イラ通メソッド・基本講義03「食べていくために必要なイラストレーションの8要素」
「すごくいいイラストレーションを描いているのに、あまり仕事がなくて食べていけないイラストレーター」がたくさんいます。
有名コンペで賞を取り、イラストレーション専門誌に掲載されているような人でも、実は仕事が少なくて、食べていけない人がいます。
その一方で、「作品はそこそこでも、しっかり食べていけるイラストレーター」もたくさんいます。
それはなぜだかわかりますか?
「いい絵を描けば仕事が来る」と、かつての私も信じていました。
でも、それは幻想でした。
「絵がいいだけでは食べていけない」のが現実なのです。
ではーー
仕事がたくさん来て食べていけるイラストレーターとなるにはどうすればいいのかーー
それを理論的に明らかにし、具体的なトレーニング方法を指導するのが、「イラ通メソッド」です。
(※この記事は、『イラ通・スクール』の講義を一部修正の上、転載したものです)
■ 駆け出し当時の森流一郎も、仕事が少なくて悩んでいた。
駆け出しの頃の私は、「いい絵を描きさえすれば、仕事が来る」と信じていました。
フリーランスになる前から、私はいくつかのコンペや公募展等で入選・入賞を重ねていました。 そのため、「これならイラストレーターとしてやっていける」と勘違いしていました。
大阪でグラフィックデザイナーとして勤めていた広告制作会社を辞めて、何のコネも実績もないまま、上京しました。
まずは東京小平市のボロアパートに住まいを定め、夜のバイト(変な仕事ではありません。牛めしの松屋です)で収入源を確保しました。
昼間は、大量に絵を描きました。
そして、週に数件から10件程度営業に回りました。
営業の場では、褒められることが多かったです。
だから、家に帰ってからは、
「今日、電話が鳴るかな?」「明日、鳴るかな?」と、仕事の依頼を心待ちにしていました。(当時はまだインターネットは普及していませんでした)
しかし、電話のベルはほとんど鳴りません。
かなりの件数を回りましたが、一向に食べていけるようにはなりませんでした。
「なぜ?」あんなに気に入られていたのにーー
それがなぜなのか、どうすれば仕事が来るのか?
当時の私はかなり考えました。
考え抜きました。
考えたことを実践するうちに、少しづつ仕事は増えていきました。
やがてーー
大変な多忙状態になっていきます。
当時考えたことにーー
「長年にわたってイラ通会員からイラストレーションのアドバイスを求められてきた経験」と
「大量の読書から得た知識」
を合わせて独自に考案したのがーー
イラストレーションで食べていくための「イラ通メソッド」です。
■ 「イラ通メソッド」の3本柱
「イラ通メソッド」では、食べていけるイラストレーターには3本柱が必要だと考えます。
具体的には、次の3つです。
1)人間性(マナー、性格、積極性、行動力など)
2)絵の力(食べていくために必要なイラストレーションの8要素)
3)営業・宣伝(営業力、宣伝力、マーケティング、ブランディングなど)
1)「人間性」
絵が良くて、営業や宣伝が上手でも、依頼してみて、マナーがなっていない人だと思われたら、次の仕事はありません。
あるいは締切に遅れるルーズな人も、2度と依頼が来ないでしょう。
レスポンスが早いことも、2度目3度目の仕事をいただける理由の一つとなります。
「人間性」がなければ、食べていくことが難しくなるのです。
2)「絵の力」
当然のことながらーー
絵が良くなければ依頼は来ません。
イラストレーターなのですから、「絵の力」は必須です。
3)「宣伝・営業」
人間性が良くて、絵が良くてもーー
営業・宣伝が上手くなければ、なかなか依頼は来ません。
偶然見つけてもらって仕事が来ることもあるかもしれませんが、それは運次第になってしまいます。
「営業・宣伝」も上手ければ、運に頼る必要がなくなります。
つまり確実に、たくさんの仕事に恵まれるようになります。
3本柱が揃っていたら
「人間性」が良くて、「絵の力」も不足なく、「営業・宣伝」も上手なら、もう仕事が来ない理由はありません。
この3つの柱を兼ね備えたとき、そのイラストレーターは容易に食べていけるようになります。
この「イラ通メソッド・基本講義」では、この3本柱のうちの
「2)絵の力」に関して講義していきます。
■ 食べていくために必要なイラストレーションの8要素
「イラ通メソッド」ではーー
「絵の力」には8つの要素があると考えます。
8つの要素とは具体的には、次の通り。
1)画力
2)センス
3)世界観
4)表現力
5)柔軟性
6)時代性
7)大衆性
8)オリジナリティ
それぞれを簡単に解説します。
1)画力
画力とは、基本的な絵の技術・知識です。
8要素の中で、最も基本となる要素です。
具体的には、「デッサン力」「遠近法の理解」「色彩理論の知識」「構図の知識」「画材の扱い方」などとなります。
2)センス
センスが売り物の雑誌で、センスの悪いイラストレーションを使いたいはずがありません。
センスの良いイラストレーションが使われたパッケージの商品は売り上げを伸ばすでしょう。
センスの良さは、イラストレーションに欠かせない要素なのです。
3)世界観
