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イラ通メソッド・基本講義06 イラストレーションの8要素の二つ目「センス」

(※ この記事は,『イラ通・スクール』の講義を一部修正したものです)


■ いいイラストレーションとは、画力だけではない。

ビートルズの音楽を聞いたことがありますか?
彼らは、歴史上最も偉大なバンドともいわれています。

私も大好きです。
素晴らしい曲の数々に心を揺さぶられます。

でも彼らは、技術的に「上手い」わけではありません。
技術的には、今のアマチュアバンドにだって、ずっと「上手い」人はたくさんいるでしょう。

でも私の心を揺さぶるのは、ずっと「上手い」アマチュアではなく、ビートルズ自身の演奏です。
いい音楽とは、技術だけではないのです。

それは絵も同じです。

葛飾北斎は西洋美術的なデッサンはできませんでした。
遠近法も正確に理解していたわけではありません。
でも彼は、世界美術史上最大の画家の一人です。
西洋でも高く評価されています。

横尾忠則さんは、史上最高のイラストレーターの一人だと思います。(今は画家ですが)
でも技術的に上手いかどうかを考えると……
正直に言って、決して「上手い」とは感じられません。
ご本人も、「上手く描かないようにしている」と、どこかでおっしゃていた記憶があります。

「良いアートは、技術ではない」と言うことです。

それではーー
「良い絵」とはなんなのでしょう?
そしてーー
「仕事のくる絵」とはどんなものなのでしょう?
その答えは、「食べていくためのイラストレーションの8要素」を順に解説する中で、徐々に明らかにしていきますね。

■ ビートルズ、北斎、横尾忠則には、飛び抜けたセンスがある。

ビートルズの素晴らしさの一つは、その音楽的センスです。
技術的にはあまりうまくはないですが、天才的なセンスがありました。
それまでの音楽が色褪せて見えるほど斬新なセンスで、ロック・ポピュラー音楽に革命を起こしました。
現在のロック・ポピュラー音楽は、その大半がビートルズによる革命の影響をを受けています。
それほど大きな影響を与えたバンドは、後にも先にもビートルズだけです。

北斎もずば抜けたセンスがあります。
代表作の一つ『冨嶽三十六景 甲州石班沢』を見ても、そのセンスの素晴らしさに息を呑みます。

『冨嶽三十六景 甲州石班沢』

世界的にも有名な波のデフォルメがこの作品でも使われています。
このデフォルメ・センスは、当時のヨーロッパ美術界にはなかったものです。
今もなお、世界中の人々が、この波を引用しています。
構図も見事です。
霞む富士の裾野の左側を省略するセンスが光っています。
こうしたヌケの取り方のセンスが、実に日本的です。
これを藍摺絵で表現した色のセンスもすばらしいです。(私の作品に藍色系の色でまとめたものが多いのは、藍摺絵の影響です。)

何もかもが一級品です。

北斎の作品を初めて見たヨーロッパの人々に与えた衝撃は、今の私たちの想像以上のものだったと思います。

ルネッサンスで一旦完成したヨーロッパ絵画は、数百年間それを超えられずにいました。
そこに輸入されてきた北斎をはじめとする浮世絵が、ヨーロッパの人々に衝撃を与え、印象派を生みました。
それがその後の現代絵画への地平を開いたのです。


横尾忠則さんのセンスも凄まじいものがあります。
例えば、『うろつき夜太』(柴田錬三郎・著)の挿絵を見ると、めまいがするほどのセンスに圧倒されます。

https://www.kokusho.co.jp/catalog/9784336056764.pdf

「さすが!」としか言いようがない、ぶっ飛んだセンスですよね。
見る者の魂にグサグサと刺し込んでくるような鋭利なセンスです。

ただし、彼らの素晴らしさはセンスだけではありません。
他の要素もあるのですが、それは講義を進めるに従って明らかにしていきます。

イラストレーションも、技術だけで人の心を揺さぶることはできません。
センスが必要です。
センスが飛び抜けていれば、少々技術的に未熟でも人の心を揺さぶることができるのです。

技術的には確かに上手なんだけど、どこか野暮ったい絵ってありますよね。
アカ抜けない絵。
泥臭い絵
これは、センスがないことが原因です。
つまり技術的に上手でも、このセンスがないと、ただ上手なだけでつまらない絵になってしまいがちなのです。

ファッション雑誌や広告の世界では、センスのないイラストレーションは、ほぼ使っていただけません。
センスのないイラストレーションを載せるということは、「うちの雑誌(あるいは会社)はセンスがない」と世の中に表明しているようなものだからです。
センスがなければ、どんなに上手い絵でも、お仕事で使っていただく機会が少なくなるでしょう。

