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着たい物がある

 五月某日。行けるかどうかも決まっていない花火大会の開催決定のニュースに心が躍った。屋台のきゅうりの一本漬けを食べて、ずどんと鳴り響く花火の鮮やかさを目に焼き付けたい。……折角なら浴衣か薄物の着物がいい。
 私にとって着物は普段着のひとつだ。映画館でも居酒屋でも着物で出かけられるけれど、イベントだと乗っかりやすい。
「どうして着物なの?」と聞かれることもない。
 箪笥の中に一度も袖を通したことがない着物がある。厳密には服の上から羽織っただけ。淡いピンク色の薄物で、開いた冊子に菊や桔梗が描かれている。今はもう閉店してしまったリサイクル着物のオンラインショップで一目惚れした。
 実物は写真よりもかなり明るい色で、黒っぽい肌が際立ってしまいそうだったけれど、手持ちの薄羽織と合わせたら何とかなりそうだった。
 普段着なら他人に迷惑をかけない限りはどんな着こなしも許容されるべきだと思っている。
 手持ちの半幅帯だとしっくり来ないから兵児帯にするか、思い切ってレースのスカートと合わせてみようか。カジュアルに着るなら足元はエアリフトで外したい。そんな妄想ばかり膨らませて一年が過ぎた。
 着てこそ着物じゃないか。今年こそは!
 とりあえず予定を空けることから始めよう。

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