2022.10.30 プロレスリング・ノア 【武藤引退ロード】 有明凱旋ーTHE RETURNーPRO-WRESTLING LOVE FOREVER . 3 ~TRIUMPH~試合雑感

お久しぶりです。もるがなです。毎年下半期は年始に向けての「タメ」と言いますか、それもあって更新頻度が落ちがちになるのですが、やはり熱のある興行を見ると語りたくなることもあり、今回は1.8の対抗戦以来のNOAHの試合のレビューをやりたいと思います。実は今までに何度か書こうとはしていたのですが、Twitterのほうで吐き出すことが多く、いまいちタイミングが合わなかったんですよね。相変わらず目についた試合のみの寸評になりますが、お付き合いいただければ幸いです。


2023年1月1日、グレート・ムタvsシンスケ・ナカムラ、決定!

試合のレビューをやると言いながらいきなりこれかよ!と思われるかもしれませんが、これに触れないわけにはいかないでしょう!と、いうか書こうと思った理由の8割はこれですwいやあ……これには驚かされましたね。一ノア、二ムタ、三中邑の初夢。まさにプロレスお年玉。カードのグレードで言うならケニー ・オメガvsクリス・ジェリコ級のドリームマッチです。

扱いとしては実質ゲストではあるのですが、中邑真輔の凱旋はわりと楽しみにしていたファンも多く、新日ではなくノアで実現することに色々と思うところのあるファンも多いかもしれません。とはいえ、新日も三沢メモリアルの日にKENTAのG-1参戦を発表したわけで、そういう意味ではお互い様ではあるのですが、出し抜かれた感というかNTR感パないですよねwまああくまで参戦するのは発表を見る限りでは中邑真輔ではなくシンスケ・ナカムラであり、入場曲も違えば必殺技も違うわけで、なんならムタ引退で先には続かない一夜限りのスペシャルマッチではあるのですが、それでもサプライズゲストとして中邑真輔というカードを切れたのは本当に強いと思います。

中邑真輔とグレート・ムタ=武藤敬司の因縁といえば、2008年のシングル2連戦が印象深く、当時カート・アングルとのドリームマッチを制し、ライバルである棚橋弘至を倒して格的に戦う相手に難儀してたときに現れた旧世代の伝説が武藤敬司だったわけです。14年前のあの当時でさえ武藤敬司のIWGP戴冠は「狂い咲き」扱いでありましたし、ぶっちゃけて言ってしまえば武藤vs潮崎のフランケン決着や武藤vs清宮の一連の抗争ってこのときの中邑vs武藤のオマージュ要素がかなり強く、ここに目をつけるのは自然ではあるんですよね。

都合二度シングルで戦いつつも、中邑真輔は一度も武藤敬司には勝てておらず、相手こそ武藤敬司ではなくグレート・ムタではありつつも、中邑vs武藤のストーリーに決着戦を作ったという意味ではノアには感謝しかありません。加えてグレート・ムタ以降、米国で最も名を売ったレスラーといえば中邑真輔は真っ先に挙げられる筆頭候補ではありますし、日本人初のロイヤルランブル優勝は実績面でも申し分ないわけです。そういう意味ではグレート・ムタvsシンスケ・ナカムラは究極の逆輸入マッチであり、かつての伝説と現在進行形の伝説がぶつかる、世界を股にかけた世紀の一戦と言って差し支えないカードであるのです。

拳王チャンネルでも言ってましたが、このカードは果たしてプロレスリング・ノアのカードなのか?という疑問は当然の如く出てくるでしょう。それは極めて正しい指摘ではありますが、参戦が決まってのこの2年間で武藤敬司ブランドを高めたのは何を隠そうプロレスリング・ノアであり、ノア以外では絶対に実現しなかった一戦であることを考えると、間違いなくノアのカードではあるでしょう。

以前も書きましたが今のノアはファンの好みが細分化して以降、絶えて久しい「マット界」という文脈を「正史」として受け継ぎフル活用しているわけで、言うならばプロレスの歴史そのものを独占しちゃってるんですよね。そういう意味では他団体頼りという揶揄は当たっているようで的を射ているとは言い難く、過去の文脈の掘り起こし含めたマット界のハンドリングを担ってるからこそ、こうした形で歴史と紐づけたドリームマッチをバンバン打ち出していけるわけです。はっきり書きますが、ノアは他団体含めて今まで紡いできた「プロレスの歴史」そのものや「選手の格」に対し、ちゃんと「敬意」を払っています。だからこそ得た恩恵の一つであり、武藤敬司の言葉を借りるなら「思い出には勝てない」ですよね。グローバリズムの新日と比較するとノアのやり方はドメスティックであったのですが、ここで虎の子の中邑真輔というカードを切ったことでグローバルにも目を向けたわけで、これはかなり脅威ですよ。まあなんにせよ見る側としては面白ければそれでいいので、このドリームマッチを見られる幸運を年始の楽しみとして過ごしていきたいと思います。

