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監査法人を辞めたころのこと

先日X(旧Twitter)で、てりたまさんが下記のようなポストをされ、多くの方が色々なご自身の経験を述べていました。私は監査法人に13年勤務して退職したのですが、大半の方は10年以内に、前向きな理由で退職されたことを回答されていました。私が監査法人を退職し、会計監査から離れたのはもう10年以上前のことで、当時のことは忘れかけていましたが、色々と思い出したので、長期的な人手不足に悩む現在の監査法人とはまた異なる闇の時期のことを書き記してみたいと思いました。あまり前向きな理由で辞めたわけでもないですし、組織に対して恨みがましい思いもないと言えば嘘になりますが、多くの人の前向きな話を読んで、そんなに前向きでなく辞めたことを思い出して落ち込んでいる方がいたら、少しは励みになるかもしれません。

時代背景

私の個人的な話の前に、当時の監査法人を取り巻く世界の状況について簡単におさらいします。

2001年 エンロン事件、全米売上7位のエンロン社の会計不正が発覚、倒産
2002年 エンロンの会計監査を行っていたアーサーアンダーセン解散、米国SOX法制定
2005年 カネボウ粉飾決算
2006年 会計士試験制度変更、J-SOX及び四半期報告制度の導入が決定(2008年から)
2007年 カネボウの会計監査を行っていた中央青山監査法人が解散、会計士試験の実質的な合格者数が過去の2倍程度に
2008年 リーマンショック
2009年 大手監査法人の一部でリストラ開始
2011年 オリンパス事件
2012年 全ての大手監査法人でリストラ実施
(初版で会計士試験制度変更を2005年と記載していましたが、2006年の誤りでした、お詫びして訂正いたします)

会計士試験の合格者数

2006年に試験制度変更
2006~2008年の合格者には大量の会計士補(旧二次試験合格者)が含まれている。会計士補を除いた合格者数は
2006年 1,421名
2007年 2,739名
2008年 3,045名

こうして時系列で改めて眺めてみると、2000年代初頭はビジネスの世界で大きな粉飾事件があり、それに対応する形で規制の強化や会計士の増員が図られたが、リーマンショックにより、人件費増を吸収する余力がなくなり、監査法人がリストラを実施するという、なんともやり切れない時期だったことが分かります。
会計士試験受験生もこの波に翻弄されていました。気の毒だったのは2002年~2005年ごろに旧二次試験に合格した人たちで、彼らは旧三次試験がなくなった代わりとして今の修了考査を受けなければならないだけでなく、旧二次試験に相当する科目の一部も受験しなければならないとされました。
また、会計士の数の増加が必要ということで合格者が増加した後にリーマンショックに端を発する不況が訪れ、試験に合格したのに監査法人に就職できない人が大量に発生しました。

監査法人退職前夜

20世紀の終わりに監査法人に入った私はこのような激動の時代を監査法人で過ごしたはずなのですが、自分の所属部署が上場企業の少ない部署であったこともあり割合のんきな若手時代を過ごしていました。途中で三次試験に一度落ちるなどの失敗もありながらも、法人の英語研修制度をフル活用して英語力を上げて海外赴任するなど、充実した日々だったと思います。
海外(米国)では当地の監査手法の洗礼を受け、近いうちに日本にも同じことが要求されるようになるだろうと思い、日本でもグローバル水準の監査をマネジャーとしてリードしてキャリアを積んでいこうと、当時は大まじめに考えていました。
ところが、急遽、役所に出向しろという命令が下り、有無を言わさずにすべてのクライアントを放り出して、内閣府というところに出向することになり、しばらくは嵐のような日々を過ごすことになりました。役所では優秀な上司や同僚に恵まれ、充実した仕事ができましたが、監査法人のマネジャーの仕事とはかけ離れた内容であったことも事実です。なお、当時は役所への出向も海外赴任も必ずしも昇進には有利に働かない雰囲気がありました。役所時代のことは下記ツイートにいろいろ書いてます。これがバズって200人くらいだったフォロワーが一気に2,000人を超え、Twitterにドはまりするようになりました。

退職へ

出向から戻ったのが2011年の春で、リーマンショックからの不況に東日本大震災もあり、日本全体が暗澹とした時期でした。私の所属していた監査法人はリストラに手を付けるのが遅れ、この時期に様々な施策が発表されました。

  • 給与テーブル引下げ

  • 同一職位に長期滞留した場合、昇格可能性をはく奪し、順次給与を下げていく

  • 同一職位に一定年数以上の職員への退職金割増と再就職サポートサービスの提供

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