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ブックレビュー『天皇家百五十年の戦い』江崎道朗著

四年ほど前、江崎道朗先生の『天皇家百五十年の戦い』を読んだ。非常にたくさんの学びがあり、新たに知ったことも多かった。改めて、当時ブログに書いた感想をまとめ直しておきたい。

一つには、私たち日本国民は、知らず知らずのうちに皇室の御恩を受けていたことがよくわかった。同書によれば、例えば政治は権力闘争の場でもあり、必然的に「敵味方に分かれて争う」ことになる。もちろん厳しい国際社会の中で生き延びていくには、国益のために戦う政治家が存在しなければならない。しかしそれがエスカレートすれば、日本の社会はやがて分裂してしまいかねない。そこで、政治闘争の圏外にあって、伝統的に国家国民の安寧を「祈る存在」である皇室が、争いの度が過ぎないように抑制し、緩和し、分裂を防ぐ力となっているのだ。これはもしかすると、武家社会の時代から、そのような御存在だったのかもしれないと思った。

また、天皇皇后両陛下は、日本全国津々浦々まで御巡幸されることで、それぞれの地域の活性化・再生に寄与されている。同書によれば、例えば陛下をお迎えすることによって、各地域の人々は、

「誰に会っていただくのか」
「何をご覧になっていただくのか」
「何を召し上がっていただくのか」

といったことを考えなければならなくなる。そのことによって自分たちのアイデンティティが再確認され、「あぁ、私たちの郷土にはこんなに素晴らしい人物がいて、こんなに素晴らしい景色や文化があったのだ」という気持ちが湧いてくる。つまり天皇陛下の御巡幸をきっかけにして、誇りをもって再出発することが可能となるわけだ。

上皇陛下の沖縄への思いも、私が何となく想像していたレベルをはるかに超えていた。上皇陛下は皇太子時代から沖縄を何度も御訪問され、各地の慰霊碑等を回って真摯に祈り続けられている。それだけでなく、沖縄の歴史や文化を深く御理解され、「琉歌」という沖縄諸島に伝わる「八八八六」を基本とする短い詩を自らお詠みになられている。
上皇陛下の沖縄への強い思いは県民にも伝わっていて、平成5年4月に沖縄を御訪問された折には、陛下を奉迎する提灯行列に5,000人もの人々が集まった。そして、ホテルの窓から提灯を振りかえされた陛下に対し、「万歳」の声が鳴り止まなかったそうだ。

また、被災地への御訪問は、被災地の方々の負担にならないように、必ず「日帰り」の強行軍でお出かけになるとのこと。そして避難所ではひざを折って人々のお話に耳を傾け、被災者を元気づける御言葉をかけられる。阪神淡路大震災や東日本大震災の折、避難所を見舞われた上皇上皇后両陛下の御姿を記憶されている人も多いであろう。

この他にも、国際親善などさまざまなお働きが、私たち日本国民にとって、どれだけ大きな恩恵を与えてくださっているのか、とても想像がつかないほどではないかと思う。
もちろん天皇の御仕事はそれだけでなく、年間を通して数々の宮中祭祀が厳格に行われ、その合間の日程で数多くの行事をこなされているのであり、歴代の天皇陛下がすさまじい努力を続けてこられたのは間違いない。そしてその伝統は、今上陛下にも確実に受け継がれている。そのようなことを、私は本書で学ぶことができた。またしても、自分が何も知らなかったことを思い知った次第である。

さて、受けた御恩に対しては、恩返しをするのが人の道であろう。私自身がこれからの人生で何をしていけばいいのか、いったい何ができるのかを改めてよく考え、できることを今後もコツコツ続けていきたい。

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