見出し画像

AppleマップのWeb版が登場した

AppleマップをWebブラウザで見ることができる「Web版」(正式には”Apple Maps on the Web)がβリリースされた。長年Appleマップのユーザーでもある私にとっては、「ようやく出たかぁ」という思いだ。


β版リリース

ラベル表示の多くが英語表記となっているが、元のデータは既に多言語対応されているものが大半である。従って遠くないうちに日本語ラベルが優先表示されるだろう。また、OSのライト/ダークモード設定によって、地図のモードが一律に決まってしまうが、これもMacOSでのマップアプリと同様に、切り替え設定ができるようになるだろう。

大阪梅田付近
iPadのSafariブラウザで表示

「結局はGoogleマップ」、を断ち切る重要なピース

Appleは自社の製品やサービスの中でのユーザー体験を完結させようとしてきたが、マップもその一つだった。Macユーザーにはネイティブのアプリとして提供されているが、メッセージやメールなどのテキストにURLを貼り付けて知人とシェアしたい場合には全く役立たずだった。相手がMac製品を使っているかどうかわからないも多いので、Googleマップのリンクを貼り付けることになっていた。

また、あまり知られていないと思うが、Appleマップでは、Googleマップと似たような、お店のオーナーが営業時間やメニュー写真などの情報を登録して更新していくことができるApple Business Connectというサービスを提供している(ただしGoogleマップのような広告を出すことはできない)。
そのオーナーが自分のWebサイトに地図を埋め込もうと思っても、AppleマップはWebサイトに埋め込めないので、結局はGoogleマップを使用することになってしまう。

このように、Webというオープンな世界では、「Web版」の無いAppleマップはで初めて解消される。

MapKit JS

「Web版」は、地図表示、施設検索、ルート検索が備わっている一つのサービスであるが、同時にMapKit JSという、MapKitのように地図をアプリに埋め込んだり主題をオーバーレイすることや、静的な地図画像を取得するなど、ディベロッパー向けのAPIを提供している。

このMapKit JSは、MacOSやiOSに限定されず、Windows、Androidのプラットフォームで、ブラウザもSafari以外の、例えばChromeでも動作する。

マップを活用したWebサイトがどのくらいサービスリクエストを行っているのかをモニターするダッシュボードも提供される。

なお、MapKit JSは1日25,000リクエストまでは無料で、それ以上になるとAppleにコンタクトを取るように記載されている。店舗や施設案内での利用であれば、多くが無料の範囲内に収まるはずだ。

重い腰を上げた理由

しかし、どうしてこんなに遅くなってしまったのだろうか。

技術的にはそれほど難しくはない。施設検索やルート検索はサーバー側で行うため、ネイティブのアプリと同じものを使えば良い。地図描画はバックエンドサービスとしては出来上がっているので、Webブラウザに対応したレンダリングライブラリ(例えば、MapLibre GL JSのようなもの)を開発すれば良い。これもそれほど難度は高くないはずだ。

次に、ライセンスの問題も多少影響しただろう。Appleマップに表示されている地図や施設等は、Appleがゼロから測量や調査したものとは限らない。むしろ多くはデータを提供する企業から購入している。その場合、「Web版」に広く展開するための許諾を得る必要も発生する。データは世界中から調達しているので、契約件数もかなりの数に上ると思われ、必然的に時間がかかってしまう。ただ、手間はかかるものの、何年もかかるとも思われない。

製品戦略の変更によるものか

そこで考えられるのは、製品戦略の変更だ。ユーザーに閉じた戦略で陥っていた「結局はGoogleマップ」問題を解消すべく、マップをWebというオープンなプラットフォームに提供することで、行き先探しや移動に絡むユーザー体験のループを(Googleマップなどに渡さずに)完結させようという戦略に転じた可能性である。

iOSのユーザーが必ずしもMacを使っているとは限らず、むしろWindowsのパソコンを使っている人の割合の方が多い。Appleはそういう人向けに、iCloud、Apple Music(iTunes)、Apple TVをWindowsでも利用できるようにしている。今回マップの場合も、こうした流れと似ている。

地図利用にどのようなインパクトを与えるか

さて、これが今後Webでの地図利用にどのようなインパクトを与えるだろうか。
少なくとも、従来のAppleマップ利用者へのメリットはある。URLを貼り付けてシェアしたり、わざわざネイティブのアプリを立ち上げなくても常時ブラウザのタブにマップを表示させておけば煩わしさもない。

ビジネスオーナーもAppleマップを組み込んだWebページを作成するモチベーションが湧くし、WebデザイナーもAppleならではの美しいフォントやCartographicデザインを活用できる。ディベロッパーにとっても、Googleマップ一択で退屈していたところを刺激され、腕が鳴るだろう。

時既に遅し?

とは言え、時既に遅し、という感じも否めない。「別にGoogleマップで良いじゃない?」と思う人々の考えを変え、Apple製品・サービスの愛用者の枠を大きく超えて広がっていくかどうかは、楽観的では無いと思う。もちろん、一人の愛用者としては、広まってもらいたいが・・・

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?