「この世は落語」
30年くらい毎晩カセットやCDで落語を聴きながら眠りにつくのが習慣になっているという中野翠さんが2007年から2012年にかけて書いたエッセイをまとめた本です。
各エッセイは全て落語の演目が表題となっており、落語の内容、感想および関連した話題が語られます。例えば「遊びを体につけてもらいたい『百年目』」では芥川賞を受賞した田中慎弥氏の話から始まって志ん朝の「百年目」のまくらにつながり、「お前を見て、ワシはまた煩悩が起こってな『札所の霊験』」は三遊亭白鳥が落語として成立しているかギリギリのところで頑張っているのがスリリングで面白いということから、その白鳥が好きな落語として挙げたという圓生の「札所の霊験」の話になる、という具合です。落語の内容説明に使われているのは主に文楽、志ん生、圓生、志ん朝などのバージョンです。
巻末には中野さんと京須偕充さんの対談も収められています。
中野さんの落語に関する文章では「今夜も落語で眠りたい」という本の中の、落語に登場する人物の中では「居残り佐平次」の佐平次が一番好きで、与太郎がいろいろな落語に登場するように佐平次もいろいろな落語に登場する、という言葉が印象に残っています。すなわち、「付き馬」や「鰻の幇間」のだます男は佐平次だし、「雛鍔」や「真田小僧」に登場するのは子供時代の佐平次だ、という意見が面白いです。