2024.6.22 ブラッドスポーツ武士道 試合雑感

お久しぶりです。たまには新日やNOAH以外の試合感想も……ということで鉄は熱いうちに打て!とのことで全試合レビューやりたいと思います。

◼️阿部史典 vs 飯塚優

オープニングマッチに相応しい格闘プロレスでしたね。この試合だけではないのですが、開幕は握手でスタートするのは普段のプロレスと違って競技性を感じますし、これだけで空気が変わりますよね。

飯塚優はUWFスタイルの経験も積んでいるせいかその手の試合の空気感と間合い管理が上手く、掌底で距離を測りながらのロー、そしてタックルなどがサマになっていますね。そしてそれらをきっちり捌きつつ、アームドラッグやドラゴンスクリューでのテイクダウン、袈裟固めやクルックヘッドシザースなどのプロレス技で捉えていく阿部史典も素晴らしいです。これだけでも打撃で優位性のある飯塚優と伝統的なプロレスラーらしい組み技で制圧しようとする阿部史典というコントラストになっているのも分かりやすくていいですね。

硬いマットで見せた阿部史典のジャーマンはこの試合におけるハイライトの一つで、絞め技のスリーパーを腕で防ごうとした飯塚優に対して隙間を縫うようにフェイスロックで解答したシーンがたまらなく好きです。こういう細かな部分に読み合いと攻防が発生しているわけで、これぞ実戦的なプロレスですね。

飯塚優も卍固めを見せますが、崩れたところを阿部史典がトーホールドで攻める。互いにマウントを取り合っての合法であるナックル。サラリとネッククランクで圧をかけた阿部史典に見惚れながらも、スタンドの状態から飯塚優が得意の打撃へ。バックブローからのハイキックは良かったですが、阿部史典もヘッドバッドで反撃。そこでややグロッキーになったところを飯塚優がマウントからのナックル連発を見せますが、跳ね除けて一瞬のアキレス腱固めで阿部史典が即タップアウト勝ち。いやあ……阿部史典は素晴らしいですよ。

この試合、僕はかなり好きですね。ナックルや掌底、試合展開などに関して総合格闘技と比較して微妙に思う人もいるかもですが、ルール上遊びがなく競技性の高い総合格闘技と違って、流動的かつ慣習的なルールの中で互いに美学を持ち、普段の練習の中で培ったプロとしての技術を思う存分にぶつけ合う。そういう意味ではオープニングマッチに相応しい試合かつ、素晴らしい試合だったと思います。


◼️佐藤光留 vs 鈴木秀樹

体格差があるせいか前の試合より重厚感がありましたね。加えて既知の間柄で手の内を知ってるが故の探り合いや警戒心が如実に伝わってきたのが面白いです。

目を引いたのは鈴木秀樹の仕掛けたグラウンドコブラツイストと佐藤光留のアームロックの攻防で、局地的なせめぎ合いながらこれにはヒリヒリしましたね。鈴木秀樹は手や足の末端の使い方がとにかく上手く、足でマウントを取られるのを防ぐシーンなどはキャッチアズキャッチキャンのコントロールの真髄を見た気がします。最後はガードポジションから反転して即座に極めたSTFでタップアウト勝ち。こういう掛け方もあるんだなと思わされた一戦でした。

◼️エリック・ハマー vs 野村卓也

エリック・ハマーの存在もあってか非常にIGFらしい空気感がありましたね。野村卓也のトンパチな蹴撃ラッシュもあってか、かなり危険度の高い一戦となりました。組みついての零距離では体格差もあってエリック・ハマーの凶暴性が出ていましたが、一度離れると徹底した蹴りの連発が襲ってきて、これにはかなり手を焼かされた印象がありますね。ノムタク、これは天晴れですよ。最後はナックルのようなラリアットのような打撃から唐突な投げ捨てパワーボムでエリック・ハマーのKO勝ち。やるだけやらして最後はボム……という感じではありましたが、思った以上にノムタクが血気盛んに攻めたのもあって、ここは勝って欲しかった気もします。とはいえ、このブツ切り感には逆にちょっと懐かしささえ覚えました。