◼️ GHCナショナル選手権試合
〜GHCマーシャルアーツルール〜
船木誠勝 vs 桜庭和志

船木vs桜庭は年齢を考えればとうに旬を過ぎたカードではありつつも、名前とマッチアップだけでゾクゾクするカードではありますね。船木にとっては2007年のK-1 PREMIUM Dynamite!!以来の雪辱戦であり、マーシャルアーツルールという特殊性はまさにそれの再演でしょう。

実のところピンフォールを度外視したルールを改めて設定するのはピンフォールが完全決着ではないと言われているような気がして、個人的にはあまり好きではないのですが、二人の格闘技色をより明確にしつつ、観客の本当に見たい決着へ誘導するという意味ではまあ許容範囲かなあという印象です。ルール面での注目はUと違ってロープブレイクでの減点がない点であり、一見するとプロレスナイズされた総合格闘技という印象こそ受けますが、逆に考えるとブレイクはともかくロープを掴むことがルール上許されているというのは、リングを舞台としたリアルファイトという意味においては凄く真っ当ではあるんですよね。これは意外に思われるかもしれませんが、一見ガチに見えがちな平地想定の戦いって実のところかなり競技嗜好が強いわけで、ロープを掴む制約のないほうが環境要因も含めてより原始的な「戦い」に近いのです。そういう意味では前回の対戦と違ってルール面で差別化できているのは面白いなと思いました。

試合は大方の予想通りの3分という短時間決着であり、試合のスケールこそ小さく、船木のリベンジ成功という個人的な決着へと矮小化したきらいもあるのですが、前哨戦の探り合いや手合わせ感は今回はあまり感じず、スポーツライクでありつつも互いの気迫はビンビンに感じたので熱のこもった一戦だったと感じました。フィニッシュは打撃戦で熱くなった桜庭をドンピシャで捉えたニンジャ・チョーク。船木曰く技術交流による技で、これは実に武術っぽくて僕は好きです。

ここでふと、ニンジャ「チョーク」ならプロレスのルールだと反則では?ってなりまして、以前「怪物くん」こと横井宏考がアントニオ・ホドリゴ・ノゲイラ戦でやられて会得したスピニングチョークをプロレスのリングでやったときに「チョーク」だから反則を取られていたんですよね。いや、当時はトレンドの技でしたし決まり手になっていて、それで反則カウントを取られていたのは別の選手だったような気も……この辺はやや記憶が曖昧ではありますが、それがふと頭をよぎったんですよね。ここで少し考えて、ああ、だからこそGHC「マーシャルアーツルール」にしたのかと腑に落ちましたw単なる技術面では桜庭に軍配が上がりますが、体格差では船木有利であり、またロープブレイクありだからこそ柔術ベースの桜庭はやや不利で、だからこそスタンディングでの絞技という解に行き着いた……。いやはや、これらは単なる想像に過ぎず解像度にも自信があるわけではないのですが、対峙した空気感、設定されたルール込みで色々と面白い一戦だったと思います。ここはより詳しい人の感想を聞きたいですね。

◼️ GHCタッグ選手権試合
杉浦貴&小島聡 vs 拳王&中嶋勝彦

限りなく100点に近い80点満点の試合。超面白いB級映画という感じの一戦でした。凄くキャッチーで分かりやすく、また各々の個性もよく出たタッグマッチらしいタッグマッチ。普通にメインでも十分楽しめるハイクオリティの一戦です。

「世界で一番危ないタッグチーム」ことタカ&サトシは脳筋でありながらもバランス面では最高のチームの一つですね。今まで見た新日&ノアの越境タッグの中では柴KENと並んで随一の完成度だと思います。何よりこの二人、年齢にしてはとにかく元気でおじさんの青春感がハンパないんですよ。それに対して拳王&中嶋という金剛の最高戦力をぶつけてくるというセンスも素晴らしく、舌戦の拳王と容赦なき現実性の勝彦という精神面と肉体面の両方からサディスティックに攻め立てる二人という構図もいいですね。

