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イラストレーターの宣伝・営業術07 「ストーリーのコツ20」

(※ この記事は,『イラ通・スクール』の《宣伝・営業術07 ストーリー03「人の心を惹きつけるストーリーのコツ20」》を一部修正したものです)


■ 人の心を惹きつけるストーリーのコツ20

1. 自分軸をぶらさない

ストーリーを考える際に気をつけたいのが、自分軸との関わりです。
自分軸から離れたストーリーでは、ブランディングがぶれてしまいます。
自分軸をぶらさずに、ストーリーを考えましょう。

森流一郎の自分軸は、次のとおりです。

「とにかく小説が好き。読者の皆さんに楽しんでほしい」

ストーリーは、こんな感じです。

子供の頃から小説ばかり読んでいました。
友達と遊ぶのが苦手な私にとって、いちばんの親友が本でした。
小学校の休み時間も、ほとんどずっと本を読んで過ごしていました。
江戸川乱歩、筒井康隆、小松左京、平井和正、光瀬龍、半村良、眉村卓、星新一……
小説には、文章とはまた別の楽しみがありました。
それは、装画や挿絵です。
少年時代の私にとっては、生頼範義さんや武部本一郎さんといった挿絵家こそが最大のヒーローでした。
かつての私が書籍のカ装画や挿絵を見て心を躍らせたようにーー
「読者の皆さんが物語を楽しむお手伝いをしたい」
そんな思いを込めながら、日々絵を描き続けています。

自分軸とストーリーが一貫していますよね。

もしもこの森流一郎のストーリーが、次のような内容だとしたら、どう思いますか?

子供の頃、昆虫が大好きで、よく虫取りに行きました。
捕まえて来た虫を家に持ち帰り、虫の絵をよく描いていました。
「カブトムシの絵」「クワガタムシの絵」「カマキリの絵」
いつも、我が家は虫の絵だらけになっていました。
その時の原体験が、今のイラストレーターという職業につながっている気がします。

そして、キャッチフレーズが下のような内容だとしたら?

「何よりも小説が好き!」文芸系イラストレーター

何だかまとまりに欠けますよね?
これでは、読み手の印象がばらけてしまいます。
ブランディング効果は生まれません。

「子供の頃、昆虫が好きだった」のが本当だとしても、その体験は自分軸に基づいていないですよね。
だから、ストーリーにすべきではないのです。

「自分軸」は、団子の串です。
「ペンネーム」「タグ」「アイコン」「キャッチフレーズ」「ストーリー」の5つの団子を貫く、一本の串です。

「ストーリー」を考えているうちに、「自分軸」から離れてしまうこともあります。
「自分軸」がぶれないように気をつけましょう。自分軸とかけ離れたストーリーではブランディング効果はないです。
自分軸がしっかりとあって、その自分軸に基づいたストーリーでなくてはなりません。

2. 共感を得られる内容にする

共感を得て、ファンになってもらうことが、第一想起のイラストレーターへの近道です。
「熱い想い」「あなたならではの体験」「イラストレーターを目指す理由」などを語ることで、共感を得られる内容を目指しましょう。

3. シンプルに

人は、ついついアレもこれも詰め込みがちです。
しかし、シンプルな方が相手の心に刺さります。
ストーリーで語るのは一つのことに絞りましょう。

4. 特定の狭いジャンルに絞る

自分が第一想起を目指すジャンルを定め、1点集中のランチェスター戦略を取りましょう。

「ランチェスター戦略」とは、第一次世界大戦の際、イギリス人の F・W・ランチェスターが考案した、戦争で勝つための法則です。
それを田岡信夫が経営理論に応用し、「弱者(新規参入企業)が強者(既存の大手企業)に勝つための戦略」して世に広まりました。
弱者は、強者と同じ土俵で戦っても勝ち目はありません。
勝つためには、1点集中が必要なのです。

吉川英治の『宮本武蔵』は、日本の時代小説史上、屈指の名作です。
その小説の中で、宮本武蔵が吉岡一門73人と戦ったエピソードは「ランチェスター戦略」の良い例でしょう。
吉岡一門は、当時知らぬ人はいないほどの剣術の名門でした。
宮本武蔵も優れた剣豪ではありましたが、一人で剣術家73人と戦うのは無謀です。
はたして、武蔵はどう戦ったのか?
武蔵は吉岡一門をの田んぼに誘い込み、一本の畦道(あぜみち)で、1人ずつと戦ったのです。
周りから複数の人間に攻撃されれば、流石の武蔵でも勝ち目はありません。
一人ずつと戦ったことで、何とか勝利を収めたのです。
これこそが1点集中の戦略です