◼️小波 vs 福田茉耶

思った以上に実力差があったというか……はっきり言って福田の側に勝てるビジョンがほとんど見えなかったですね。体重差は5キロ程度の違いしかないはずなのですが、そもそもの身体の厚みが全然違っていましたね。果敢ではありましたし空手ベースのバリエーションのある打撃は良かったのですが、後半の明らかなスタミナ切れと、響き渡った悲鳴に似た叫びに逆に弱々しさを感じてしまったのも事実で、それと比較すると小波の打撃対策や寝技の強さは大蛇の捕食に似たジワジワとした怖さがありました。最後は小波がアキレス腱固めでフィニッシュ。胸を貸した場面がかえって不自然に映るほどには差のあったマッチアップであり、ルールのせいもあってちょっと残酷さのある試合だったように思います。

◼️船木誠勝 vs デイビーボーイスミスJr.

流石に船木の試合は他と違ってピリッとしているというか、徹底して「理」のあるプロレスでしたね。対話というより最適解をひたすらに選択し続けるようなコンピューターめいた印象があるというか。耳裏のこめかみを打つ掌底であったり、バスターを警戒してすぐに倒れたり、逆に追撃を避けてすぐには起き上がらなかったりと、切り詰めた間合いにとにかくリアリティがあります。潰すところはしっかり潰し、それでいて無理に逆らわない。格闘技とプロレスの境目のない世界を生き抜いてきただけの経験があるからで、そこにリアルを見出せるのは船木誠勝ぐらいなものですよ。

DBSJr.は新日だと「見せたがり」の側面もあったり「一芸」の無さであったりと、どうにも水が合わずイマイチ芽が出ませんでしたが、スペックは一級品であり、伝統的な技術と体格の良さという古き良きプロレスの流れの残る全日であったり、こうした格闘要素の強いブラスポであったりと、こういう場所のほうが輝く選手だと思います。適材適所ですね。

船木のローやミドルを掻い潜ったのエルボーからのバックドロップホールド。そしてシャープシューターを狙ったところを下からのトーホールド?アンクルホールド?で船木が一瞬のタップアウト勝ち。見栄を切った瞬間を狙う船木の空気の読まなさ!これは褒めてますよ。本当にこの冗談の通じない感じがとても好きです。とにかくシビアでしたね。

◼️クイントン"ランペイジ"ジャクソン vs 関根"シュレック"秀樹

クイントン・“.ランペイジ"・ジャクソン。声に出して読みたいリングネームTOP3に入ると思います(笑)いや、それにしてもUがあり、IGFがありと日本プロレス格闘史の集大成みたいな興行ではあるのですが、その中にこうしたPRIDEのような香りのあるカードがあるのもローカライズされたブラスポならではの醍醐味ですね。関根"シュレック"秀樹はやはりガタイは素晴らしく、身体はまさに人間凶器であると思います。餓狼伝の登場人物のような空気があって僕はわりと好きです。

しかしながらランペイジ・ジャクソン……。やはりトシというかかなりバテてた印象があり、関根の防ぎ方が上手かったのもありましたが、パワーボムにいけなかったのは期待されてただけにやや残念ではありましたね。しかしながらその代わりに繰り出した豪快なボディスラムは怪獣決戦らしい空気があり、これはやはり2002年の佐竹戦を思い出してしまいます。そして最後のストンピングというにはかなりえげつない踏みつけの連打はヤケクソ感と危険性があってめちゃくちゃ良かったですね。

変な話、ここに至るまではやはり綺麗に区画整理された部分を感じて、それは興行の見やすさやキャッチーさ、ショーとしての完成度に貢献するものでありながらも、求めていた「闇鍋」感に不足を感じていただけに、そうした中で「まあ、こういう試合もあるよね」みたいな空気をこのカードから感じたのは個人的には嬉しかったりします。適度なユルさと豪快さ。これもまた必要だと思います。

