2024.6.16 プロレスリング・ノア ABEMA PRESENTS GRAND SHIP 2024 IN YOKOHAMA 試合雑感


お久しぶりです。もるがなです。久しぶりのNOAH興行の感想文となります。前置きはここまでにして書いていきましょう。まずはこのビッグニュースから

AJスタイルズ、参戦決定!

いやあ……とんでもない爆弾を落としてきましたね。提携発表でWWEの選手が来るのか!?と色々と期待があったわけですが、日本マットとの親和性もあり、文句なしにトップレスラーであるAJスタイルズの参戦は非常にスマートだったなと思います。

参戦選手は知名度を考えても中邑かAJだろうなと思っていたので驚きはないのですが、それでもWWEの現役スパスタが日本の団体に参戦すること自体が異例中の異例ですし、やはり映像で見るとアガっちゃいますよね。いずれ日本公演とはまた別の形で、令和版レスリングサミットみたいなのをやってくれるのが一番いいんですけれど……。ABEMAの交渉力に期待します(笑)

相手が丸藤であることに色々と思うところのある人もいるでしょうが、WWEからの参戦条件なら仕方なく、むしろ率先して名前が上がることのほうが嬉しいですね。名勝負製造機であるAJ相手なら試合内容は申し分ないですし、丸藤にとってはオスプレイに続いての世界標準への挑戦です。丸藤正道は過去ではないことを見せて欲しいですね。期待してます。

◼️タッグマッチ
マサ北宮&稲葉大輝 vs 谷口周平&タイタス・アレキサンダー

稲葉と谷口の組み合いからスタート。谷口のゴツさは相変わらずで、やはりこの手の勝負になるとそう簡単には負けない地力の強さを感じます。稲葉の頑張りも素晴らしく、途中に見せたファイナルカットはエルボータイプではなくカズ・ハヤシの巻き付くようなラリアットタイプで、こっちのほうが僕は好きなんですよ。石井超えを果たしたマサ北宮は意外なほどに通常運転だったというか、もう少し主役のように振る舞っても良かったのでは?と思いましたね。

そんな中で目を引いたのはタイタス・アレキサンダーで、やはりポテンシャルは素晴らしいものがありますね。動きに独創性がありますし、N-1のシングルで是非見たいですね。誰と当たっても面白いに決まってると言い切れるのは凄いことです。最後はカオスセオリースープレックス、ロールスルージャーマンでもあるビッグ・アグリーで稲葉から勝利。角度、ブリッジともに一級品の一撃で、これは銭の取れる技ですね。

◼️6人タッグマッチ
ジェイク・リー& YO-HEY&タダスケ vs 拳王&アレハンドロ&クリストバル

WAR DOGSとの結託など、不穏な動きを見せるジェイクに対しての拳王のツッコミは正論でしたね。特にゲイブとのタッグはやはり双方のキャラを鑑みてもかなり無理のある組み合わせで、ゲイブが本格参戦するならまだしも、外敵を手引きしたわけですから拳王が怒り狂うのも分かる話ではあります。ジェイクは今まで単純な外敵としてだけでなくご意見番のような位置付けでもあったせいか、こうした矛盾する行動を取ったときの言い訳が作りにくいのはありますよね。これを納得させるほどには貫目がないですし、逆に新日参戦を匂わせまくるのもそれはそれで立つ鳥跡を濁してしまうわけで、これは難しいなと。

そんな中、パラダイスロックの解除に命をかける拳王には笑ってしまいました。やはり場の空気を持っていくことにかけて拳王は一級品ですよ。そしてそんなコミカルな空気やフラストレーションを断ち切るように、タッチを受けたジェイクはエプロンにいる拳王をFBSで蹴り落とすと、コーナーにいるクリストバルにもFBSを叩き込んで鮮やかに勝利。相手の身体に足をかけて倒すの、とてもクールでしたね。控えにいる拳王を叩き落としてKOに追い込んだことといい、FBSの応用性の高さには驚かされてしまいます。

試合後に武道館でのGLG解散宣言。いやあ……G1参戦が決まったのもあって色々と勘繰ってしまいますね。せっかくいいユニットだっただけにここで終わるのは非常にもったいない気もするのですが、ジェイク追放のキナ臭い可能性もあるだけに、ジェイクの去就に注目が集まりますね。

