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小さいしあわせを積み重ねる

「老後のしあわせとは、小さな仕合わせを次々と新しく積み重ねていくことではないか」
私の敬愛する、憧れの作家、幸田文の言葉だ。

幸田露伴の娘だ。
父の教えを軸に、江戸っ子の好奇心、探究心、行動力で、珠玉の小説や随筆を書いている。

きりりとした独自の文体で、凛とした文章を生み出す。
江戸っ子特有のおきゃんな言い回しや、形容詞を自在に使い、それでいて美しい文章になる。

書き始めたのは四十過ぎてから。
編集者に露伴のことを書くように、進められたからだ。

初期の、生活にそった小説やエッセイも、ああこういうふうに考えるのか、と目が醒めるように読んだ。

風呂敷の結び方に性格があらわれる。
箒の使い方、酒の肴の作り方などなど、頷きながら読んだものだ。

しかし、自分も年齢が近くなったからか、晩年の本、「木」、「崩れ」が好きになった。
七十過ぎて、抑えられない衝動に憑かれ、全国の樹木や、山崩れをじぶんの眼で見に行くのだ。
ときにはおんぶされて、山に登る。
《負うてもらっていけば、驚いたことに、私が自分の足で行くより、ずっと速いのだ。〜ひょいひょいと軽く行き、のしのしと強く行く》

五感で感じる、観察眼の確かさ、優しさが文章に表れている。
同じ年ごろになったのに、何故こういうふうに感じられないか口惜しいが、仕方ない。
物を書く人は、ひとしれず精進しているのだろう。

私のようにのほほんと生きていれば、こころを打つ文章が、浮かんで来るはずがない。
ま、比べることがおこがましい。

私は、小さいしあわせを積み重ねることに徹する。
今日は暖かい雨で、庭の植物たちが喜んでいるだろう。

「植物に心寄せないものは、心貧しきもの」と文先生も言われている。

最後にもう一言
「一生芽を出さずにいる種もあろうが、種が芽に起き上がるときの力は土を押しのけるほど強いのだ」

今回は、作家幸田文の魅力と紹介でした。
以前投稿した文の中で、幸田文が島に来たのは「崩れ」で読んだと記したが、あれは「木」の間違いだった。記憶違いで申し訳ない。


読んでくださってありがとうございます。
今日で投稿一か月。感謝いたします。


※ フォト 幸田文好みの、格子柄布の全集

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