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2022年5月現在、「ちむどんどん」を見続けることは心を無にする修行のようだ

いやもう、にいにいの暴挙が目に余りすぎる。
にいにいとは、NHKの朝ドラ『ちむどんどん』のヒロイン比嘉暢子(ひが・のぶこ)の兄の『比嘉賢秀(ひが・けんしゅう)』のことだ。

知らない方のためにざっと、これまでのあらすじと、にいにいのしでかしてきたことを挙げてみる。

あらすじ

 返還前の沖縄やんばる村(架空の村)には、貧乏ながらも幸せに暮らす家族がいた。母親と長男の下に三姉妹の5人家族。兄・賢秀は調子の良さと腕っぷしだけが取り柄で、子どものころからけんかっ早い。長女・良子(りょうこ)は学業優秀、幼いころからの夢を叶えて教職についている。次女でヒロインの暢子はやたらと元気で明るく、料理が得意。三女・歌子(うたこ)は名前の通り歌が上手な高校生。
 一家は、子どもたちがまだ義務教育を受けていたころに、いきなり大黒柱の父を亡くしている。働き手を失い、多額の借金返済がままならず、一度は暢子を養女にやろうという話もあったものの、なぜかその話も無くなって子どもたちは、やんばる村で大きくなった。
 兄・賢秀は、とにかく「一発大逆転」が大好きで、地道なコツコツした努力が嫌い。仕事も続いたためしがない。ある日、そこに付け込まれて詐欺に遭い、①家族の抱えた借金を倍に増やしてしまう。さらに、だまされてやけ酒をあおっていた店で、悔しさのあまりの大暴れして、②店の器物損壊によって借金をまた増やし③その場にいた歌子の高校の音楽教師にけがをさせるという、ダメっぷりを発揮する。
 音楽教師が謝罪を要求しに家まで乗り込んできたときも、自分は隠れて親きょうだいになんとかしてもらうとする始末。長女の良子は、兄・賢秀が暴力騒ぎで警察沙汰になると、さすがに教職についているのは問題だろうと周囲に言われる。つまり賢秀は④良子がせっかくつかんだ教師の夢を台無しにしかける。さらに、この事件は、次女暢子が自らの道を模索し、料理で生きていこうと思った矢先の出来事だったため、⑤詐欺でなけなしの金をだまし取られ、暢子が東京に行く費用がなくなり、夢を諦めざるを得なくなる
 一家の不幸の源は、ほぼすべて兄・賢秀の行動によるものと言っても過言ではないのである。
 さすがにこのあたりで、少しは心を入れ替えるだろうと思っていたら、賢秀は家出し、単身上京してボクサーになった。デビュー戦で勝ったことを報じる新聞記事とともに、ファイトマネーを実家に送ってくるのだが、その金は実は、⑥ボクシングジムの人たちから借金した金だったことが判明する。やはりというか、なんというか。ボクシングの道も、そううまくいくはずもなく、賢秀は二回戦でぼこぼこにされ、早々に「自分には適性が無い」と才能を見限って⑦借金を踏み倒して行方をくらましているのである。
 さらに昨日(20220年5月20日)の放送では、兄を頼って上京した暢子と再会し喜び合ったのもつかの間、⑧暢子の財布から金を抜き「倍にして返す」と競馬にぶっこんでいる

要約:はんだ もっと詳しく知りたい方はこちら

とにかく、にいにいは、まじめに働く気が無くて、金にだらしないのだ。母は、これらの暴挙にふりまわされて、借金返済のため寝る間もなく働いているのに、全く長男を叱る気配もない。縁を切るとか、一回刑務所に入ってもらうとか、強制終了のお灸をすえることもなく「にいにいは、にいにいのままでいい」と何もかも受け入れるのである。この愛情は、子ども四人に等しく注がれており、にいにいだけが溺愛されて育ったわけではない。なのになぜ?
こんなに愛情深い働き者の良いお母さんがいるというのに、兄は全くそのありがたみを感じることもなく、ひたすら自分のやりたいことしかしないのである。

