平日休みは突然に
「来週、どこかで休んだら?」
午後三時の休憩時間、先輩とストレスの解消方法について話していた時にそう言われた。
古巣の部署にいた頃は、特別用事がない限り有給を使うことはなかった。納期が遅かろうとやることは絶えずあったし、半日手が空くようなこともない。
今の仕事は個人プレーに近い。得意先の納期はある程度固定だから、月に一度は決まった曜日に休む先輩もいる。
「仕事に支障がないなら一日ぐらい休んでもいいじゃないか。来月になったらまた有給が貰えるのだから」というのは建前で、「体を壊してからでは遅い。元気に動けるうちに休んだ方がいい」というのが先輩の本音だった。ここ最近の動向を見て、平日に有給を取ることをやんわり勧められた訳だ。
今月は仕事納めまで駆け抜けるつもりだったから、突然降ってきた休みに戸惑いながらも、普段は出来ないことをやろうと決めた。
今日の目的はバルの平日限定ランチ。心に余裕があったら映画館か美術館に行きたかった。
入館証を首から提げた人や、仕事の話をしながら箸を付ける人たちの中で、ひとり酒を飲むのは奇妙な感覚だった。いっそのことオフィスカジュアルな格好をして、昼休みにしれっと飲酒をする人になりきれば面白かったかもしれない。
そんな妄想をしながら店を後にして、大きな本屋に寄った。
併設のカフェで熱いコーヒーを飲みながら、手持ちの文庫本を読み進める。始業前に本を読んでいたら珍獣でも見たように絡まれて以来、なんとなく開けずにいたから、誰にも邪魔されることなく没頭できた。
ガラス窓の外はまだ明るい。
空いてる電車でふかふかの座席に包まれながら帰った。夕食は冷蔵庫にあるカブと鶏肉でも焼こう。
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