最初に目を引いたのは小島の大胸筋アピールをバックから胸を鷲掴みにして止めた拳王で、このシーンは爆笑しましたw緩急の「緩」としては最高で、かつこれを大真面目にやれるあたりに拳王の底力を感じます。拳王のエンタメ性って恐ろしいもので、それこそあのグレート・ムタ相手に「喰われなかった」のって普通に考えるとかなりイレギュラーなのですよ。単なるネタに走ってるわけでもなく、空気を掌握できるのって戦いにおいては必須ですからね。杉浦vs勝彦の安心と安定のハードかつ殺伐な攻防に彩りを加えつつ、明るさを足せたのは拳王だからですよ。拳王をカードに入れると試合に拡張性が生まれるわけで、個人的にはシングルも面白いのですが、タッグこそその真価が伝わりやすいのかな?と思ってしまいます。

もう一つ驚いたのは小島の人気ぶりであり、やはり第三世代の中で最も「主人公力」が強いのは小島聡なんだということをまざまざと実感させられました。ほぼアイドルと言っても差し支えない求心力と、窮地に応援したくなるヒーロー性。代役としての主人公には誰でもなれますが、生来の主人公気質ってかなり限られた才能だというのがプロレスにおける個人的な持論の一つであり、主人公力ってこの四者四様の中では小島聡が間違いなく一番なのですよ。それはリングの中を見れば一目瞭然です。キャリアによるものという見方もありますが、これは天性の部分が大きいんじゃないかと思いました。

一進一退のシーソーゲームの中、かなり追い込まれます小島ではありましたが、杉浦のオリンピック予選スラムのアシストを受けての剛腕一閃で小島聡勝利。勝彦の受けも見事でありつつ、リーサルウェポンかつ強さを基調とする勝彦が「普通に負けられる」というのも今のノアの強みの一つでもあるよなというメタな感想も抱いてしまいましたね。拳王&勝彦奪取からの他団体出撃。見たかったというのが正直な所ではあるのですが、タカ&サトシのタッグの完成度を考えると妥当な結末でもあり、どちらが勝つか最後まで分からなかったという意味でもこの試合の評価は僕は高いです。この試合を一つの山とすると次期挑戦者のヨネと齋藤彰俊はネームバリューとして見劣りするように思う人もいるかもですが、有明という舞台とかつてのノアを知る二人としての歴史としてのアドバンテージで挑むタッグというのは面白いですね。コミカルな印象こそ目立ちますが、生で見るとヨネのエルボーってかなりヤバくて、齋藤彰俊も体格と空手ベースの蹴りは相当に重いんですよね。「世界で一番危ないタッグチーム」に対して「本当はヤバいタッグチーム」として挑むヨネ&齋藤彰俊は最注目だと思います。

◼️ 6人タッグマッチ
PRO-WRESTLING LOVE FOREVER . 3 ~TRIUMPH~
武藤&丸藤&稲村 vs 棚橋&真壁&本間

武藤引退ロードとしての花試合でしたね。一応はvs新日の対抗戦ではありつつも、棚橋の武藤に対する愛と武藤引退という文脈が色濃く、試合としては悪くはないものの当初の期待と比較するとイマイチそこから脱却できなかったなという印象です。

カードとして色々と言われはしましたが、個人的にはそこまで悪いようには思いませんでした。この試合の中心は武藤と棚橋ではありますが、丸藤正道と棚橋弘至の因縁は深く、かつてU-30で戦ったときに次代を担う二人として「重い試合がしたい」と棚橋が述懐していたんですよね。そのイメージは同興行内で起こった中邑真輔の最年少IWGPヘビー戴冠で消し飛んでしまいましたが、数年後のG-1のリーグ戦での再会。その後のIWGP王座戦と、新日vsノアの節目節目で両者は戦っており、越境ライバルという印象があります。稲村は仮想・力皇という見立なら入るのも納得で、棚橋と力皇はドームで戦って続きが途絶えたカードでもあり、また力皇対真壁戦は王座戦が頓挫した経緯もあって、そうした意味では世代を超えた因縁の予感さえあったわけです。このカードを見て、本来なら潮崎が入る可能性もあったのかな?というIFも頭をよぎったわけで、棚橋のノア参戦って2010年の潮崎戦が印象深く、同年のタッグリーグには真壁&本間が参戦したわけで、潮崎を入れることで時計の針を2010年から2020年代へと進めるのかな?なんて考えもしましたね。