逆に、技術的には多少下手でもセンスの良いイラストレーションなら、いいお仕事に巡り会う可能性があります。
使われる場にもよりますが、一般的な広告や雑誌・書籍の仕事では、技術以上にセンスを求められることも多いです

つまりーー
ビートルズが技術的にはそれほどではなくとも、世の中の人々が熱狂的に支持したようにーー
技術はそれほどでなくとも、センスが良ければ、そのイラストレーターには仕事がたくさん来る可能性があるのです。


■ センスの良い画家・イラストレーターの例

センスの良い画家・イラストレーターはたくさんいます。

例えば、マチス。
独自のセンスで、世界の美術史に名を残した巨匠です。
デフォルメのセンスも色のセンスも、超一流です。

https://www.google.co.jp/search?q=%E3%82%A2%E3%83%B3%E3%83%AA%E3%83%BB%E3%83%9E%E3%83%86%E3%82%A3%E3%82%B9+%E7%94%BB%E5%AE%B6&source=lnms&tbm=isch&sa=X&ved=2ahUKEwiHmYSioo_8AhWVZd4KHQ0dBNMQ_AUoAXoECAEQAw&biw=1440&bih=644&dpr=2#imgrc=soC47p2tDF2anM

あるいはホックニー
都会的で垢抜けたセンスが光る、現役の巨匠です。

https://www.google.co.jp/search?q=%E3%83%9B%E3%83%83%E3%82%AF%E3%83%8B%E3%83%BC+%E7%94%BB%E5%AE%B6&tbm=isch&ved=2ahUKEwjer5ajoo_8AhWBRvUHHbRqA90Q2-cCegQIABAA&oq=%E3%83%9B%E3%83%83%E3%82%AF%E3%83%8B%E3%83%BC+%E7%94%BB%E5%AE%B6&gs_lcp=CgNpbWcQAzIFCAAQgAQ6BggAEAcQHjoJCAAQBBCABBAlUIgKWLYbYOYfaABwAHgAgAGwAYgB6QeSAQM4LjKYAQCgAQGqAQtnd3Mtd2l6LWltZ8ABAQ&sclient=img&ei=fl-lY974NIGN1e8PtNWN6A0&bih=644&biw=1440

センスの良い日本人イラストレーターとしてまず名前が浮かぶのは、安西水丸さんです。
どの作品を見ても、画面の隅々まで、洒脱なセンスに満ちていています。
安西さんは、間の取り方のセンスが絶妙だと思います。

https://www.google.co.jp/search?q=%E5%AE%89%E8%A5%BF%E6%B0%B4%E4%B8%B8&tbm=isch&chips=q:%E5%AE%89%E8%A5%BF%E6%B0%B4%E4%B8%B8,g_1:%E3%82%A4%E3%83%A9%E3%82%B9%E3%83%88:btZAWj2vdP0%3D&hl=ja&sa=X&ved=2ahUKEwi0tdmMl4_8AhXZTPUHHQBsAqIQ4lYoAnoECAEQKQ&biw=1425&bih=644

センスの良い日本人イラストレーターの代表として、和田誠さんも忘れてはならない存在です。
どの作品も、完璧にまとまっています。
必要最低限の線しか使われていません。
余分なものはひとつもなく、必要なものは必ずあります。
省略のセンスが並はずれているのです。
単純な線、1本1本にセンスを感じます。

https://www.google.co.jp/search?q=%E5%92%8C%E7%94%B0%E8%AA%A0+%E3%82%A4%E3%83%A9%E3%82%B9%E3%83%88&tbm=isch&ved=2ahUKEwik64qml4_8AhXQQPUHHU6cB8QQ2-cCegQIABAA&oq=%E5%92%8C%E7%94%B0%E8%AA%A0&gs_lcp=CgNpbWcQARgBMgUIABCABDIFCAAQgAQyBQgAEIAEMgUIABCABDIFCAAQgAQyBQgAEIAEMgUIABCABDIFCAAQgAQyBQgAEIAEMgUIABCABFCOBFiOBGC9EGgAcAB4AIABWIgBqwGSAQEymAEAoAEBqgELZ3dzLXdpei1pbWfAAQE&sclient=img&ei=_FOlY6T9CtCB1e8PzrieoAw&bih=644&biw=1425&hl=ja

