雨宿り


「女なんてクソだ。」
そう思いながら、涙が溢れないように、空を見上げているのは、僕があの女に拒絶されたからだ。

空は誰でも平等に僕らと繋がっているし、受け入れてくれる。あの女と違って…

そう思っていたのに。
しばらく経つと、突然雨が降ってきた。天気予報は見ていなかったけれど、雨が降るなんて、少し前の空の様子からは想像もつかなかった。

家まで走ろうかと思ったけど、少し遠くまで散歩してきていたので、帰るころにはずぶ濡れになりそうだった。仕方がないので、急遽近くの公園の屋根付きのベンチで雨宿りをすることにした。

「クソッ、どうしていつもこう、うまくいかないんだ…」
思わず独り言と、ため息が出てしまう。

何をやっても上手くいかず、努力をしても結果は出ない、誰も僕を受け入れてくれない。家族も、就活でも、恋愛でも…
失敗してばかりで、失敗から自信が無くなって、自信が無いから失敗が増える負のループから抜け出せず、次第に怖くて何もできなくなっていく。
つまらない日常。
自分を認めて欲しくてSNSに虚言を吐いたり、空に助けを求めてふらふらと散歩するだけ。

あの女は、今日の空のように俺を突然拒絶した。
これまで良好な関係を築いていたのに、僕が恋愛感情を見せた途端、二人の距離は遠くなった。あの女は僕の気持ちを受け入れなかった。
彼女の優しいところが大好きだった。
でも、あの女の優しいところが、憎かった。
優しい嘘。
それはお前が僕を傷つけないために吐いたんじゃなくて、お前が自分を傷つけないために吐いた嘘だろうが。
何度思い出しても、悔しくて涙が出る。

地面を見つめて泣いていると、透き通るような美しい女性の声が聞こえた。
「あなたも雨宿りですか?」
顔を上げると、少し雨に濡れた綺麗な20代前半くらいと思われる女性が目の前に立っていた。

「どうして泣いているんですか?」

「人生がなにもかもうまくいかないんです。就職活動でも、恋愛でも、空も、何も僕を受け入れてくれなくて。」

この返しに女性はなんと答えたか、鮮明には覚えていないのだけれど、彼女は僕を決して否定しなかった。気付けばどんどん彼女に気持ちを吐露したり、いろんな話をしていた。

そして僕はいつの間にか、一瞬のうちに彼女のことを好きになっていた。
でも、その想いが実を結ぶことはないのをわかっているから、辛かった。
どれだけ良好な関係を築けていようが、笑顔を見せてくれようが、俺が恋愛感情を見せた途端、女はどうせ拒絶する。

「どうせ一期一会というか、もう貴方と会えることはないだろうから伝えます。伝えて逃げます。返事は要りません。
貴方のことが好きです。貴方は僕の話を否定せずに聞いてくれた。受け入れてくれたような気分になって、それに、貴方の落ち着いた声と会話しているととても落ち着いて、貴方の笑顔を見ると、雨なんか気にならなくなるくらい気分が晴れて、むしろずっとここにいたいから、雨が降り止まなければいいのにとすら思いました。こんな素敵な人と僕は出会ったことがない。
ごめんなさい、気持ち悪いですよね、こんな見ず知らずの、何の取り柄もない男に突然恋愛感情を持たれて。本当に、ごめんなさい…でも、改めてこれだけは伝えさせてください。あなたはとても素敵な人だ。」

そう言って、まだ止んでいない雨の中に逃げるように、女の人に背を向けた時、
「辛かったんですね」

振り返ると、ベンチに傘が一本置いてあって、女の人の姿はなかった。
全部嘘だったみたいに。

その傘を差しながら帰る途中、足元が地面に反射する雨に濡れて気持ち悪かった。

僕は期待しすぎていたのかもしれない。

傘を差したって全ての雨粒から身を守れるわけではないし、僕の全てを受け入れてくれる人間なんているわけなかった。

みんな常に雨に晒されて足元を濡らしながらも、平気な顔をして前に進んでいる。たぶん、現代の若者の日常なんて、そんなものなのだろう。

雨が止むまで雨宿りしていたって仕方がないし、雨が降っていたって足元を濡らしながらも、前に進むしかない。僕にできるのは、この傘を壊れないように、ずっと大切にすることだけだ。

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