SEISHI

これは一匹の精子の物語である。彼の名はスペルマ・セシー 
ある日彼は誕生した。彼が周りを見渡すと、そこはドーム状の倉庫の様な場所であった。周りには自分と同じ様な形の生き物がとてつもない数その場にいた。何万、いや何億は下らない数がいるだろう。
彼は隣の精子にたずねた「この場所はどこなのか、そして、私達はなぜ産まれたのか」
「何もわからない きっとここにいる精子達皆がそれをわかっていない」彼は答えた。彼は自分の名をカルピスと言った。
すると突然地面が大きく上下に揺れ始めた。セシーが困惑していると、カルピスが「この揺れはたまにやってくる。それからこの場所にいる俺達の体が浮遊し始める。そして上へ勢いよく吸い上げられていく。なんとか持ちこたえられればこの場所にとどまれるが、こらえきれなかったら最後、見えなくなるほど上まで行ってしまう。」
「上へ行った精子達はどうなるの?」セシーがたずねる。
 「わからない ただ吸い上げられていった同胞達の中で帰ってきた奴はいない ここにいる皆がそれを恐れている」
セシーは震えた。もし自分が吸い上げられてしまったら…それをかんがえると体が強張った。
 セシーが体に力を入れて浮遊に備えていると、隣のカルピスは体の力を抜いてリラックスし始めた。
「何してるんだよ そんなんじゃ吸い上げられて上へ行っちまうだろ!!」セシーがそう言うと、
「いやもういいんだ ここに居たって自分が何者なのか、どうして産まれてきたのかはわからない。 なら上に行ってみるさ」カルピスは答えた。
「もし上に何もなかったら そのまま死んでしまったらどうするんだよ!!」
「それでも構わない! ここで死を待つくらないなら挑戦して死んだほうがマシさ」
カルピスがそう答えた次の瞬間 カルピスの体が浮遊し始めた。そして勢いよく上へと登っていく。
カルピスが上へと登っている時、ふと下を見るとそこにはセシーの姿があった。
「おまっ なんで来たんだよ」
「僕も、このまま何もわからず死ぬのは嫌なんだ!!」
そのまま二人は上へ上へと登っていく。途中で彼らの意識は途絶えた。
次に目を覚ましたとき、そこはピンク色の洞窟であった。周りの壁はブヨブヨと柔からく弾んでおり、うっすら熱をおびて湿っている。
周りを見渡すと一緒に吸い上げられた精子達が居た。みな一様にいぶかしげに周りを見渡している。その中にはカルピスの姿もあった。カルピスの姿を見たときセシーはまるで自分の兄弟を見つけたような安心感に包まれた。
次の瞬間耳障りな謎の声が洞窟内にこだました。
「やぁ諸君こんにちは 君達は非常に運がいいぞ 生物になるスタートラインに立てるのだから 君達の前に吸い上げられた精子たちはティッシュ その前はコンドームに打ち付けられて死んでしまったというのに」
周りを見渡す だか声の主の姿は見当たらない。
すると精子の中の一匹が声を上げた。
「誰だ前は」それを皮切りに精子達が一様に声を上げる。
「ここはどこなんだ」「そもそも元々いた場所もどこなんだ」「俺たちはなんのために生まれたんだ」
「シャラップ!!」謎の声は恫喝するように言った。
「ここがどこで俺達は誰か〜?そんなこともわからないのか… はぁ…精巣の精子 腟内を知らずとはまさにこのことだな」謎の声は続ける 「そんなこと考えるよりとりあえず奥へ走ったほうがいいよ そろそろ溶けてくる頃じゃない?」
何のことかわからずその場に立っていると、一匹の精子が声を上げた「なんじゃこりゃぁ!! 体が…体が溶けてる」
「そう この洞窟の中の液体には君たちの体を溶かす成分が含まれている。じゃあ行くよ 3.2.1スタート」
その掛け声と同時におびただしい量の液体がこちらに押し寄せてきた。
俺達は走った 奥へ奥へ津波が来た方向とは逆の方向へ逃げるように走った。途中走れなくなった精子たちが津波にのまれていった。どれほど走っただろうか。もう足の感覚はない。私はなぜ走っているのだろうか。生きる理由も産まれてきた意味もわからないのになぜ走るのだろうか。生きる理由が無いのならば、死ぬ恐怖だってないではないか。もう楽になろう。セシーはその場で足を止めようとした。
するとどこからともなく声が聞こえた。
「諦めないでセシー あなたが生きる理由…あなたが産まれてきた理由は私に会うためじゃない」
あの謎の耳障りな声とは違う。優しい包み込む、母のような声だった。
「あなたは…あなたは誰ですか」セシーはたずねた。
「私は…私はラシー マンコーラシーよ」

一方その頃 人間界
男A 「ごめん なんか途中でゴム切れちゃって…中に出しちゃった…」
女A 「ふざけないでよ 妊娠したらどうすんのよ!!」
つづく

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?