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環境思想のための日本思想史の三人

【森谷さんの勉強部屋】

環境思想のための日本思想史の三人


二宮金次郎を理解するには、金次郎のことだけを学んでも分からないでしょう。他の思想家との比較をして、日本の思想史の中に位置づけることが大切です。

金次郎を理解するのに、日本思想史における特異な人物を三人を取り上げたいと思います。安藤昌益、三浦梅園、そして二宮金次郎です。この三人をセットにすると環境思想との関係を浮かび上がらせる事ができます。

しばしば「日本は自然と調和する思想で、西洋は自然と対決する合理思想てある。」との言説があります。これば間違っていると思います。ある程度の大きさを持つ文明ならば、その中にあらゆる思考のセットを一揃えもっている筈なのです。日本にも合理思想があり、神秘主義もあり、アナーキズムもある・・・そう捉えた方が確かです。

三人とも、自然と人間について考えたこと、そして「体系家」であること、円を用いて説明しようとした点が共通しています。そして、それぞれ時代の危機に高い立場から、根源的改革を試みた点でも同じです。

安藤昌益の構成概念として有名なのは「直耕」。自ら大地を耕し食料を生み出した者のみが正しい生き方で、支配者や聖人君子などは、人々を言葉で騙して生きる「不耕貪食の輩」であると糾弾して、あらゆる権威を否定したアナーキストの祖みたいな人です。日本思想史では希有な鬼才といって良いでしょう。孤高の独立峰です。医師でもあり、自然に関する実証的な捉え方も先進的でした。

彼を学ぶことにより、思想をリセットする事ができます。孔子も釈迦もあらゆる聖人君子を否定したので、当然ながら弾圧され、もう少しで、歴史から消去されかかった思想家です。

三浦梅園は、日本の合理主義の祖とでもいう理論家でした。宇宙のすべての根源にあるものから、どのように世界が構築されていくかを円の図で示そうとしました。彼のような思考ができる思想の素地があったからこそ、日本が西洋の科学や合理思想を素早く取り入れることができました。その思考の基礎に数学の訓論の思考があります。

安藤昌益で、リセットした思想を、三浦梅園で再構築すると、日本思想史の合理思考が導かれるのではないかと思います。

覆い尽くしていた迷妄の網を安藤昌益で破壊して、三浦梅園で再構築したら、次にすることは、現実と体系的理論をつなぐことです。現実と究極を切れ目無くつなごうとした、実践家・プラグマティストが二宮金次郎です。彼は高度な思想家であると共に、農政の実務家であり、教育家でもありました。天に昇り究極から地上を見回せたら、地上に降りてくる実務作業を誰かがしないといけません。思想を実務の世界につないだ人物が金次郎です。

三人とも徹底して追究したのが「自然と人間」についてでした。環境課題が山積して、環境思想が世界を決するほど重要になっていく昨今、この三人を外して環境思想は語れない筈です。
 
内村鑑三は代表的日本人として、西郷隆盛・上杉鷹山・二宮尊徳・中江藤樹・日蓮の五人をあげています。「情熱」という点で、内村鑑三が共通する人を見つけ出したのかも知れません。

合理性、言葉の天才、体系性の視点で、5人を選べば、私は上記の 安藤昌益、三浦梅園、二宮金次郎の他に空海と道元を選びたいと思います。情熱が必要だった明治期に、選ばれた5人が選ばれましたが、現代のように冷静に考えなくてはいけない時代には、安藤昌益、三浦梅園、二宮金次郎、空海、道元を学ぶことをおすすめします。

どちらにも選ばれる金次郎は、情熱と論理の両方を兼ね備えた人ということになるのでしょう

三人とも、現代風にいうと、所謂「理系頭」。数理や合理思考に強く、そして否定神学者であった三人です。文系頭には少しとっつきにくい三人ですが、世界全体を隅から隅まで形づけようとした「体系家」です。現代の危機を乗り越えるためにも、この三人を日本思想史から選び出して学んでもらたいと思います。



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