◼️桜庭和志 vs サンティーノ・マレラ

今大会のベストバウトの一つです。サンティーノ・マレラはWWEで一世を風靡した一撃必殺の殺人技「コブラ」の使い手でありながら、その実、単なるお笑いエンターテイナーではなく、知る人ぞ知る「シュート」の強さがあるんですよね。格闘探偵団バトラーツの留学生として8ヶ月の在籍経験があるのは周知の事実で、格闘技の経歴としては柔道のカナダ代表とレスリングのカナダ学生王者でもあり、それだけに桜庭との対戦はガチマレラを拝める貴重な機会でもあり、個人的には最注目の試合でもありました。情報として「知って」はいても「生」で見たことはない。令和の世になっても幻想は確かに存在しているのです。

さて、そんな感じで蓋を開けた期待の一戦だったわけなのですが……いやはや、マレラ強すぎませんか!?投げと押さえ込みの柔道vs下からの絡みつく足関狙いの柔術という近種格闘技戦とでもいうべき面白さもさることながら、あの桜庭から何度もテイクダウンを奪っての押さえ込みの強さにはビビりました。桜庭もやられっぱなしではなく、柔術らしく下からの足関を狙い続けたり、ロープブレイクがないけど場外アリというルールを活かして一旦エスケープして再びリングインすることでポジションをチェンジする技は素晴らしすぎましたね。これぞIQレスラーですよ!

この、場外に落ちれば極めていようがいまいが10カウントで負けになるというのがミソで、総合格闘技と比較してここの部分に対する批判は色々と見聞きしましたが、単純な話で、これはそういう「ルール」の戦いなんですよ。そしてそういう「ルール」だからこそ、その穴をつくのは当然で、ルールが戦いを規定する以上、それによって戦い方が変わるのは当たり前のことです。

かなり苦戦を強いられた桜庭でしたが、マレラのタイツを引っ張ってバックを取ってのモンゴリアンチョップやコブラでの挑発など、総合格闘技の場でエンターテイナーであり続けた桜庭が、エンターテイナーの側面を封印して格闘色を全面に出したマレラにこれをやるという塩梅が絶妙です。チョークスリーパーにノーギベースボールチョークに腕十字に三角絞めと惜しみなく柔道殺法を使って追い込みをかけるマレラに対し、ヒールフックで活路を見出した桜庭が、そのまま体を移行させてのダブルリストロックで逆転勝利。最後が代名詞技というのもプロレスらしいカタルシスがありつつ、それでいながらあの桜庭を極めまくってタップアウト寸前に追い詰めたマレラの異常な強さが際立った……。そんな一戦でした。

振り返って思うのは、いろんな意味で本当にルールに救われたなという安堵感でした。、このルール、この場でないと桜庭vsマレラはここまで面白い試合にはならなかったと思います。恐らく総合格闘技ルールだと極めまくった関係上、マレラが勝利していたと思いますし、逆にそれなら桜庭はグラップリングに拘らずに三陰交キック等の打撃をもう少し増やしたと思います。それだとマレラはやや分が悪く、そうなると答えはもう藪の中ですね。片方が片方を完封してしまうような流れではなく、互いが互いに持てる技量を120%発揮しての競い合いこそ大事なことであり、そこにはある種の合意と美学、そしてプライドが必要なのです。桜庭は相当意地になっていましたし、それが結果として勝利に繋がったわけで、個人的には大満足かつ納得の一戦でした。それにしてもマレラ、マジで強かったですね。感謝しかないです。幻想を守ってくれたことに。そしてその実力に。惜しみない賞賛を。ありがとう!


◼️鈴木みのる vs ティモシー・サッチャー

この二人でこういう試合になるとは……。納得であり意外でもある。色んな意味で賛否のありそうな一戦です。他の試合とはかなり異質な試合でありながら、今大会の中で一番プロレスらしいプロレスでしたね。

NOAHでのティモシー・サッチャーの技巧派ぶりを知ってる身からすると、技比べを期待した観客にとっては肩透かしもいいところで、ひょっとしたら鈴木みのるに怒りすら湧いてくるかもしれませんが、そのニーズを知っていながらプロレスを「仕掛けた」鈴木みのるは千両役者ですね。あれをやられたら応じるしかなく、戦いというのは空気を作った人間の勝ちですからね。そしてそれを観客が支持した以上、答えはそこにあるのです。まあ僕ももう少しヒリついた硬派な試合が見たかったな〜とは思いますけどね。

