漫画感想 ハクメイとミコチ

”生活感”を愉しむヒーリング漫画

 ハクメイとミコチという小人のような何かが主人公のファンタジー漫画というのが、当たり障りのない紹介文なのだが、個人的には"生活感"を肺いっぱいに吸い込んで、心地よいトリップをキメる疲れた現代人におすすめしたいヒーリング漫画と評したい。

 この作品の特長は可愛らしいキャラクターもそうなのだが、緻密な書き込みをされた背景やモノの数々だろう。細かい線の重なりが彼女らが生きているリアルさを演出している。食事、住まい、衣服、人々に至るまで、地に足のついた現実味とファンタジー感の絶妙なバランスをもって描かれている。

 面白いのが、主人公に感情移入するような自己没入型というより、彼女らの生活を覗き見ている第三者的感覚が強いのだが、それでいて作中の世界に入り込んだ没入感も同時に味わえるところだ。この作品は人間キャラクターは登場せず、ハクメイとミコチのような小人かイタチやクワガタなどの動物・昆虫キャラクターのみで進行する。そんな彼らが人間の"リアルな生活感"を醸し出しながら生きているのだ。イメージで言うと『鳥獣戯画』である。あえて作られたであろう、そのアンバランスさが作品への独特な没入感を生み出しているのだと思う。

 ストーリー構成は実に淡々としている。生活の中の小規模な事件が発生し、キャラクターたちがちょこまかとその営みを続けていくだけだ。手汗握るアドベンチャーでもなく、説教臭い人情劇でもなく、ただただ生きているだけだ。それでも面白いのはハクメイとミコチたちを取り巻く生活感の説得力だろう。例えば、彼女らの食事ひとつ取ってみてもリアルかつ美味そうなのだ。さらに彼女らは酒も嗜む。実に旨そうに呑む。読んでいるこちらも思わず晩酌したくなる。荒んだ心も酒に溶かされていくようだ。

 この漫画の強いところは何度でも繰り返し読みたくなるところだ。一口目にインパクトがある訳ではないが、読むたびに発見があり、噛めば噛むほど味が出る。1話完結でどこから読んでも良いので読み始める心のハードルも限りなく低く、大した事件も起きないので心を疲れさせずに読むことができる。そして、旨そうに酒を呑み、料理を食べる彼女らを眺めているうちに"酔い"が回ってきて心地よく夢の世界へトリップする...。そんな漫画だ。

 この気楽さと没入感の強さが私を虜にしている。読んだ回数では間違いなく人生でトップ5に入る作品だ。個人的には30を過ぎてありがたみが沁みる作品だと思う。ハクメイとミコチはどこか"おじさん"くさいのだ。見た目は可愛らしいのに、昼は一丁前に仕事をこなして夜は二人で酒を呑むのだ。その絵面におかしさを感じるのと同時に、妙な安心感を抱く。彼女らはいつまでも当たり前の生活を非現実な世界で織りなしていくのだろう。

~終わり~

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