企業における「ランチェスター戦略」の例も、挙げてみましょう。

Amazonは今でこそ何でも売っていますが、最初は本のネットショップとしてスタートしました。
本のネットショップとして第一想起になった後、様々なジャンルの商品に広げていきました。

ユニクロのブレークは、フリースが大ヒットしたことがきっかけでした。
「フリースといえばユニクロ」として「第一想起」のブランドになった後、他の衣類も売れるようになっていったのです。

HIS も、「ランチェスター戦略」をもとに成功した企業として有名です。
今では大手旅行会社の一つとなりましたが、創業当初は後発の零細企業でした。
創業当初は、大手が見向きもしていなかったマイナーなバリ島に集中してツアーを販売しました。
バリ島でシェア1位を取ってから、「セブ」「プーケット」などに手を広げていきました。

イラストレーター業界には、上田三根子さん、木内達朗さん、網中いづるさんといったそうそうたる強者が揃っています。
彼女ら、彼らと同じ土俵で戦っても勝ち目はありません。

あなたが強みを発揮できるジャンルに1点集中し、まずはそのジャンルで「第一想起」のイラストレーターを目指すべきなのです。
1つの狭いジャンルで第一想起のイラストレーターになれば、業界内で、あなたの作風と名前を認知していただけます。
自然と他のジャンルにも、仕事が広がっていくでしょう。


5. 解像度を高める

ストーリーに具体的な例やエピソードを盛り込むことで、解像度を上げましょう。
オノマトペやセリフを効果的に使うと、より臨場感が出ます。
小説のような生き生きとした描写ができると、なお良いでしょう。

6. ありがちにならない

どこかで聴いたようなストーリーでは、相手の印象に残りません。
自分ならではのストーリーを考えましょう。
「イラ通式・マンダラチャート」に戻って、考え直してもいいでしょう。
そこには、あなただけのストーリーのヒントがあるはずです。

7. 嘘をつかない

自分の志や過去、あるいは現在進行形のストーリーを語る際は、真実であることがとても大事です。
M1チャンピオンになった錦鯉の物語は真実だからこそ人々の心を打つのです。
あれが創作のストーリーだったとしたら、興醒めではないですか?

虚偽のストーリーを語っても、いつか化けの皮が剥がれます。
決して嘘はつかないようにしましょう。


8. 実績を語らない。あくまでストーリーを語る

人は分をよく見せるために、ついつい自分の実績を語りがちです。
でも、実績で共感を得ることはまずできません。
あなたならではのストーリーを語りましょう。


9. 自慢話はしない。偉そうにしない。マウントを取らない

「実績を語らない」に近いですが、自慢話をしないことも大事です。
自慢話をされて、共感する人はいないからです。
自分をよく見せようとすればするほど、人は疎ましく思うものです。
泥臭くても、カッコ悪くてもいいのです。
ありのままの自分を見せることを心がけましょう。

10. 宣伝はしない

あなたも、SNSやWebで勝手に出てくる広告に、うっとおしい思いをしたことはないですか?
人は、宣伝・広告が嫌いなのです。
ストーリーが自分の宣伝になってしまうと、相手は引いてしまいます。
宣伝ではなく、相手が思わず身を乗り出すようなストーリーを考えましょう。


11. 切り口、見せ方を工夫する

ありがちな話も、切り口や見せ方次第で、新鮮になることがあります。
ありがちなストーリーになってしまった時は、視点を変えてみるのも一つの手です。


12. 自己開示

「まず自分の心の扉を開いて見せると、相手が好意を持ってくれる」ということが、心理学で明らかになっています。
なので、「実は、私ってこういう人間なんです」と、自分について開示すると、効果的なストーリーになります。


