MMTと現代社会と人間心理について

最近MMT(Modern Monetary Theory)という「過剰なインフレにならないように制御すれば、財政赤字がいくら増えてもOK」なる異端の学説が注目を浴びているようです。いろいろと考えることがあったのでとりとめもなくまとめてみようと思います。

MMTとは簡単に言うと「借金なんぼでもしていいよ」理論

通常財政赤字は良くないもので、借金なんだからちゃんと返せるように黒字にしないといけないと考えるものです(財政規律)。しかし、昨今では日銀の異次元緩和のように政府は赤字国債を発行し、それを日銀が買うというようなことが行われ、国債残高は増える一方です。ヤバさを感じるのが普通の感性ですが、MMT主張派は過剰なインフレにさえならなければ全く問題ないというスタンスです。

財政赤字はなぜ問題なのか

財政赤字が増えるとインフレを招くと言われています。これは、MMT主張派も主流派も同意しているとのことです*1。過剰なインフレが起こると、ものの値段が急騰し、社会が成り立たなくなると言われています。そして、ひとたび過剰なインフレが発生し始めるともはや制御不能となると言われています。

なぜインフレは起こるのか

インフレが起こるのは、供給よりも需要が多い状態だそうです*2。財政赤字が増え、世の中にお金が大量に供給されるようになると、人がお金の価値を低くみるようになり、それによって通貨は人々の信用を失い、ひどい場合ハイパーインフレになるものと思われます。ここで、
 ・財政赤字増加→(景気対策等の施策を通じて)人々の収入増加→人々の消費増加(需要増加)→インフレ
 ・財政赤字増加→人々の通貨への信頼度減(いくらでも発行されて薄まるのでは?)→インフレ
の2つの要因があるように思います。つまり、需給関係に起因するインフレと、通貨の信頼性に起因するインフレの2種類があるように思います。

通貨の信頼性を失うインフレの発生条件

過去のハイパーインフレの例を見るに、極度の混乱状態にある国で、人々が皆政府がまともに機能していないという確信を持っているような状態でのみ起こるように思います。『不況を解消するために行われた金融緩和が原因でハイパーインフレが起きた』という歴史的経験は存在しないという指摘もあるそうです*3(ハイパーインフレーションについての議論)。なので、一旦置いておきます。

需給関係に起因するインフレについて

インフレは、需要>供給のときに起こると書きましたが、そもそも「需要」とは何かを問いたいと思います。需要とは、商品・サービスに対する欲求(およびその実現)であると思います。つまり、欲求総量に対して供給が間に合っていないときにインフレが起こるものと思います。ここから、今の日本のデフレマインドの原因について考察したいと思います。

日本はデフレ≒低欲求?? それはなぜか

私の仮説は下記2つです。
 ①高齢者の割合が高いから
 ②既にかなりの欲求が満たされているから
①はシンプルですが、本質的な気がします。年を取ったら、高級な料理を食べたり、高級車に乗り回すより孫と遊ぶほうがよっぽど楽しいと思います。お金があっても、大抵のことは一度は経験している可能性が高いし、保守的で現状維持的な思考が強まっていく(あくまで一般論、中央値の話ですが)ので、あまり欲求充足のための消費をしなくなる傾向にあると思っています。
②は体感なのですが、特にGAFAの製品・サービス群によって、相当量の欲望が充足せしめられているような気がしています。もちろん、それだけでは足りないのですが、死なない程度に生きていけますし、それなりに安く楽しめるものが揃っているように思います。
ここで、特に②について、現代社会の特殊性を論じたいと思います。

GAFAによる低対価(Apple除く)の欲求充足について

いままで、インフレは需要>供給で起こるということと、需要とは欲求とその実現であるということを書いてきました。欲求の実現とは、それを提供する立場からすると「価値創出」ということになろうかと思います。ビジネスとは誰かの期待に応え超えることであると聞いたことがありますが、「誰かの期待」というのは欲求と置き換えることができます。ところで価値創出は何によってなされるかということについての私の持論は、
 他者との情報格差を用いたリスクテイク
だと考えています。美味しいラーメンを提供する店は、店舗の出し方、材料の調達、調理の方法、提供の仕方、宣伝の仕方等の「情報」を持っているがために、他者と比較して効率的に人々の欲求を充足させる行動を取ることができるのです。「情報」とは、設備の物理的情報も含みますし、人の技能も含みます。ここで、現在のGAFAは卓越した情報収集・活用力で他の追随を許さないほど巨大になり、さらに多くの情報を収集・活用するようになっています。そして、ますます効率的に人の欲求を充足せしめるように動いています。結果として、GAFAのような巨大企業がますます人の欲求を充足(価値創出)できるようになっていく代わりに、普通の人々(企業)が人の欲求を充足(価値創出)しづらくなっていっているように私には思われます。情報を持つものがさらに大きな情報を得て、巨大化し、格差が拡大していく構図があるように思われます。このことが、金融緩和を行ってもインフレにならない理由の一つではないかと思われるのです。つまり、普通の人が価値創出しづらくなっていくことこそ根本的な問題であるように思われます。

じゃあどうするのか

正直わかりません(笑)。人は流れやすい方に流れるので、現在価値創出できていないギリギリの人に何か訓練を受けてもらって価値創出できるようにするというのは結構難題であるように思います。ベーシックインカムを行えるほど労働力が(ロボット含めて)足りているわけでもないですし・・・。全地球的な富の再分配として巨大IT企業に国際協調して課税するというのは良い方向性なのかもしれません。しかし、これは価値創出できていない人ができるようになることを促すわけではないので、構造的な解決とは言えないかもしれません。かかる状況下だとMMTはなんだか魅力的に感じてきてしまいます。ただ、「無制限に借金可能」だとちょっと怖いので、「適度に国の借金帳消し」っていう感じで進むのではないかなと思っています。要するに、国債金利のマイナス金利をさらに深掘っていくイメージです。利子を付けてお金を返すはずが、お金をもらってお金を返す(返す金額が減る)というちょっと信じがたいような状態です。やがて住宅ローンもマイナス金利(お金もらってお金借りる)の時代が来るかもしれませんね(願望)。


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