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ボブディラン 欲望
最近、感受性が鈍っているようだ。音楽で心を揺さぶられるくらい感動することが減っている。音楽配信やYouTubeのおかげで、次から次へと好きな音楽を享受しているのに、だ。あちこち手を出すあまり、かえってどれも浅いのだと思う。
なんでもネットで調べて、ファスト知識で済ませている習慣が良くないのだと思う。
音楽を聴いて心が動いたのか?
経験や思い出と共に心は動いたのか?
それだけ心は豊かなのか?
聴き漁ったり調べたりして頭でっかちになるばかりで、感受性が鈍ってはいないのか?
ボブディラン「Desire(欲望)」 1976年
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このアルバムが好きな理由は、
人と人の緊迫感を感じるから。
人と人のリアル、情熱を感じるから。
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ディランの中では異色作だという。無名のヴァイオリニスト、スカーレットリベラの、歌ってるような演奏に心を揺さぶられるのは、なぜなんだろう。
彼女は、後にレコーディングの様子について証言している。
自宅に帰って聴き直し、別のことを試してみる時間などなかったのです。その場で試し、2テイクで完成させる必要がありました。1テイクの時もあったのです。
『Desire』のセッションでは、ディランはまったく指示を与えてくれませんでした。No directionでした。いったんスタジオに入ったら、まさに「泳ぐか、それとも沈むか」という状況だったのです。ですから私は「泳ぐ」ことにしました。
リハーサルもなく、一発勝負に近かったのだろう。それは無名の女流ヴァイオリニストが、ある日偶然にもディランに街で声をかけられ、セッションに誘われるというウソのような逸話であったとしても、彼女はこの信じられないほどのチャンスに、出たとこ勝負に、勝ったのだ。
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それからもうひとりの主役、当時まだ無名に近いエミルーハリスのヴォーカルも素晴らしい。後のインタビューで彼女は証言している。
彼のレコーディングでは楽譜はないしキーはおろか曲名さえ知らされない。彼がやおら弾き語りを始めると彼の手元と唇の動きに最大限の注意を払い合わせていかなければならない。なぜならそれが後にも先にも一回きりのレコーディングになるかもしれないから”...
このアルバムのために、ニューヨークで集められたミュージシャンは、デビューまもないエミルーハリス以外は、皆無名だっだ。ロックスターのディランとぶっつけ本番なみにレコーディングをするという緊迫感の中で生まれた音楽は、ラフでザラついた質感で、洗練されていないが、かえって熱いラテンミュージックの雰囲気を創り出した。
激しい歌、荒いコーラス、情熱的なヴァイオリン、郷愁、怒り、別れ、それらが、飾り気なく力強く心に響いてくる。
やり直しをしながら作るのではない、たった一度、二度とない瞬間に賭ける無名のミュージシャン達の、渾身の演奏が心に響いてくる。
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一曲目の「ハリケーン」の激しさはどうだ。
躊躇しない激しい怒りだ。
「オーシスター」の哀しみはどうだろう。
エミルーハリスの歌が魅力的だ。ヴァイオリンもエキゾチック。
オーシスター、コーヒーもう一杯、サラ という3曲のバラッドがあって、1枚のアルバムにこれほど素晴らしいバラッドが三つもあっていいのだろうか。
モザンビーク、ドゥランゴのロマンス 、ブラック・ダイアモンド湾 という3曲のミディアムテンポの曲があって、1枚のアルバムにこれほど素晴らしい異国情緒溢れる曲が三つもあっていいのだろうか。
そして、激しい怒りのハリケーンで始まり、妻へのラブソングのサラで終わる。
最後まで多彩でありかつ統一感もある。
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これより3年前にディランは、自宅にまでファンやマスコミに追いかけられる状況に危機感を感じ、人気ロックスターであることを自ら放棄するため「わざと売れないレコードをいくつか作った」と語っている。
そしてこの「欲望」では、ディランは何を求めたのだろう。
私の勝手な想像だけど、いったんすべてを手放し、本来の自分の感受性を取り戻そうとしたのではないかと思う。だから、純心で、売れる術を知らない無名のミュージシャン達と共演したのだと思う。ロックスターを捨て、音楽ビジネスから離れ、失いかけていた心の豊かさを求めて、かつての多感な自分へ、無名のミュージシャンの世界へ、自ら飛び込んでいったのだと思う。
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