◼️タッグマッチ
大岩陵平&HAYATA vs 小川良成&佐々木憂流迦

大岩と憂流迦のマッチアップは魅力的ですね。総格由来の寝技勝負なら憂流迦に軍配が上がるものの、プロレスはいまだ急成長の発展途上にあり、それ故にヤングライオンを脱し、清宮から離れて独り立ちした大岩からするとデビューして一年にも満たない選手に負けるわけにはいかないという。この両者だと格としてもいまいち読みにくく、どちらが勝つのか分からないというのも面白さを掻き立てますね。その二人を尻目にしっかりと背後でプロレスの土台を築き上げていた小川とHAYATAの師弟対決も面白く、二人の影響下もあってか綺麗にまとまった試合だなと思いました。

憂流迦からしても大岩はプロレスへの適応を示すにはちょうどいい仮想敵でもあり、以前見たときよりも所作がさらに「こなれて」いることに驚かされました。それでいながら彼の個性である「極め」の怖さが一切損なわれていないのがいいですね。それを裏付けるかのようにHAYATAが仕掛けた連続押さえ込みの間隙を狙っての変型ヒールホールドで憂流迦がHAYATAから一瞬でタップを奪いました。いやあ……素晴らしいですね。流動的なプロレスの動きの中に忍び込ませた毒のような一瞬の関節技。極まれば即タップのヒールホールドのリアリティはしっかりと担保しつつも、それ以上に一連の動きに紛れてまるで違和感がないことに驚かされました。MMA経験があるから出来るわけではなく、明らかにプロレスセンスの賜物なんですよね、これ。

憂流迦の何が好きって、格闘技としてのプロレスにとにかく真摯な所なんですよ。「プロレスだからこうしなければいけない」みたいな気負いや偏見がなく、ただただ純粋にプロレスを楽しみつつも、それでいてMMAで培った技術をブラッシュアップしながら「プロレス」として切れる手札の数を増やしている。これはプロレスそのものと真っ向勝負をしていると言っても過言ではないのです。プロレスの懐の深さを誰よりも信じているからこそできることでありつつ、プロレスに対してコンプレックスがなく、変にマウンティングをやろうとするのでもなく、プロレスというものが憧れの原風景であるからこそできる行為でもある。いやはや、憂流迦のプロレスへの「どっぷり」感はピュアな解放ですよ。自分が今までやったことに自信を持ちつつ、かつての憧れを叶えるためにチャレンジする。やっていることはとてもシンプルでいながらも、誰にでもできることではなく、だからこそこの姿勢には尊敬の念しかありません。憂流迦を通して損なわれていたプロレスへの自信や信頼に血が通っていくのを感じますね。見てるだけで楽しいですし、今はもうただどういうレスラーになるか見届けたい。その気持ちしかありません。

試合後は憂流迦がHAYATAにGHCナショナル戦要求。これは面白そうですね。憂流迦の挑戦だと階級面での不利益が互いにないせいか、タイトルの無差別級感がより強まりましたし、設立当初の格闘路線の空気もありますね。N-1での憂流迦の戦いも気になりますし、憂流迦は凄いですよ。いやホントに。

◼️GHCジュニアヘビー級選手権試合
ダガ vs スターボーイ・チャーリー

ノアジュニアの戦いはレベルの高さは理解しつつも、個人的には「刺さらない」と以前書きはしたのですが、この試合は別格で、あまりにレベルが高かったせいかついつい見入ってしまいました。

ダガはちょっと完全無欠なせいか、普通にやっても強過ぎるのもあって時折混じるダーティーワークが逆に余計に感じてた部分が若干あり、そこの部分が個人的には上手さを感じつつも瑕疵でもあったわけですが、相対したスターボーイ・チャーリーほどのポテンシャルになると、それも込みでないと勝てないなと思わされたのもあって、今回は全然気になりませんでした。三角飛びからのエプロンDDTは声出ちゃいましたね、

非常にスピーディーで噛み合った攻防ながら変に間延びせずに徹底的に間を切り詰めていたのが印象深く、それでいながら互いに技の精度が完璧だったことに驚かされてしまいましたね。オーバーヘッドキックを読み切っての頭部へのキックは本当に「隙のなさ」が見えましたし、最後はディアブロウイングスでダガの勝利。かなり互角なようでいて、終わってみればダガの完勝と言ってもいい空気。いやはや、完璧超人はここにいるんだなと。

