こだまにて
浮き立つ金曜日。いつもよりも不自然に膨らんだリュックを背負って新幹線に乗る。職場には他人の行動を話の種にする人が多いせいか、堂々とキャリーバッグを引けずにいる(結婚もせずに遊んでる~、みたいなやつだ)。
名古屋からこだまに乗り換えて、三人がけの自由席に座った。背もたれは倒せなかった。
終点の東京までなら何も気にせずに眠れるけれど、今日は三島で降りる。目的地はその先だ。寝過ごして小田原だったらどうしようかと不安になる。
案の定眠りこけて、慌ててスマホで時間を確認した。まだ大丈夫だ。
丸い窓を覗くと自分の顔が写り込んだ。どの辺りを走っているのかわからないけれど、暗い田園に街灯や民家の灯りがぽつぽつと光っている。宇宙船のようだ。
静岡は長い。眠気覚ましに音楽を聴きながらスマホを弄るのにも飽きて、リュックから文庫本を取り出した。長旅に文庫本は欠かせない。
今日のお供は食に関するエッセイだ。食へのあくなき追求心と正直な姿に舌を巻く、と同時にお腹が空いた。到着が遅れてしまうのを理由に夕食を摂らなかった。
そういえばホテルの近くに中華料理屋があったな。スパイスの効いた羊肉串とさっぱりとしたドラゴンハイボールの相性の良さや、カウンター越しに聞こえる中国語、壁に貼られたメニュー札もすっかりお気に入りだ。チェックインを済ませてから遅めの夕食にしよう。
聞き慣れた車内チャイムで何度か顔を上げた。やっと三島だ。ここからは在来線に乗り換える。
どの号車が改札に近いのか未だに覚えられず、階段まで小走りに急ぐ。
6分しかない!
足がもつれそうになりながらも幸せだった。
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