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2022年、ぼくはこの漫画を推しておく

今回は、毎年書いております「いつもの」コンテンツです。その年にハマった漫画を順不同、本数不同で取り上げており、ルールとして「現在連載中もしくは同年度完結作品に限る」および「過去の年度に取り上げた作品は取り上げない」ルールでやっております。
8月というかなり早い時期に書き上げてしまうのも、もう少し経つと本家「このマンガがすごい!」が現れてくるため、その時期になるとあまりに二番煎じになるかなという気持ちと打算もあります。
この辺は、毎年前置きしているテンプレですね。それでは、今年取り上げたい作品に入ります。琴線に触れて、読んでくれる方が一人でも増えたら嬉しいですよね。


株式会社マジルミエ

今年のわたしの中のイチオシはこれ。日々層が厚くなっていく「ジャンププラス」の漫画の中で彗星のように現れた「魔法少女×社会人」モノです。
とかく昨今の魔法少女ものは真っ当な作品が少ないですよね。ターニングポイントとなったのはアニメ「魔法少女まどかマギカ」でしょうが、漫画においても先行してヤングジャンプでも「スーサイドガール」があったり、意外と縁があるジャンルだと思います。
そんな中、昨年末現れたこの作品。魅力を存分に固めていき、いまやジャンププラス水曜日の看板作品となりました。

“魔法少女”―それは自然災害の一種「怪異」の退治業務を請け負う職業。就職活動に苦戦する女子大生・桜木カナが面接先で出会ったのはベンチャー魔法少女企業で…!?お仕事魔法少女アクション、開幕!
公式サイトあらすじより引用

要するに、魔法少女がこの世界においての公安であり、正体不明の怪物を相手取るわけです。「僕のヒーローアカデミア」におけるヒーロー、「シンウルトラマン」における禍特対。その前提がありつつも魔法少女派遣業界のベンチャー企業に主人公が入社するという「お仕事モノ」としての体裁を取り、それはオリジナル感を出して脅かすためだけの死に設定ではない。ジャンププラスにあっては「左ききのエレン(リメイク)」という超王道お仕事モノがある中その土俵で戦うには頑強な説得力が必要であろうと考えているのですが、決して負けてない。
仕事をすることとはなんたるか、楽しさとかやりがいとかそういう根源的な話。昨今FIREが話題として成熟するように、とかく「仕事なんてどうでもいい、給料分だけ働けば十分でしょ」という観念的な思想が広がる中、改めて突きつけられる綺麗事。就職を控える学生層だけでなく、仕事に疲れたプレイヤーの皆さんにもお勧めしたいジョブモノ漫画です。

引用ページから鑑みることができるように、「左ききのエレン(リメイク)」がエピローグフェーズに入って完結を目の前としている中、客層のバトンをしっかりと受け継ぐ意欲作とすら考えます。


あかね噺

一昨年の「マチネとソワレ」、昨年の「【推しの子】」。そして幻肢痛のように取り上げている「アクタージュ」。私自身、熱血バトルを演じてくれる芸能作品がかなり好きで、昨年の「【推しの子】」は非常に満足感が高かったのですが、今年のこれもかなり良い! というより週刊ジャンプという枠においての「編集部の、後釜を作るという意地」を感じました。

その身一つと噺だけで全てを表す、話芸の極致――「落語」。
この究極にシンプルなエンタメに魅せられた噺家・阿良川志ん太と、その娘・朱音。
真打昇進試験に挑む志ん太、その一席を目の当たりにした朱音が歩む、噺家の道は――
噺家たちが鎬を削る本格落語ものがたり、開幕!!
公式サイトあらすじより引用

才能型女性主人公、鬱屈した家庭環境から復讐するともいえる成り上がり……完全に取り返しにきてますよね。
といっても、それを抜きにしても丁寧。歴史から紡がれる様々な演目をキャラクターの性格に応じて活用する「落語は漫画でまだあまり使われてないジャンルだから奇襲できるだろう」なんていう安易な考えなどでは決してない素養を感じさせます。
そして、ここにきて魅力的なライバルが登場してきた。

