことすらわからなかったんだから。良い勉強をさせてもらった。

髪が伸びたら、今度は、デビュー当時の原田真二を目指してみようと思う。

**連続投稿429日目***

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