そうしたややマニアックな妄想を色々しつつも、試合としては良くも悪くも「逸脱」のない試合となりました。それを一番期待された稲村。彼の三人まとめてのボディプレスはド迫力かつ、棚橋を旋回式でぶん回して叩きつけたシーンなど、要所要所で目を見張るシーンはありつつも、やはり武藤引退という文脈に対する遠慮があった気もします。と、いうより武藤と棚橋のエゴイズムに呑まれた感もあるというか、ここをブッ壊す必要がありましたね。真壁との因縁も少し蛇足感があり、以前の石井戦のような逸脱しかねない危険性と比較するとややおとなしかったような気もします。これだけポテンシャルを爆発させてもなおそうした評価になるあたり、逆説的に稲村の怪物性がよく分かるとも言えるわけですが……。稲村vs真壁に現時点ではあまり興味はないのですが、それはそうとして真壁のノア参戦自体は普通に見たくもあり、今回のムーンサルト阻止のチェーンアシストはわりと良かったんですよね。石井戦への期待と比較すると真壁戦は稲村視点でのプラス要素は劣るものの、他団体で戦う真壁がまた見たいという心境はあります。試合は丸藤が不知火で本間を料理し、対新日相手だと不知火を愛用する丸藤には好感が持てます。試合後の新日に対する「勝ち」発言は対抗戦をしっかり意識していた点ではよかったものの、棚橋の武藤への偏愛、真壁と稲村の因縁と合わせて全体的にややとっ散らかってしまった印象もあるのが惜しい所です。

◼️ GHCヘビー級選手権試合
清宮海斗 vs 藤田和之

まず武藤vs棚橋を差し置いてこれがメインになったことに一つ安堵がありました。同じように思った人も多いのではないでしょうかね。継承マッチとなった武藤敬司戦に続いての藤田戦は僕はある程度は予測していて、90年代の純プロと格プロの両翼を担った二人を超えることで、今なお残滓のように蔓延る90年代新日の幻想に、世代闘争の名目で間接的にケリをつけようとする清宮の姿勢には応援したくなるものがあるのですよ。それがしっかりと実現したことに賛辞を送りたいと思います。

とはいえ顔合わせとしては清宮にほぼ勝ち目のない印象もあり、それほどまでに藤田の怪物性が際立っていたのですが、実際に前哨戦での二人の戦いを見ると思った以上に清宮やるなというイメージの上方修正もあったんですよね。ここが今回の試合の一つのキーポイントであり、ようは「強さ」のイメージなわけです。強さには二種類あり、実際の「強さ」とイメージとしての「強さ」があります。藤田にはその二つがありますが、清宮はイメージとしての「強さ」がまだ課題としては残っているんですよね。強く見られることって実際に強いのと同じくらい重要な事柄であり、昔気質な言い方だと「舐められない」ための十分条件なんですよ。武藤超えを果たした今、それに相応しいそうした強者としての空気を纏えるか否かが、今回の試合の目的かなと思いました。

清宮は新コスチューム&新テーマ曲で入場。清宮の衣装、極楽鳥のごとき派手さでこのままアクキーにしてもいいんじゃないかなと思いましたwこうした色合いを着こなせるのも若いうちの特権であり、また以前の派手衣装よりも方向性がより洗練されてる気もしますね。慣れとは恐ろしいもので、もう清宮は派手じゃないと納得できないようになってる自分が恐ろしいです。対する藤田の入場はいつになく荘厳で、このとき、このタイミングで流れる猪木のテーマ曲の重さたるや。猪木没後でより最後の継承者感が増したというか、引退前の武藤超えに匹敵する重さが生まれたと思います。

序盤のグラウンド。清宮の対応力は相当なものでありながらも、流石の藤田和之は百戦錬磨で軽々と清宮をいなします。子供扱いというほどではなく、かなり清宮は奮戦してたと思いますが「膂力」という絶対的な壁がありましたね。途中のサッカーボールキックはまさに戦慄の一撃であり、そこからのキャメルクラッチは藤田のスカッシュマッチの定番ムーブというのもあって一瞬ゾッとしてしまいました。

しかしながら清宮のゾンビぶりはノアの正統血脈で、ここからの粘りはさすが王者の器でしたね。目を引いたのは藤田に呼応するように放ったサッカーボールキックであり、これは個人的にはいただけないです。清宮には似合わず、仕掛けるイメージはなく、方法論としても安易であり、またそうした方向性には行って欲しくないなという手前勝手な親心もあり……という風にかなり複雑に見てしまいました。ただ、藤田和之に対する「むこうみずな挑発」としての文脈としては最大級に機能しており、若さの特権をフル活用したという意味では大アリではあるのです。また武藤敬司のシャイニングに続いて、こうして戦いを通じて相手の技をラーニングするというのは少年漫画的な面白さもあり、清宮のラーニングスキルって清宮の王座戦での一つの注目ポイントかなという気もして、解釈は人によって異なるでしょうが、こうした多面的な見方と人それぞれの「語り」を誘発させる面白さがこのシーンには詰まってました。いやはや、それにしても清宮のジャンピングヘッドバットにしろ、今回のサッカーボールキックにしろ、自身のサッカー経験を存分に活かした技が微妙に当人のプロレスのスタイルに合ってないというのは色々と興味深いですねw