ほぼ絶対政権を樹立しつつあるダガの前に現れたのはAMAKUSA。満を持して……でありつつも、敵は強大かつそろそろノアジュニアも後がありません。ストップ・ザ・ダガは誰になるのか。この王者から取ったらデカいですよ。AMAKUSAには期待しかありませんね。

◼️GHCヘビー級選手権試合
清宮海斗 vs ゲイブ・キッド

今大会のベストバウトです。遡れば因縁は昨年のG1での壮絶な引き分けに端を発する抗争であり、そこからは音沙汰がなく気になってた身としてはヤキモキはしていたものの、今年のオールトゥギャザーの乱入劇で一気に再燃。その急展開のまま王座戦へと雪崩れ込んだいわくつきのカードでもあります。

団体の至宝戴冠経験のある清宮、もといノアファンからするとゲイブは無名のガイジン選手。言ってしまえば「野良犬」に過ぎず、その挑発行為には「品格」を感じない。これは以前も書きましたが、ゲイブの纏う狂気性は2004年ぐらいの尖ってた柴田勝頼に最も近しく、様変わりした今の新日の中で闘魂の二文字を背負うに相応しい選手です。そこに付随する新日本プロレスの看板。ある意味ではオカダ以上に対新日を意識せざるを得ない相手であり、過去のNOAHと比較しても、史上最もGHCに相応しくない挑戦者と言えるでしょう。認め合い、讃えあう令和プロレスの世界観において、団体イデオロギーの観点から見ても完全に和解の余地がないという点では、これはヒールであるゲイブにとっては最大級の評価ですよ。あしからず。

この純然たる格の差があるからこそ噛みついたゲイブにこちらとしては燃えたわけで、だからこそ因縁ができてすぐにカードを組まなかったのも頷ける話です。当時の清宮はオカダに大敗を喫し、ジェイクにやられて王座を失った直後であるため、ゲイブと戦うと格の帳尻は合う反面、位置付けというか序列の面ではやや後退する恐れがあったわけです。だからこそ王座戴冠した状態で迎え撃つ必要があったとも言えますし、ゲイブからしても王座という分かりやすい至宝と、オールトゥギャザーという注目を集めるのにまたとない好機で、本来ならそう簡単に再燃できない因縁を深めることができたわけで、振り返ればこのタイミングは互いにとってベストだったと思いますね。

この手の試合は前哨戦が一番のピークだったということも多いのですが、いざ蓋を開けてみれば観客の上がったハードルをゆうに超えてくる血みどろの一戦となりました。

解説席の武藤も言ってましたが、ゲイブは殴る、蹴る、噛みつきといった非常に原始的な攻めが多く、それにラフを交えるだけで試合を作っていたのは凄いですね。ゲイブはそもそも使う技もシンプルな技が多く、多用するブレーンバスターもパイルドライバーも今の時代では基本技になっている印象がありますが、ゲイブのスタイルで繰り出すそれらは往年の必殺技並みの破壊力を取り戻しているように見えるんですよ。これはほぼ技を出さずに殴る蹴るに終始しているからこそであり、緩急がしっかりしているからなんですよね。ゲイブで少し気になったのは流血と打撃だけでなくやや過剰なまでにアピールに時間を割いていたことで、思いつく限りの罵倒を挑発をヒールとして全てやり切ったのは理解できますが、清宮を圧倒!というより若干浮き足だった印象を受けましたね。ほんの少しだけ、ですが。

しかしながら、この試合に限って言えばゲイブは前哨戦ほどの技の大盤振る舞い感は薄く、ラフを交えた乱打戦では清宮に打ち勝っても、技の部分では清宮有利だった印象もあり、その蓄積ダメージの差がそのまま勝敗に繋がった気もします。特に清宮の放ったリバースフランケンという武藤技のアレンジに始まり、試合中盤で繰り出したエプロンでのタイガースープレックスと、デスレイクドライブ、もとい雪崩式タイガースープレックスという二つの超危険技はインパクト抜群で、一週回って危険技で「制裁感」を出したのは非常に上手いなと思いました。特にエプロンでのタイガーは四天王プロレスを想起させる一撃ではあるのですが、互いの信頼関係と果てのないマラソンの極北である四天王プロレスは、そもそも絆のないゲイブ相手には成立しないことは明白で、それ故に抽出されたハードさのみを「これがNOAHのプロレス」として新日のゲイブに叩きつけたのがたまらないんですよ。ゲイブの攻めが無骨かつシンプルだっただけに、清宮のNOAHらしい大技のラッシュはいい対比になっていました。