ここでいう「世界観」とは、「その人ならではの独自の世界の見え方・感じ方」のことです。
優れたイラストレーターは、目の前のモチーフをそのまま正確に紙に描き写すわけではありません。
そのイラストレーター独自の世界観という名のフィルターを通して描きます。
宇野亜喜良さんの作品には、宇野さんの世界観が反映されているしーー
和田誠さんの作品には、和田さんの世界観が反映されています。
独自の世界観が、絵に深みを与えるのです。
4)表現力
どんなに独自の世界観を持っていても、それを表現できる力がなければ、良いイラストレーションは描けません。
そして、イラストレーションで表現されるのは世界観だけではありません。
イラストレーターの魂・感情・思想などが表現されることもあります。
それらが見事に表現された時、作品は見るものの心を打ちます。
5)柔軟性
「柔軟性」とは、「クライアント様の要望に合わせて、柔軟に、さまざまなモチーフで、どんなシーンでも描きこなせる力」のことです。
プロのイラストレーターは、クライアントから求められれば、なんでも描く必要があります。
例えば、こんな要望もあります。
「朝のゴミ出しをするサラリーマン」
「おしゃれなレストランで食事をするカップル」
「新型コロナで診察している様子」
「ヨガのポーズ」
「手相」
「ビッグバンの様子」
「医学関連の解剖図」
「戦国時代の合戦の様子」
「未来の宇宙戦争の様子」
などなど。
どんな依頼が来ても描ける力が必要なのです。
それが柔軟性です。
6)時代性
イラストレーションは、「今」という時代の中で生まれ、消費される存在です。
時代遅れのイラストレーションを使いたい雑誌や書籍は稀でしょう。
だから「今」という時代性を感じられる作品であることも大事なのです。
7)大衆性
イラストレーションはごく一部の人だけに愛される作風では、仕事が少なくなりがちです。
仕事が少なくては食べていけません。
より多くの人に好かれる大衆性も、食べていけるイラストレーターには必要な要素なのです。
8)オリジナリティ
世界中でただ一人のオンリーワンの存在になることが、食べていくためには大事です。
同じ絵を描くイラストレーターはいないので、競合がいなくなります。
世界中の他の誰でもない、「あなたにこそお願いしたい」と思われるイラストレーターになるのです。
そうなれば海外からも仕事が来るようになるでしょう。
■ 8要素をバランス良く持とう
8つの要素がバランスよくあるイラストレーターはたくさんの仕事に恵まれる可能性が高いです。
でも偏りがあると食べていくのは難しくなります。
よくある二つの例を見てみましょう。
例1)アート寄りのイラストレーター
独自の世界観とオリジナリティの高い作風のイラストレーターが時々います。
圧倒的にすごい絵を描きます。
コンペなどでも受賞歴があったりします。
でも、仕事は少ない人がいるのです。
その理由は、「柔軟性」や「大衆性」が低いからである場合が多いです。
「アート寄りのイラストレーター」は、自分の得意なものなら素晴らしい作品を描くのですがーー
「朝のゴミ出しをするサラリーマン」とか
「おしゃれなレストランで食事をするカップル」
といったお題を出されても、うまく描けない人がいるのです。
これでは仕事は少なくなります。
なので、イラストレーションで食べていくことが難しいのです。
これが最初に書いた
「すごくいいイラストレーションを描いているのに、あまり仕事がなくて食べていけないイラストレーター」
なのです。
例2)ありがちなタッチのイラストレーター
ありがちなタッチのイラストレーターは、多いです。
「柔軟性」「大衆性」は高いけれど、「オリジナリティ」「世界観」などが弱い人です。
依頼する側から見ると、似たようなタッチで描く人が多いので、他の誰かに頼んでも、たいして違いがありません。
誰に頼んでもいいわけですから、値段の安い人に頼みたくなっても仕方がないでしょう。
ありがちなタッチのイラストレーターは、他の似たようなタッチのイラストレーターから仕事を奪われないために、値段を下げることになりがちなのです。
結果として激安の仕事ばかりになり、なかなか食べていけません。
「オリジナリティ」や「世界観」を高めないと、良い報酬をいただくことは難しいのです。
働けど、働けど、食べてはいけないイラストレーターに陥ってしまいがちなのです。
しかし、ありがちなタッチのイラストレーターであっても、「人間性」や「営業宣伝」の力で補うことで食べている人もいます。
それが、最初に書いた
「作品はそこそこでも、しっかり食べていけるイラストレーター」
なのです。
この「イラ通メソッド」では、自分の欠点を知ることが大事です。
その上で、不足部分を伸ばすトレーニングをしましょう。
あるいは他の要素で補うことで食べていく方法を考えるのです。
そうして、「イラストレーションで食べていく」ことを目指します。
ぜひ、あなたも、食べていけるイラストレーターになりましょう!
「イラストレーターズ通信」は経済的にとても苦しく、森流一郎は借金をしてなんとか運営を続けております。もしよろしければ、サポート(投げ銭)をお願いします。団体の活動資金とさせていただきます。