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「そして誰もいなくなった」のはなぜ?

夜に釣具屋まで歩いて餌を買いに行った時のこと。
妙にそこだけ虫が集っている街灯があった。

他の街灯には、1匹の羽虫も飛んでいないのに、この一本だけ金粉を纏っているようだ。
道路の反対側から、すぐに写真を撮ったが、急いでいたのでそれ以上のことはしなかった。

帰りも同じルートで戻るから、その時によく観察すればいい。
釣具屋の閉店時間まであと10分と迫っていたこともあり、とにかく焦っていたのだ。

無事に餌を購入した帰り道。
先程の街灯を探す。
「探すまでもなく見つかるだろう。あれだけ派手なんだから」
そう思っていたのに、どの街灯にも虫がいない。
虫がいないと、形ではどれだったのか見分けがつかない。
つまりそれくらい、他との違いがない街灯だった。

行って戻って、せいぜい15分。
この短時間に何があったのか?

もしや、照明の下に吸引装置がついていて、おびき寄せた虫を吸い込んでいるのか?

Q: 何のために?
A: 生き餌しか食べない、カメレオンやトカゲの飼い主に販売するため。

いやいや、装置でおびき寄せるより、虫を養殖して増やす方が、はるかに簡単で安定した生産管理ができる。
これではないな。

そもそも人の仕業じゃないかもしれないし。
虫が飽きて、勝手に他所へ集団移動したとか?

そもそも、光に集まっていたのは、交尾相手を探していたのであって、相手が見つかったペアから抜けていったというのは、考えられないか?

街灯の下で考え込んでいると、
「さっきそこで、拾ったんですけど、これ、違いますか?」
とテディベアのキーホルダー付の鍵を持ったご婦人が声をかけてきた。
ぼーっと立っている私を見て、落とし物が見つからなくて途方に暮れているとでも思われたのだろう。

「いえ違います」
と答えながら咄嗟に、この人に訊いてみようと思った。
「あの……。この辺の街灯のどれだかわからないんですが、来る時に通ったら、ものすごい虫が集っていたのが1本あって。でも、今見たら虫がいないんですが、これ、何ででしょう?」

今思い返すと、私のセリフはただのおかしい人だ。
知らない人に、夜の8時過ぎにいきなり訊くことか、これ?

しかし、何という奇跡。
その人は答えを知っている人だったのである。

「ああ、それはね、たぶん、コウモリです。うちの近くの街灯にも、虫が集まるとコウモリが何匹もやってきて、全部捕まえて行きますよ」

なるほど、コウモリ!
確かに近所の畑の上も、夕方からよく飛んでいるのを見かける。
そうか、街灯の下はコウモリの狩場だったのか。

「ご覧になりました?」
「ここで見たことはないですね。でもうちの2階からよく見えるんですけど、見事なもんですよ。狙いをつけた獲物は、一回も外しませんからね」
なぜか得意そうにその人は言った。

そうか、見事なんだ。
あの金粉みたいな虫たちが、そんな短時間の間に食われていなくなってしまうのか。
ふわふわひらひらした羽虫たちと、俊敏に飛び回るコウモリの対比も絵になりそうだ。
きっと綺麗なんだろうな。

これは、絶対見たい。
明日からこの時間は、ここでの張り込みに当てようと誓ったのであった。

**連続投稿843日目**

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