昨今はやりの「自己啓発」では、自分を否定することなくやりたいことをやれ、とよく言われる。にいにいは、それらの教えに触れたことはないと思われるが、たいへん忠実な実践者だ。あの自己否定感の無さは畏敬の念すら覚える。
もしかすると、原作者は自己啓発が大嫌いで「あんなの実践したからといって、それだけで成功するわけないじゃん」という、アンチの立場からの強烈なメッセージを込めているのかもしれない。だとすると、その目標はかなり達成されていると言えるだろう。

それにしても、こんなに見ていてイライラさせられるキャラクターは久しぶりだ。一向に成長する気配がない。

どうやったら、にいにいを好きでいられるか、どうやったら、この朝ドラを平穏な気持ちで最終回まで視聴できるか、考えてみたのが本稿だ。
さあ、皆さんも一緒に考えてみよう。自分の身内にここまで酷い人物がいても、愛せる自信はあるか?ろくでなしと共に生きるには、どうしたらいいのだろう?

にいにいのいいところを挙げてみる

まずは、にいにいを好きになるため、良いところに着目してみよう。彼の長所とはどんなところなのか。

①ケンカが強い

あらすじでも書いたが、比嘉家は父が早くに亡くなっている。そして、三姉妹はいずれ劣らぬ美少女で、お母さんはあの仲間由紀恵だ。「TRICK」であり、「ごくせん」であり、大河女優であり、「きれいなお姉さんは好きですか?」の、あの仲間由紀恵なのだ。家族に一人くらい狂犬みたいなやつがいないと、美女たちが危ないじゃないか。

しかも、彼らの住む家には、ほとんど壁というものがなく、構造的にこんなに開放的でいいのかしらと心配になるほどだ。三姉妹を狙うごろつきも心配だが、沖縄のことだもの、もしかしてハブの一匹や二匹、入り込んできたことだってあったかもしれない。そんな時、仮にもボクサーとしてプロの舞台で戦ったことがある、つまり、異様に目と反射神経の良いにいにいがいなければ、きっと三姉妹も仲間由紀恵もキャーキャー言うだけで、なにも対応できなかったに違いない。あの腕っぷしと度胸で、描かれていないシーンでは家族を守ってきたことがあったのかもしれない。

②行動力がある

彼の儲け話に飛びつく素早さには、目を見張るものがある。普通の人が「えー、どうしようかなー」と数日かけて悩むようなところを、にいにいはすっ飛ばす。即断即決、これと決めたら、そこしか見ない。猪突猛進である。
「悩んでいて行動せずに後悔するより、やってみて失敗してからの後悔の方が未練は残らない」とはよく聞く言葉であるが、彼はその点やらずに後悔したことはひとつもなさそうである。
平和な時代にはともかく、たいへん非常時に強い資質だと思う。

③もの持ちがいい

ちむどんどんを最初から見ている人なら、初期に「かちん」ときたのが、この「マグネット・オーロラスーパーバンド一番星」の購入エピソードだと思うのだが、どうだろう?

NHKちむどんどん公式サイトより

賢秀が愛用する「マグネット・オーロラスーパーバンド一番星」は、14歳だった当時に村の共同売店で買ってもらった流行玩具。頭に巻き付けることにより、宇宙磁石の力でどんどん頭がよくなるという魔法のバンドです。

解説はこちらから引用しました

「中学二年生にもなって、こんな子供騙しにやすやす引っかかるなんて、もうダメンズフラグがバンバン立ってるな、この人」と思いながら見ていた。しかも、その購入に際しては、妹たちの「靴」や「体操服」といった今すぐ必要な日用品を押しのけて、自分の希望を通そうとしていたのだ。幼い。幼すぎる。どうせきっとこのおもちゃもすぐに飽きて、そのへんに捨てられてしまうのだろうと思っていた。

NHKちむどんどん公式Twitterより

ところが、である。にいにいは、そこから10年以上もこのマグネット・オーロラスーパーバンド一番星を愛用しており、ここ一番の時には必ず頭に巻いているのだ。

NHKちむどんどん公式サイトより

10年以上装着し続けて、頭がよくなった気配はないのに、信じ続けているのか、なんなのか。とにかく普段の大雑把な性格からは信じられないくらい物持ちが良いのである。素晴らしい。