しかしながら、周囲が興行のテイストとショーの流れを踏まえて格闘技に走る中、敢えてプロレスを独占したのは非常に慧眼であり、そして参加した面子の中でそれをすることが許されて、それが一番相応しい試合順だったのは鈴木みのるだけでしょう。そしてこの試合があったことでブラッドスポーツという興行の幅が広がった点もあり、このルールの中で許される限りのダーティーファイトをやり切った豪胆さは凄いです。椅子を持ち合うことで一瞬反則負けの空気すら出したのは巧みで、戦いとは合意が取れてから始まるもの、という当たり前のようでいて忘れがちなものを思い出させてくれますね。客と場を味方につけて合意形成した。これもまたプロレスです。

試合はかなり盛り上がり、最後はゴッチ式パイルドライバーで鈴木みのるの勝利。解説席の飯伏幸太への声掛けも含めてのみのる劇場。これはこれで役者が違ったように思いますね。


◼️鈴木秀樹 vs エリック・ハマー

すでにトーナメントがあったことをこの時点まで忘れてましたが、IGFの空気の残る一戦でした。前述のノムタク戦でのKOパワーボムが伏線としてしっかり効いていたのがミソで、興行の流れとして完璧でしたね。ノムタクの蹴りに相当手こずった感のあるエリック・ハマーでしたが、鈴木秀樹のようなグラップリングでの勝負となると持ち前のパワーやナックルなども合わせてかなり暴力的で、かなり原点に近いプロレスになっていたように思います。

最後は足を絡めてトルコ刈りのような体勢から逆サイドの足をトーホールドで固めて勝利。きっちりレスリングを見せた鈴木秀樹、素晴らしいです。

◼️ジョシュ・バーネット vs ジョン・モクスリー

今大会のメインイベントに相応しい血なまぐさい一戦となりました。興行の可否を決めるのはメインイベントだとはよく言われますが、この試合は一番ブラスポらしい一戦だったと思います。

最初のコンタクトは分かりやすいグラップリングの差し合い。そこから試合が佳境になるにつれて、リングインしてのダイブや鉄柱足攻撃といったプロレスらしい攻防になり、果ては競技格闘のプロレスから喧嘩格闘のプロレスへとシームレスに移行していく。これがたまらないんですよ。ロープのないリング。血で染まるモクスリーの顔面に、赤く蒸気するバーネットの肌。その風貌や粗暴さはまるで酒場の喧嘩のようでいて、プロレスとは基本的には不健全なものであり、また獣性の解放であることを教えてくれます。

ハイライトはやはり鉄柱へのジャイアントスイングで、ブラッドスポーツという場ならではの技ですね。そこに価値があるわけで、それに対して大流血というモクスリーの返答も素晴らしく、これはブラッドスポーツへの身を張った解答の一つではあるでしょう。

そして延長戦から流血がスイッチとなってモクスリーの猛攻。最後はタイガードライバーのようなダブルアームパイルからフットスタンプ。顔面へのエルボー乱射でレフェリーストップ勝ち。荒々しくなった試合に相応しい幕引きでした。IWGP世界ヘビー級王者としての面目も保ちつつ、バーネットへのリベンジ達成。ブラッドスポーツで見せたかったプロレスの最もピュアな部分は何か。それは格闘技としてのレスリングの側面もあると同時に、やはり一番は「闘争本能」だと思います。いい興行でした。





全試合通しての感想ですが、当初想像してた印象よりはかなり試合展開がダイナミックだったというか、波がありましたね。秒殺や不透明決着もあるかな?と思っていただけに、整理されすぎな気がしないでもないですが、それが逆にリアリズムに耽溺しすぎていない、ショーとしての完成度やクオリティの高さに繋がっていたと思います。格闘技?プロレス?と斜めから見ていた人も改めて自身の価値観の線引きを問い直すと同時に、令和に競技性だけではない格闘技としてのプロレスの幅を拡張させた素晴らしい興行だと思いました。是非また日本マットで見たいですね。ではでは。今日はここまで。

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