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「会って、話すこと。」あるいは「30秒が超一流で10割」について

田中泰延(たなか・ひろのぶ)さんの待ちに待った新著「会って、話すこと。」が発売されました。

一冊目のご著書「読みたいことを、書けばいい。」と同じく、ダイヤモンド社のaiko命の編集者・今野良介さんとのタッグによるものです。

並べてみると、後世「田中の赤本」「田中の青本」と呼ばれることを意識して作ったような見事なコントラストです。

桑名正博風に言うなら
「情熱の朱 哀愁の青 今混ぜながら 夢の世界へ」
といったところでしょうか。二冊ともボケと真理が混ざり合ってめくるめく夢の世界へ連れて行ってくれる本です。

今回は、田中の赤本「会って、話すこと。」について未読の人にその魅力をお伝えできればと思います。

1.どんな本なのか

これは、一言で言うと、田中泰延さんによって書かれた「毎日をご機嫌に生きるための経典」です。

不機嫌は諸悪の元。すぐに使える不機嫌根絶のための教えが満載。なので当然、ゲラゲラ笑っているうちに気分よく読み終えることができます。何かを迫られたり、突きつけられたり、お前はそれでいいのか?と問われたりしていないのに、でも読み終わると自分の中の何かが変わっているという、なんだかお得な本でもあります。

「ゲラゲラ笑っているうちに」と書きましたが、本編265ページのうち、本当に声を出して笑ってしまったところにピンクの付箋を貼ってカウントしてみたところ、23枚、つまり11ページに一回は「くすっ」でも「にやっ」でもなく「わはは」と笑っていました。

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「え? じゃあ、この緑は? 緑の付箋は何の意味があるの?」と思われたあなた。さすがの観察力ですね。その質問を待っていました。緑は「すっごいなぁ」と感嘆の声が漏れた個所です。カウントしたら35枚ありました。7ページに一回。笑いよりも感嘆の方がやや多めとなっております。何しろ「経典」ですから。

さて、その経典の内容ですが、しょっぱなから飛ばしっぷりがすごいのです。会話術の本を書くことになり、本屋に出かけたひろのぶさん、書店の棚に並ぶベストセラーの会話本を40冊ほど買って帰ります。片端から読破したところ、書いてあることが一様に似通っていたのだそうです。曰く、「聞き方が大事」「話を聞いてることを大げさなリアクションで相手に伝える」「知りたくなくても興味があるふりしてとにかく質問する」などなど。

私は考えた。他人の話を聞くということは、ここまで注意されて訓練を積まなければできないことなのだ。これは、「結局、人間は他人の話を聞きたくない」ということではないか。(本書p.51より抜粋)

私はこの部分を読んで思い出しました。30年たった今でも鮮明に記憶に残る海原雄山の衝撃の一言を。

「生野菜を食べるのに、これだけ多種多様のドレッシングを必要とするのは、人間が生野菜を、本質的に好きではない証拠だと」(美味しんぼ34巻より)

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海原雄山はここで、「サラダ対決」における発想の転換を行います。生野菜をおいしく食べられるように味付けを工夫する努力をやめ、「そのままでもおいしい野菜を、新鮮な状態で提供すればいいんじゃん。よーし」と盆栽のようなトマトを持ちだしてきて、「さあ、もいで食え」と言うのです。

ひろのぶさんの「会って、話すこと。」も、会話術というカテゴリーの本でありながら、「傾聴が大事」という世間の思い込みをぶち壊すところから話がスタートするのです。痛快!!

2.もっとくわしく

「もっとくわしく」と書いてはみたのですが、本の内容を要約しちゃったらこれから読む人にとっては面白さが半減してしまいますし、かといって全部書き写したら法に触れそうですし、どうしましょうかと悩んで、私の距離感の話をしようと思いつきました。

ひろのぶさんは、言います。「おかしい人のおかしさは『距離の取り方』のおかしさ」である、と。さして仲良くもないのに、いきなり距離を詰めてくる失礼に気づけないところが、おかしいのだとおっしゃるのです。

本書の199ページから、今野さんとひろのぶさんの「距離感を間違えた失敗談」が語られています。人は失敗して学ぶ。お二方にも、苦い失敗の経験があり、そのおかげで今のお二人になられたのです。私も失敗して学んだつもりなので、痛いお話ですが聞いてください。

あれは25歳の春、初めて東京浅草に遊びにいった時のことでした。雷門、花やしき、神谷バー。一通り堪能して、最後は浅草演芸ホールにと足をむけたとき、目の前をまっピンクなお二人が走っていたのです。そう、林家ぺー・パー子師匠ご夫妻です。出番に間に合わないのか、爆走されていました。

「爆走」と言っても当時すでに壮年期のお二人、20代の私が本気で走れば追いつけるくらいのスピードです。私は反射的に走り出していました。それまで芸能人なんて見たことがなかったのです。

「芸能人! 握手! サイン! 写真!」
とたんに頭が湧きました。

急いでいるのは見ればわかるのに、走りながら
「あのー、サインをいただけないでしょうか?」
とバカ丸出しで声をかけてしまったのです。

ペー師匠は、ゼイゼイしながら、でも精いっぱいの無表情で
「今はちょっと」
とおっしゃいました。
そりゃそうですよね、走りながらサインは無理ですよね、と思った私は、あろうことか
「あの、じゃあ、私、誕生日が5月7日なんですが、誰と一緒ですか?」
と聞いてしまったのです。
ペー師匠は、キッとこちらを睨みつけながら
「欽ちゃん! あなたね、非常識! 急いでるの、僕は!」
と真剣なお顔でおっしゃいました。「欽ちゃん」と答えてくださったのは、師匠のやさしさとプライドだったのだと思います。

師匠ごめんなさい。お上りさんの田舎娘が大変失礼をいたしました。この場を借りて謝罪いたします。本当にすみませんでした。

こんな風に、距離の取り方がまずい人は、会話術云々の前にまずはそこから何とかしないと……ということが書かれた本でもあります。
とても役に立ちますね。

リアルではお目にかかれる機会が減ってしまったけれど、私の頭の中には「インデペンデンスデイ」のイントネーションとともに、いつもご機嫌なひろのぶさんがいて、凹んだ時に笑わせていただいています。
ご機嫌は世界を救う。
私もひろのぶさんのようにいつも幸せそうに生きて行こうと思います。

以上、「会って、話すこと。」を隅から隅まで読んだ感想でした。

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