最後は三角跳び式のシャイニング、後頭部へのシャイニング、変型シャイニングウィザードのフルコースで血染めの清宮がゲイブを粉砕。この流れもすっかり定着した感じがありますね。いやあ……清宮もゲイブも素晴らしかったですよ。なんというかこの試合って一昔前のカオスで荒れ模様な対抗戦の空気があって非常に良かったですね。新日は怒りを、NOAHは品格を見せましたし、最高の試合でした。

試合後に清宮の前に姿を現したのは稲村愛輝ことYOICHI!いやあ……これはテンション爆上がりですよ。ジェイク政権やドクトル・ワグナーJr.政権のときの切り札として来るのかな?と当初は思っていましたが、清宮が王者というこれ以上なくベストなタイミングで来ましたね。顔つきは精悍で、それでいて身体が分厚い!これは清宮にはない武器で、小橋や力皇の系譜に連なる空気感があります。

「いま、俺がこの場所に来たってことはわかるよな?」「海外から戻ってきてすぐに取れるほど甘くはないぞ!」言葉こそテンプレートの応酬なのですが、それ故に浸透しやすく、それでいて言葉に嘘がない。昨今のNOAHは飛び道具が目立ちますがこういうのでいいんですよ。そして一度は帰るそぶりを見せたものの、YOICHIは清宮に無双一閃!「生ヌルい革命家気取ってんじゃねえよ!」いやあ……これにはシビれましたね。凱旋帰国後の稲村が言うことに説得力がありますし、長らく雌伏の時を過ごしたからこそ意味がある。稲村が取ってこそ革命というのはその通りですね。そこにはもう後輩らしさは微塵もなく、清宮の向こうを張るだけの威風堂々とした頼もしさがありましたよ。清宮vsYOICHI、NOAHの頂である日本武道館のメインでやる。これ以上にNOAHの未来を感じるカードはないですね。





いやあ……久しぶりに通しでNOAHの興行を見ましたがやっぱり面白い!ここからは少し苦言、もとい愚痴っぽくなってしまって申し訳ないのですが、以前も書いた通り、今のNOAHの最大の強みは、団体内の世界観やストーリーに過度に拘り過ぎることなく、連綿と続いてきたマット界の文脈と歴史を自団体のストーリーに正史として落とし込んでフルに活用できることで、これは歴史を一旦リセットし、自団体内で新たにストーリーを紡ぐことを選択した新日にはできない芸当です。これはどちらが正しくてどちらが間違っているというわけではなく、歴史を途絶えさせずに守る必要はあるわけで、藤田再生や武藤引退は今のNOAHでないとできなかったことでしょう。これは一時的にでも盟主交代を果たしたNOAHにしかできないことではあると思います。

その反面、NOAHそのものの歴史の薄さを時折感じるというか……旧全日から連綿と続くNOAHの系譜も大事にして欲しいかな、と思うんですよね。いつまでも三沢や小橋ではないというのは分かっていますし、意図的に脱却することで雰囲気を変えたかったというのも理解はしています。実際、今の新世代は魅力的ですし、彼らが過去に囚われすぎることなぬ、NOAHの新たな歴史を紡いでいるのはいいことではあるのですよ。ただ、新日ファンの僕から見ても些か新日の歴史や新日的な手法を使い過ぎではないか?と思うことはありますね。いやまあ面白いからいいんですけど、マット界の歴史は新日だけではないですからね。個人的には、いずれは潮崎vs清宮の真のエース継承戦を見たいですし、潮崎vs諏訪魔も見たいです。武藤を知るものとしての秋山vs清宮のシングルも見たいですね。そういう意味では、清宮にぶちかました稲村の無双は目頭が熱くなりましたし、小橋の絶対王者政権を終わらせた技ですから。あれ以上の革命はないんですよ。

やや愚痴っぽくなってしまいましたが、それでも今のNOAHは最高ですよ。清宮に稲村に憂流迦にと、時代は変わりつつあるのを感じますし、これからもどんどん飛躍して欲しいですね。今日はここまで。またお会いしましょう。ではでは。

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