そして問題のシーンはクライマックスに訪れました。万事休すに近い状態まで追い込まれた清宮でしたが、藤田和之に対して放った起死回生のフランケンシュタイナー。やや崩れがちになったそこからの体固めで無理やり押さえ込んでのフォール勝ち。これは色々と物議を醸しそうな感じというか、実際に物議を醸しているわけですが、あの藤田和之に勝つにはこれしかなかったよな、という不思議な納得感もあります。

一つ一つ振り返ると、まずこの試合で放った清宮のフランケンシュタイナーは武藤のフランケンシュタイナーのような文脈で受け取られがちではありますが、見返すと太ももではなく膝下で挟む「原型」のフランケンシュタイナーに近い一発であり、一時期Twitterで話題となったウラカン・フランケン論争を彷彿とさせますね。ようは押さえ込みを主とした技というより脳天を叩きつける投げ技としてのフランケンシュタイナーであり、ややすっぽ抜けた印象もありつつも藤田の腕が足を回っていて、また脳天から叩きつけられているんですよね。意図してのものなのかミスなのか揺蕩っている部分でもあり、これはやはり「語りがい」があります。

そこからの体固めはがむしゃらかつ途中で清宮も馬乗りに体勢を変えていて、またレフェリーのカウントも少し「ラグ」があったんですよね。最初の体固めでカウント1。馬乗りに変えてカウント2。上半身を起こしてより体重をかけたタイミングで少しズレてのカウント3。綺麗に決まってはいないのですが、体勢の変化と確認するカウントのズレが藤田を混乱させたようにも見えて、だからこそ逆にフォールを許してしまった「リアル」さがあります。カウントが早いならまだしも判断に迷って遅れてカウントし、それでいて両肩はしっかり付いているのなら、ピンフォール勝ちを疑う余地はないでしょう。もう少し綺麗に決まっていれば……と思わなくもないのですが、そうした「様式美」に偏りがちな昨今の風潮の中では、こうした不明瞭さもまた味であり、試合途中の意識を飛ばしかねないサッカーボールキックや殺人ビンタの雨あられから生還して朦朧とする中決めたという意味では果てしなく現実的な決着であると思います。

しかしそれで満足するほど清宮も楽観視しているわけでもなく、手厳しい声はちゃんと届いているでしょう。王者とはいえまだ若武者であり、課題が課題として明確になっただけでも得たものは大きいです。やや甘い評価かもしれませんしそれを否定する気もないのですが、一つ言いたいことがあるとしたら、一見すると「失敗」の烙印を押されそうなフィニッシュ動画を敢えて堂々とツイートして拡散する公式は確信犯だと思います。なんというか、清宮の若い王者像をファンが賛否混じりで論評するというメタ構造を意図的に作り出していて、ライガーに続いて前田の苦言という説教のアウトソーシングもそうですが、あれらは団体側はかなり自覚的にやっていますよね。これは色んな場面で何度も言ってることではありますが、団体ってファンが思うほど馬鹿ではないのですよ。むしろ批判しているファンが躍らされてることも多々あり、自分が受益しているものの構造自体に目を向けてみるのもまた一興であると僕は思います。

むしろ今まで温かく見守ってきた中で、話題が拡散するに従ってより厳しい批評が飛んでくるようになったのはようやく評価の壇上に立ったといえるでしょう。ノアに対しての色んな批判が普通に出てくるようになったことで、僕は逆にノアは脅威だなと思うようになりましたよ。新日ファンとしてはうかうかしてられないですねえ。それでも楽しんでいきますけれど。とりあえず語れることは面白さの証だと思います。清宮、頑張って欲しいですね。





さて、久しぶりに筆を取るとやはりといえばやはり、長々と書いてしまいました。今年中にまた更新するかどうかは分からないですが、こんな形で気が向いたときにTwitterで書ききれない部分をガーッと吐き出す。今後もそうしたスタンスでやっていきたいと思います。ではでは、今日はここまで。