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登山動画は誰が見ているのか

ぶっちぎりのチャンネル登録者数を有する「かほの登山日記」に憧れて登山動画を始めた人はきっとめっちゃ多い。

僕は、自分で登山動画をやってみようと思い立つまでほとんど人の登山動画を見たことがなく、別ジャンルでキャストが自己主張せず商品だけをテンポよく見せていくチャンネルが何万人も登録者を集めていることから、「登山動画界のそういうポジションを狙おう」と考えていた。

みんなヒトではなく山を見たいはずだ――と。

しかしこの考えは、どうやら二つの意味でズレていた。

第一に、そういう路線は、
・専用カメラを使わない
・撮影に時間をかけない
という、僕のスタンスとあまり相性が良くない。

iPhone13はカメラとしては相当優秀なのだけれど、根本的に僕自身の登山のモチベーションが「すっげぇ景色を見たい」ではなく、ゲームの攻略対象的な見方をしているから、すっげぇ景色を見たいと思っている他の動画投稿者に気持ちの面で勝てるわけがない。

iPhoneは景色よりズーム・物撮りに強いと思う

第二に、どうやらみんな、ヒトが見たいらしいのだ。

楽しそうにしている姿や、苦しんでいる表情が見たいらしい。知識でも情報でもなく、何なら景色よりも、ヒト。グルメ番組が近いだろうか。おいしそうな料理の映像だけではなかなか成立しない。アクセス情報や健康効果や歴史的背景や開発秘話を添えてもまだ弱い。結局のところ、ヒトがうまそうに食べているシーンが絶対必要になる。

グルメ番組は「おいしそう」→「自分も食べてみたい」まで気持ちが昂らなくてもよくて(紹介された側はぜひそうなってほしいだろうけれど)、「おいしそう」で終わって満足できる。芸能人が食べているのを見て、自分も食べたような気になれる。料理だけの映像では明らかに弱く、顔を出さず一人称視点でカメラの下に食べ物を運ぶのでもなかなかその錯覚は生み出せない。

その錯覚を、一人称カメラで創出した数少ない成功例がきっとリロ氏なのだ。すごく上手い。

僕が当初イメージしていた「キャストが自己主張せず商品だけをテンポよく見せていくチャンネル」は、ヒトという邪魔者がないから成功したのだと以前は思っていたけれど、改めて見ると演出が上手い。成功には必ず理由がある。淡々としているだけでウケるはずがなかったのだ。

さて、やっと本題。登山動画は誰が見ているのか。

僕の予想では、ボリューム層は、現役で登山に熱中している人ではない。

根拠は三つある。第一に、現実として、山は動画で見るより自分で登るほうが面白いからだ。登れる足がある人は自分で行く。これから登る山の予習として見る人もいるだろうけれど、自分は動画で見てしまったらネタバレになると感じるほうだ。

白山にはもう行ったから、白山の動画は見られる

第二に、人気チャンネルのコメント欄を俯瞰してみると、「私は登山はやりませんが」とか「その山には昔行きました、懐かしい」というコメントが目立ち、しかも多くのGOODを集めているからだ。つまり、山を(少なくともまだ)やっていない人と、山を昔やっていた人がボリューム層と考えられる。

おそらく後者のほうが多い。第二次登山ブームでわっと山に行って、最近はもうあまり登らない人たちだ。彼らにとってはネタバレにはならないし、昔自分が登った山に若い人が楽しそうにあるいは苦しそうに登っている姿はすごく需要がある。

イメージとしては、レトロゲームのチャンネルに近い。最強武器ランキングとか凶悪ボス10選とか、現役でプレイするための参考に見る人はあんまりいないはずだ。攻略動画というテイでも、その実態は「〜だったよね」と懐かしむためのコンテンツである。

第三に、僕のチャンネルは比較的現役の登山者に登録してもらっているほうだと思うのだけれど、それでも知識系の動画は伸びにくいからだ。たとえば最近公開した二つを比べると……

相当手間のかかった前者より、知識としては別に大したことを言っていない後者のほうが圧倒的に伸びている。

登山動画を始める時、多くの人が「他の登山者の参考になる動画を作ろう」と考えるだろう。僕もそう考えた。たぶん、その路線では厳しい。チャンネル登録者1000人なら行けると思うけれど、10000人を超えてメジャー化するには、現役の登山者じゃない層に届ける必要がある。

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