見出し画像

とうもろこし

 段ボール箱にいっぱいの野菜と果物が届いた。私が病気療養であまり外出ができないことを知った祖母が、わざわざ道の駅で買ってきたらしい。袋には生産者の名前や似顔絵のシールが貼ってあった。
 野菜は家の畑から収穫したものだと思っていたから、あれは食べるかこれはいるか、と電話で聞かれて、二つ返事で答えてしまった単純さを反省した。元気になったら祖母が好きな生花を贈ろう。
 きゅうりとミニトマトは冷蔵庫に余ってたナスと一緒に焼き浸しにして、とうもろこしは茹でて食べることにした。

 とうもろこしは本能のままにかぶりつくのが好きだ。
 器用な父親が指で外してくれた、横に連なった粒をつまむのも悪くないけれど、あれは晩酌のお裾分けだ。
 毎日楽しみだった小・中学校の給食でとうもろこしが出た時は素直に喜べなかった。「ごちそうさま」の挨拶まで皿に残った芯が目立たないように、なるべくきれいな面を表にした。人に見られるのが恥ずかしかった。
 下の歯を使って粒をこそぎ取るような食べ方を覚えた今でも、毛羽立ったような皮が芯に残ることも珍しくない。
 それでも一人なら気にする必要はない。粗熱の取れた鮮やかな黄色い実にがぶりと歯を立て、シャキッとした食感とみずみずしい甘みを味わう。口の周りが濡れても止められない。
 とうもろこしの食べ方にマナー講師がいなくてよかった。

焼き浸し。鶏肉も一緒に。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?