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今週の怪談プレイリスト(11月3日号)

最近見聞きしたなかでおもしろかったものをご紹介します。なるべくアップロードが新しいものを選んでいます。便宜上数字を割り振っていますが、ランキングではありません。

1. あこうテック(ちぐはぐ)「変質者」

お笑いコンビ「ちぐはぐ」のツッコミとして活躍するあこうテック氏。女子校周辺に出没する変質者といういかにも「ヒトコワ」なテーマだが、語りが進むうちに別の側面がじわじわと見えてくる。遅刻の理由や女子校裏門の風景など、本筋とは無関係な描写がとにかく具体的で、それが物語の説得力を生んでいる。

2. 松原タニシ「京都のトンネル」

映画「事故物件 恐い間取り」の原作者である松原氏。今作では有名な心霊スポットである「Kトンネル」についての実話が語られる。大きな起伏のない透徹した語り口により、知人の体験談、彼の体験談、また別の知人の体験談と継ぎ目なく物語がつながっていく。ミニマルテクノを延々と聞くような快楽に浸っているうちに、音色はいつのまにか増え、逃れられない複雑な交響を作り出している。

3.  牛抱せん夏「じゃない」

女優として活躍する傍ら、怪談師としても他に代え難い魅力を放つ牛抱氏。「お岩さんに憧れて女優になった」という彼女の怪談では、プロットではな情念が主役だ。登場人物のものでもあり、語り手のものでもあり、はっきりと区別することができないその情念と一体化したとき聞き手は、自分が安全圏にいることを忘れる。明快なプロットを持つ今作は、まさにその明快さによって感情移入を容易にし、聞き手は登場人物と同じ傷を負うことになる。

4. 壱夜「写真屋の店主」※題は筆者による

怪談師としてYoutubeやイベントで活躍する壱夜氏。この世もあの世も渾然一体となった怪異を語る彼から感じるのは、徹底した誠実さだ。一流のミステリー作家が読者に対してそうであるように、彼は聞き手に対して常に誠実なのだ。だから今作でも、「フリ」にあたる日常描写がラストに別の意味を持つとき、彼は大げさに振り返ることをしない。作り手と受け手の幸福な共犯関係がここにはあるのだ。

次回の更新は11月10日です。

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