高良木ひかる。声優という、演技に実力があるバックグラウンドであり、激情すると方言を隠せない熱さを持ちながら、努力家。ねちっこいまでに「天才型の主人公と努力型のライバル」かつ「女性対決」を対比する構図となっているのには、繰り返しとなりますが、「アクタージュ」を失った集英社の奪還の執念を感じるわけです。
ひかるが登場してまだ間もないわけで、どう転がしてくれるかはまだまだ未知数。しかし、16話〜19話にかかる4週中3度のセンターカラーとかいう超高待遇もあるし、人気を抱えた次世代の星扱いされていることは想像に難くない。ジャンプ本誌において現状一番楽しみにしている作品です。


ショーハショーテン!

もう一個芸能! あまりにジャンルがより過ぎてない!?と思うかもしれませんが許してください。こちらも面白いんだ。
ジャンルは漫才、かつ小畑健作画かつ、理論立てての漫才や芸能の構造解説をするあたりは、個人的には「バクマン。」を彷彿とさせるのですが、その感情は間違ってないと思います。バク漫才でしょう、これ。

「解説させられるジョークは悲しくなる」という意味の、そういう解説ではなくて、客層やネタ見せ順に応じたネタの扱い方とか、笑いに対する感度の考え方とか。視聴者側として言語化できなかった「面白い」「面白くない」の経験則についてプロはこのように理論立てて構築しているんだなという感嘆をさせられる。

この手の作品にあっては、どうしても作品中で見せなければいけない「ネタ」のクオリティが説得力となるネックもあります。しかし、ちゃんとしているネタである前提もありながら、舞台が「高校生同士の、お笑い界の甲子園出場のために鎬を削る」という設定であるのでプロクラスの脚本を出す必要はないわけです。ぶっちゃけ、そもそもの設定の根幹は「アマチュア」であり、例えば高校野球を舞台とした漫画に160キロの直球を投げる投手を出さないですよね、って話です。
動作や間、メリハリで構築する漫才を、紙面で100%魅力を発揮することは土台無理な話なんですよ。そのため「ネタが面白くない」というディスは、この手の作品には無理筋な下げ方かなと思います。

また、バクマンにおける見吉ポジション(読者目線ツッコミかつマネージャー)である、今作の花守先輩はとても魅力的ですね。やっぱりこの手のポジションには「業界に理解のある人」がしっくりくる。バクマンよりそのあたりは気持ちよく見ることができるかなという印象です。


ハイパーインフレーション

帝国の奴隷狩りによって、両親を失った少年ルーク。今度の奴隷狩りでは最愛の姉がオークションに出品されてしまう!! 絶望のドン底でルークが手に入れたのは、『体からカネを生み出す能力』だった!! オークションに参加するルーク──余裕で姉を落札か!? だが、この力には“致命的な欠陥”があって……!?
カネが、生命が、怒りが、暴力が、欲望が、『加速≒インフレ』し──
物語はハイパーインフレーションを巻き起こす!!
公式サイトあらすじより引用

去年も十分な魅力を煮えたぎらせていた作品でもありましたが、今年展開の贋札の流通をめぐるバトルは昨今稀に見る頭脳戦! あまりに面白すぎる!
連載当初にあっては「体から贋札を(射精のように)出せる」というギャグみたいな設定と、狙ってやってるコント的なバトルの影響もあって、どちらかというと往年のシュールギャグ漫画である「ギャグ漫画日和」に準ずるカルト的な人気があった印象ですが、その軸を保ちつつ、「贋札を世界に流通させたい主人公」VS「阻止したい保安官」の構図で行われるバトルの質があまりに高い。
そもそも、前提設定が「無から贋札が製造できる」だけなので、シンプルなんですよね。それこそ、デスノートクラスにシンプル。だからこそ、その一点をこうも二転三転できるのかという感嘆とがあるわけです。

