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今週の怪談プレイリスト(11月10日号)

最近見聞きしたなかでおもしろかったものをご紹介します。なるべくアップロードが新しいものを選んでいます。便宜上数字を割り振っていますが、ランキングではありません。

1. 河本準一「あのときの灰」

人前で怪談を話すのは初めてという次長課長・河本氏。いつものファニーさを完全に抑えたその語り口は、「冗談ではない」という深刻さを醸し、聞く者の逃げ場をなくす。とある伝統的な怪談を換骨奪胎したような今作は、構造が共通しているからこそ余計に彼の歴史、彼の人柄、そして彼の負った傷の唯一性を強調する。

2.三木大雲「AI」

京都・蓮久寺の住職である三木氏。「怪談説法」と称して、怪談を通じて仏教の教えを広める活動をしている。AIという極めて現代的なモチーフで描かれる今作は、どんな時代にも残る、怪談の普遍的な本質を見事に伝えてくれる。電灯のない闇、他人の心、死後の世界、そして最先端技術。我々は今日も、ブラックボックスへの恐怖を抱いて日々を過ごしている。

3. 花房観音「山村美紗と死別して」※題は筆者による

現役バスガイドでもある作家・花房氏。まとまった怪談というより、エピソードトークの一貫として語られた今作から、花房観音、そして山村美紗という作家の業が垣間見える。放っておけば忘れられる記憶や事実を文字にして残すという行為は、おそらく「忘れられたくない」という思いを持つ異なものを必然的に呼び寄せる。今作が美談なのか怪談なのかは、聞き手が各々で判断してほしい。

4. Apsu Shusei「お遍路で出会った人」

紋様作家であり怪談蒐集家であるApsu氏。彼の怪談はつねに怪への憧れと敬意に満ちていて、いわゆる「ヒトコワ」に分類される今作でもそれは健在だ。一般的な価値観では犯罪者である登場人物に対して、彼は決してその行為を肯定しないものの、どこかでその人格に畏怖の念を抱いている。そのある意味で温かな視線が、今作にどことなく「品」をまとわせている。

次回の更新は11月17日(火曜日)です。

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