ヘタウマのセンスに優れた人といえば、湯村輝彦さんです。https://www.google.co.jp/search?q=%E6%B9%AF%E6%9D%91%E8%BC%9D%E5%BD%A6&tbm=isch&ved=2ahUKEwj08t2Zo4_8AhXUCt4KHTtwA4cQ2-cCegQIABAA&oq=%E6%B9%AF%E6%9D%91%E8%BC%9D%E5%BD%A6&gs_lcp=CgNpbWcQAzIFCAAQgAQyBQgAEIAEMgUIABCABDIFCAAQgARQzQRYzQRgsBFoAHAAeACAAU2IAZkBkgEBMpgBAKABAaoBC2d3cy13aXotaW1nwAEB&sclient=img&ei=d2ClY7TbHtSV-Aa74I24CA&bih=644&biw=1440

色のセンスの良さでは、網中いづるさんも特筆すべきイラストレーターの一人でしょう。
https://www.tis-home.com/izuru-aminaka/

大森とこさんは、女性らしいセンスが光ります。https://www.tokoohmori.org/

丹下京子さんは、デフォルメのセンスが素晴らしいです。https://tange913.net/

SF的センスの高いイラストレーターと言えば、加藤直之さんです。https://twitter.com/naoyukikatoh


デフォルメのセンス」「色のセンス」「都会的で垢抜けたセンス」「洒脱なセンス」「女性らしいセンス」「SF的センス」などなど……

さまざまなセンスがあることがお分かりいただけたかと思います。
それぞれのイラストレーターが、自分なりのセンスを持っているものです。

だからーー
あなたは、あなたならではのセンスを育てることが大切です。


■ センスの育て方

それではーー
「センス」はどうやって育てれば良いのでしょうか?

「センス」を日本語にすれば、「感覚」ですね。
「感覚」と言ってしまうととらえどころがなく、意図的に育てることなんてできないような錯覚に陥ります。

でも「センス」は、決して生まれつきのものではなく、知識や情報の蓄積から、少しずつ育っていくものだと思います。
生まれてから見るものそして聞くものが、長い時間をかけてその人の心の中で熟成し、少しずつ育っていくのがセンスなのです。

一流のものにたくさん触れた人の中には、一流のセンスのエッセンスが溜まっていきます。
三流のものしか知らなければ、三流のセンスが蓄積することになります。
そんな人間が一流の表現をすることができるでしょうか? 
出来るはずがありません。

実はーー
絵を描くのが好きでたくさん努力しているけれどセンスの悪い人というのは、一流の作品をたくさん見ていないのです。
描く勉強ばかり熱心にしていると、陥りがちな罠なのです。

イラストレーションをたくさん見ていたとしても三流の作品ばかりだと、その人のセンスは三流にしかなりません。

レベルの高い作品を生み出すためには、一流の作品をたくさん見ることが必要なのです。
一流のイラストレーションや絵画、デザインといった芸術や表現にたくさん触れ、感じることで、高品質のセンスは養われるのです。

あなたの中に、センスの良いものをたくさん溜め込むことが大事です。
たくさん感動して、たくさんインプットしましょう。

今はインターネットでもいろんな作品が観れます。いい時代です。
http://pinterest.jp
https://www.behance.net
https://www.tumblr.com
なども、たくさんの作品に触れることができます。
見るだけはタダなので、どしどし利用しましょう。
「イラストレーターズ通信」( https://iratsu.com/ )もオススメですよ。

図書館にはたくさんの画集があると思います。
こちらも見るのはタダです。
借りることもできます。(大型の画集は借りられない図書館もあるようですが)
これも十分に活用しましょう。

モニターや印刷で見ると世界的な名画も薄っぺらに感じがちです。
できることなら原画もたくさん観ましょう。
良い画家の展覧会を見にいきましょう。
美術館やギャラリーを回って、本物に触れましょう。

まずは好きな作品をたくさん見ましょう。
その次には、古今東西、あらゆる芸術の名作に触れましょう。
原始時代の壁画も、ルネッサンスの名画も、印象派も、マチスも、ピカソも、浮世絵も、明治・大正時代の挿絵も、ヨーロッパのイラストレーションも、ホックニーも、横尾忠則も、安西水丸も、ぜーんぶ吸収しておくべきです。
あなたの中に溜まった膨大なストックが、長い長い時間をかけて熟成されます。
そこから、センスは育ちます。

ただし、センスの取得は容易ではありません。
長い年月をかけて、少しずつ養われるものだと思います。
焦らず、たくさんインプットし続けましょう。
生涯第一線で活躍するイラストレーターになりたいのであれば、それは必要なことだと思います。

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