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なぎちゃんのこと。

2023年10月21日(土)
富山県射水市のCaféしろがねさんで、『諾子、語ル記ス。』というひとり芝居公演を行いました。

タイトルの諾子は、清少納言の名前とも言われる"清原諾子"から。
諾子の話をするにあたって、一度半年前に遡ります。
森田翠は、『花あわせ』という朗読会を開催しました。春の花に纏わる作品群を朗読する、というわかりやすい内容でしたが、それぞれの作品にこっそり色が割り振ってありました。ご来場者の方に、入口で好きな色の宝石を選びとっていただくのですが、選ばれた数の多かった色の作品を3つか4つ読む、という仕掛けでした。

実際に選ばれた宝石。
どの色がどの物語かは、開演まで秘密。

その物語たちの中に、『枕草子』の「木の花は」の章段も混ぜ込まれていました。
実は、「木の花は」だけは得票数が少なくても読む構成にしていたのですが、2回の公演両方ともで、レギュレーション違反することなく、来場者の方々の無意識に選ばれた上で、読むことができました。
さて、この「木の花は」、原文をそのまま読むのではなく、この日のための"花あわせ訳"で読みました。
その訳文をつくってくれたのが、森田翠の友人"なぎちゃん"です。

ありがたいことに、この花あわせ訳の「木の花は」が、ご好評いただいたので、なぎちゃんの書いたものをもっとたくさん知ってほしいと思った森田翠がセッティングしたのが、10月21日の会場です。

『諾子、語ル記ス。』のあらすじには、"わたしの大好きな友人、なぎちゃんの話聞いてって"とあります。いよいよ、なぎちゃんお目見えです。
でも、森田翠のひとり芝居。
広報打った時点で、森田翠=なぎちゃんなんだろうなとバレバレです。
でも、そこって実はそんなに大きな問題じゃなかったのです。


当日ホスト側だった3人分のネームプレート

何故なら、わたしの目に映った、見たいと思った、知ってほしいと思った"なぎちゃん"の姿を共有したくてつくった作品だから。
全編通して語っているのは「自分を清原諾子だと言う森田翠」です。

この作品、語り(芝居)パートと朗読パートがあるのですが、語り部分は、森田翠の記憶と清原諾子の記録を重ねながら展開します。
また、朗読パートは「花あわせ」のときと同じく、枕草子のオリジナル訳を読みました。

<朗読した章段>
第65段 草の花は
第177段 宮にはじめてまゐりたるころ
第175段 村上の先帝の御時に
第280段 雪のいと高う降りたるを
第49段 職の御曹司の西面の
第130段 頭弁の、職にまゐりたまひて
第 78 段 頭中将のすずろなるそら言を聞きて

けっこう多いですね。
ちなみに、朗読した部分以外も、手書きしています。

公演で使用した草紙。全部手書き

『花あわせ』の「木の花は」とつがいにするために、「草の花は」でスタート。そこから、翠の話を織り交ぜつつ、諾子が宮様(中宮定子)のサロンに勤め始めた頃の思い出話。宮仕に憧れたきっかけや、大好きな宮様自慢と続きます。また、諾子は殿方たちとの理知的で雅やかな駆け引き的やりとりも有名なので、藤原行成、藤原斉信とのエピソードを取り上げました。楽しげなエピソードそのものを知ってもらいたいという意図もありましたが、『枕草子』の中での二人の描かれ方に触れたかったのです。行成様も斉信様も、宮中で働く殿方ですから、政治的なことを優先した行動をされることもあったでしょう。けれど、『枕草子』の中では、行成様はちょっと(だいぶん)変わっているところと、実直な面にフォーカスされ、「遠江の浜柳...切っても切れない仲でいましょう」と固い友情を誓い合った仲だと書かれています。斉信様に関しては、風流男としての姿に光が当てられています。『諾子、語ル記ス。』の中では、「ほかにどんな顔を持っていたとしても、宮様サロンで二人が見せた姿が、サロンにいるわたしたちに見せたい姿なのだと思うから、その面だけを書いた。」と位置付けています。また「見せないようにしている面をあえて書く必要はない。わたしにだってそういう面があるし、人のことだけ暴くのは無粋だ。」とも言わせています。

前述しましたが、森田翠も同じように、自分が捉えたなぎちゃんの姿を知ってほしいから、その面にだけ焦点をあてています。
清原諾子が清少納言の本名というのも、諸説あるうちの、ひとつ。でも、わたしがそう呼びたいからなぎちゃんって呼ぶ。
遠い昔、今めかしくてきららかなサロンがあって、その真ん中にはいつも宮様がいらして、その側には、機転が効いて派手好みなわりに恥ずかしがり屋ななぎちゃんがいた。
そんな光景が、この物語を共有した人たちの心に息づいたら、当時の情景は何度だって蘇る。

…と、思っているので、『諾子、語ル記ス。』は、繰り返し上演する意味と意義があるなって、考えています。
そのうち、また何処かで、諾子が記したものを、翠が語りますね。

会場Caféしろがね店主の春さんと

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