Mapboxの新CEO就任に思う

3月1日と、もう2週間程前のニュースであるが、MapboxのCEOが交替した。創業者で、これまでほぼ10年間Mapboxを率いていたEric GundersenがCEOの地位を退き、新たにPeter SirotaがCEOに就任するとのことだ。一方、EricはChief Strategy Officerとして会社には在籍するものの、経営の決定権を失うため、影響力は格段に小さくなるだろう。

スタートアップ企業では、投資者が取締役の選任権を持つことが一般的であり、今回のCEO交替は投資家の意向が強く働いていることが想像される。

PeterはLinkedInのプロフィールによれば、Amazon AWSでの経験が豊富で、3年弱前にMapboxにエンジニアリング部門の責任者として採用されている。地図サービスに関する知見はEricほどでは無いように見受けられるが、チームをまとめ上げて事業を拡大していく経営手腕が見込まれたのだろう。

今回のCEO交替は、Mapboxが、OSMやFOSS4G(OSGeo)という地理空間情報分野のコミュニティに支えられる企業から、ロケーションサービスのプラットフォーム事業の企業として、フェーズが完全に移ったことを如実に表している。

私が知っているMapboxは、Leafletから始まっている。2013年、イギリスのノッティンガムで開催されたFOSS4G 2013の場で、開発者であるでVladimirによる発表を聞いて強く関心を持った。当時Mapboxは、OSMを採用した地図配信サービスを手がける、とても小さなスタータップだった。その後は、時々Webサイトを覗いてみて、少しずつではあるが顧客基盤を拡大しっている様子を確認して、(Tangram を開発していたMap Zenが経営破綻したこともあって)なんだかホッとしたりしていた。実際、ブルムバーグの記事にもあるように、しばらくは、ささやかながら利益を計上していたようだ。

私は、彼らの地図表現技術(デザインだけでは無く、それを可能とするツール群を開発するエンジニアリング力)のイノベーションに対してだけでなく、コミュニティと共に歩むオープンなカルチャーに対しても、常々尊敬の念を抱いてきた。これは間違いなく、創業者のEricがリードしてきたはずだ。

私は2018年にサンフランシスコで開催されたMapboxのカンファレンスに参加している。そこでの展示や発表の大半が自動運転関連で、あのLeafletやOSMについては、展示も発表も無く、あれれ?と面食らった記憶がある。その頃から、Mapboxは、企業の成長の方向を「地図サービス」から「自動運転」や「モビリティ」に変えていったようだ。

MapboxはCrunch Baseによると、これまでに350億円程の資金調達をしており、そのほぼ半額は2017年のシリーズCにおいて、ソフトバンクのビジョンファンドから得ている。ソフトバンクに限らず、投資家からはMapboxは「自動運転銘柄」だという強い期待がなされているようだが、その市場はまだまだ先である。売上高については、100億円にまだ到達していないことが先ほど紹介したブルムバーグの記事で明らかにされている。この期待値と実績値の乖離は、投資家から見れば、許容しがたいものだろう。

今回のCEO交替は、昨年Mobile SDKとMapbox GL JSのライセンスが相次いでオープンソースライセンスからクローズドに変更されたことと、同じ方向の流れだと思われる。コミュニティやディベロッパー志向から、マーケットや顧客志向への転換だ。創業者のEricが前者の立ち位置であったとすれば、新しくCEOになったPterは後者を期待されているだろう。Peterは、今後組織や製品・サービスについて、様々な変更を果断に行っていくはずだ。おそらく、日本でのMapboxの事業展開にも影響は出るだろう。

「自動運転プラットフォーマー」としての成長を期待されているMapboxは、コミュニティと共に歩む「地図の」Mapboxとは別ものだ。個人的には寂しさを感じるのだけれども、それはそれとして、これからの社会で欠かせないサービスを提供する企業として、確実に成長していくことを楽しみにしている。

その一方において、私は地理空間情報分野での「次のスタートアップ」を見つけて、支援していこう。それが私の役割だ。

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