ひっくり返されるたたき台の知識の時点でかなり明晰であり、それを読者が膝を叩くレベルの解決策でひっくり返す。作者は紛れもなく賢い、ということをまざまざと思い知らされます。


左ききのエレン(原作)

過去に「左ききのエレン」のジャンプ+リメイク版を取り上げていることは承知の上でこちらを。レギュレーション違反かもしれませんが!
そもそもジャンプ+版が、しっかりとした作画をつけた清書であるという解釈で行けば、こちらはラフ版。特に最初期なんて本当にネームクラスだったんですが、ストーリーそのものが面白すぎる一点で人気を博し続けており、27巻まで連載された今では懸念であった作画もめちゃくちゃいい! そして今年、作者のかっぴー氏による実質的な電子書籍無料配布で改めて通しで読ませてもらったことで、リメイク版との違いに唸り、ガチハマリ。

そうなると真っ当にジャンプ+版の先を見られる作品であり、少年誌側の表現規制のご都合をお構いなくぶった斬る過激さもしっかりあるわけです。

今年連載していた「目黒VSサニートライ 財前社長プレゼン編」の終始全てが面白く、現在やっている「アントレースVSシモンズゴズリング 買収編」も手に汗握る展開。
私自身、同作品にあってはエレンを軸とした青春群像劇より、光一を軸にした広告代理店のパートに強く心打たれているため、その辺りを満遍なく繰り広げてくれている今年の原作についてはハラハラドキドキと楽しませてもらっております。
常々思ってるんですが、この作品は本当に熱量と展開が時代劇そのもの。そもそもが00年代〜10年代という仕事的には猛烈とも称される時代を舞台としているので現在では考えられない命懸けの熱量の投下を見られるわけです。その点では、現代の時代劇として、私としては「半沢直樹」枠として、TBS日曜劇場で放映されてほしいんですよね。「日曜劇場 朝倉光一」を。

ええ、ええ、もちろんわかってます。既にこの作品は実写ドラマ化をされていることを。ただし、どうしてもそれは若手俳優の売り出しを目的とした普通の深夜ドラマにしか見えなかった。
もっと馬鹿みたいに仕事の「ヤバさ」にフォーカスした再ドラマ化を、期待している限りです。


ウィッチウォッチ

篠原健太。この作家は「スケットダンス」でも十分ギャグ漫画家としての一世風靡をしていたのですが、次作の「彼方のアストラ」似合ってガチSFとしての驚くべき力量を見せつけ、漫画読みを驚愕させました。
そんな中、本誌に帰還してぶつけてきたこの作品。「スケットダンス」の頃のキレと、「彼方のアストラ」よろしくしっかりとしたSF設定をちゃんとギャグに落とし込む設定調理度の高さを思い知る面白さです。

鬼の力を持つ少年・モリヒトは、魔女修行中の幼馴染・ニコの使い魔として同居することに―
ニコの魔法が引き起こす予測不能なトラブル、年ごろの男女の二人暮らし...前途多難で摩訶不思議な日々が始まる!!
公式サイトあらすじより引用

名作回はいくつもありますが、個人的には32話「茶道部代打」回と、37話の「体感速度が10倍になる魔法」回。その設定において起きるあらゆる事象をちゃんと落とし込むのは、「漫画として面白くしよう」の前に「現象としてどうなるか」ってのを頑強に煮詰めないと出てこない面白さなわけで、シンプルギャグであった「スケットダンス」では出し得なかった作者の力量をまざまざと感じ取れるわけです。
また、油断ならないのは、たまーにちゃんとバトルもやって、シリアスにやろうとすればやれますよという余地があること。本当に油断ならない、実力派作家としての強さを存分に見せつけてくれています。


今年取り上げたいのはこの辺り。多分、世間的なランキングに比べて「現代モノ」に偏ってる嫌いはあるのですが、いくつかは本家にも食い込んでそうかなと思っています。
皆さんの漫画読みの参考になれば嬉しいですね。それでは、対戦よろしくお願いします。

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