④スーパーポジティブ

どんな失敗をしでかしても「終わったことだ、仕方ない」で済ませられる、あとくされの無さはすごい。罪悪感を引きずらないのだ。ドラマ内ではよく「俺は比嘉家の長男だぞ」と言っていたので、長男の責任を感じているのだなと思っていたのだが、この長男、自分がこさえた借金に対する責任は、まるで感じて無さそうだ。
こういうキャラクターは、大成した時に評価が大逆転して「あの人は昔から細かい金に頓着しない、器の大きな人じゃった」などと言われるところなので、伏線なのかもしれない。いやそれを期待するしかない。このまま終わっていいはずがない。

⑤人を惹きつける明るさ

ちむどんどん第四週では、ヒロイン暢子が、高校の料理部の助っ人として、産業まつりのヤング大会でやんばるそばを販売するというシーンがあった。
にいにいは、かつて物販バイトをした経験を活かし、舞台上で盛大な呼び込みを行い、暢子たちの売り上げを伸ばしてライバル校に勝利する布石となっている。
その呼び込みは、生来の明るさと勢いで見るものを惹きつけ、来場者全員に食べてみたい気持ちを呼び起こした。にいにいの最大の長所はここであり、これを生かした仕事をすれば、借金なんてすぐ返せるのにと思うのだが、本人は気づいていないのだろうか。

にいにいの動機に着目してみる

褒めてるつもりで悪口がちょいちょい入ってしまった。にいにいごめんよ。
さて、にいにいにも良いところはたくさんあるのは、わかった。
あとはもう、幼児を育てる親の気持ちで見守るしかない。つまり、結果に着目せず、動機にフォーカスをあてるのだ。

たとえば、お昼寝から目覚めた二歳児。
となりで疲れて寝ているお母さんに、
「自分も大好きなこのオレンジジュースを、飲ませてあげたら喜ぶかな」
とわくわく冷蔵庫からジュースを取り出し、コップに注ごうとする。
しかし、まだ手先が器用に扱えないうえに、ジュースは重い。
盛大にコップをひっくり返し、そこら一帯オレンジの海である。

結果だけ見れば、ひっくり返ったジュースでカーペットはべたべた、疲れた母の仕事はかえって増える結果となり「余計なことしないでよ」と怒りたくなるところだろう。
しかし、子どもの動機は「母を喜ばせたい、役に立ちたい」だったのである。

にいにいも同じだ。彼は自分の遊ぶ金ほしさに一攫千金を狙っているのではない。動機はいつも、家族に楽をさせてやりたい、なのである。すべて逆の結果になってしまうのは、にいにいだけのせいではない。

うまい話を簡単に信用して、にいにいに大金を託してしまった母ちゃんにも問題はあるし、なにより、騙される人より騙す人が悪いのは当たり前のことだ。騙される人を責めても仕方ないじゃないか。

以上は、にいにいを嫌わないためにどうしたらいいか、心の持ちようを考えてみたというだけのことであり、実際に私がにいにいを育てる母だったら、こんな風には考えない。ここまで許さない。息子に対する限りない信頼と共感が、自分に負荷をかけるだけだとわかったら、どうしたら自分も息子も幸せになれるかを考えて、舵を切るだろう。

と、書いて気づいた。そうか、にいにいにイライラしてしまうのは「にいにいが何をしても許してしまう、受容度の高い母を持っていること対して嫉妬している」というのも一つありそうだ。「私が母だったら、ここまで許さない」というのは、「私は許してもらえなかったもん」という気持ちが隠れている気がする。そして、イラつく多くの人が、無意識に同じように感じているのではないかと思う。

つまり、穏やかにドラマを鑑賞するためには、この「母視点」「こども視点」が邪魔になるということだろう。
登場人物の誰にも感情移入せずに、「神の視点」で成り行きを見守ることが肝要ってこと……かな?それはあまりにもつまらないけれど、最後まで穏やかに見守るためには、それしかない気がしてきた。

**連続投稿113日目**

※トップ画像を含む掲載画像はすべて、こちらのNHK公式サイトからお借りしました。


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