13. 失敗や挫折を語る

これも自己開示の一種です。
自分の失敗や挫折を包み隠さず語ると、人は共感し、応援したくなるものです。


14. 謎の解明

これも、物語の王道の一つです。
小説や映画では、大概の場合、何らかの謎があります。
ラブコメであれば、
「私が好きなあの異性の気持ちはどうなんだろう? 私のことを好きなのかな?? どうなのかな?」という謎の解明が、物語の柱となります。

私たちが物語に惹きつけられるのは、「謎を解明したい」という本能によるものだと思います。

15. 秘密の暴露

例えば、「映画の制作秘話」などを知ると、より興味を持ったりしますよね。
「普通は知られていない秘密を知りたい」というのも、人間の本能です。

よくない例えですがーー
「陰謀論」に惹かれる人が多いのは、秘密の暴露がうまく使われているからです。
「ほとんどの人が知らない秘密を、自分は知ってしまった」と思い込むことから、そのストーリーに強く惹きつけられてしまうのです。

受講生の皆さんは、世の幸せのためにストーリーを使ってくださいね。
あなたの秘密をストーリーで伝えれば、より多くの人を惹きつけることになるでしょう。


16. ギャップ効果を使う

数年前、『週刊少年ジャンプ』誌上で『鬼滅の刃』の登場人物のファン投票に関するネット記事を読んだことがあります。

第1回は主人公が1位でした。
ところが、第2回では、脇役の我妻善逸が一位となりました。
我妻善逸は、普段は臆病で弱々しい男です。
ところが眠りに入ると、がぜん強く、かっこよくなります。
このギャップが、人気の秘密でしょう。

ガンジーのあまりにも有名なスローガン
「非暴力、不服従」
も、ギャップ効果が使われています。
「非暴力」と「不服従」という一見反対の言葉を対比させることで、印象的で覚えやすいスローガンとなっているのです。

『新世紀エヴァンゲリオン』のオープニングテーマ曲は、
「残酷な天使のテーゼ」
というタイトルです。
「残酷」と「天使」という一般的には相容れない2つの言葉が、ギャップ効果を生んでいます。

人はギャップに惹きつけられる本能があります。
ストーリーでも、うまくギャップを使えば、人の気持ちを掴むことができるはずです。


17. 言葉の置き換え

F1ドライバーのアイルトン・セナは、「音速の貴公子」と呼ばれていました。この印象的な言葉のおかげで、F1に全く興味のない私もアイルトン・セナの名前を覚えることになりました。
これが「優勝実績多数のF1ドライバー」と言ったありがちな言葉だったとしたら、私が彼の名を覚えることはなかったと思います。

「速い」ということを「音速の貴公子」と言い換えたことが、世間での認知度を上げたのだと思います。

あなたのストーリーもありがちな言葉を置き換えることができないか考えてみましょう。
それがうまくできれば、より魅力的で、人々の記憶に残るストーリーになるでしょう。


18. 肉体や魂の動きや様子を描写する

「あなたのことが好きです」というよりも、
「あなたのことを思うだけで、胸の鼓動が速くなります」とした方が印象的です。
肉体や魂に耳を傾け、その動きや様子をありありと描写しましょう。
うまくできれば、より相手の心に刺さるストーリーになります。


19. 繰り返しを使う

「あなたのことが好きです」とだけいうよりも、
「あなたのことが好きです。とても、とても、大好きです」と、繰り返すことでより印象的になります。
韻を踏むのもいいでしょう。

20. 相手へのリスペクトを込める

例えば、雑誌の編集部にポートフォリオを送るのであれば、その雑誌へのリスペクトを込めた、ラブレターを同封しましょう。
「貴誌のことが大好きで、毎号、愛読しております」
「こんな記事に感動して、私も変われました」
「このダイエットの記事を実践して、5キロの減量に成功したこともありました」
という感じです。

直接営業に行く際も同じです。
いかに相手のことが大好きかが伝わる、具体的なストーリーを用意して、伺いましょう。

営業とは、愛の告白です。
相手のことを大好きであれば、気持ちが通じます。

興味のない相手に愛の告白をしても、相手にはそのことがわかるものです。「ああ、この人……、本当は私に興味がないのに、告白して来ているな」と思われたら、決して振り向いてはくれません。
つまり、仕事はきません。
営業の極意は、いずれ詳しく講義しますね。

今回はここまで。


参考文献は、別ページにまとめました。

https://www.illustrators-tsushin-school.com/general-5


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